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熱帯 星空案内

「noteを使って星空案内をしたらよいのではないですか」と言われていたものの、締め切りがないのをいいことに、このことを頭の片隅に置いたまま、ついには箱にしまって部屋の隅にしまっておこうとしていたのです。
寝かせて熟成するのを待っていたわけではないのですが、それよりも先に、noteにわたしの熱帯をテーマに星空案内をするというミッションが届きました。わたしの熱帯を持ち合わせていない私は、とりあえず森見登美彦さんの「熱帯」から星空案内を試みてみることに。

この「熱帯」には『千一夜物語』やアラビアン・ナイトという文字があり、そこからは星の綺麗な夜という感じがするけれど、奈良の青空、神保町の煙の中、雪の京都、不可視群島の嵐と、私の中ではあまり星という感じがしていませんでした。しかし、

プラネタリウムのドームのような天蓋は乳白色から濃紺へと美しいグラデーションを描いていて、残された夜の領域ではまだ星が瞬いている。

熱帯 pp256,262

と、池内さんの熱帯と、佐山さんの熱帯に描かれています。

描写から時間は明け方ですね。季節は吉田神社の節分祭からすると2月初めとしておきましょう。年は何年でしょうか、不可視海域図には1982という書き込みが見られ、後記でも年数がでてきますので、これもとりあえず。緯度ですが、熱帯地方として考えると南緯23度から北緯23度くらい、不可視海域図からすると28度という文字が読み取れます。かってながら熱帯にでてくる「観測所」は、京都大学花山天文台ではないかなと思っているのですが、そうだとすると北緯35度前後。多少の幅があってもご案内は可能ですので、このあたりとアバウトにしておきます。

ちなみに花山天文台にはカール・ツァイス社製の口径450 mm、焦点距離6750 mmのとても大きな屈折望遠鏡が設置されています。私も昇りたかったのですが、公開が中止されている期間だったのでまだ実物を見ることができていません。そこから地上を覗けたら白石さんの背中も、池内さんの背中も、さらに千夜さんや佐山さんの背中も見えるでしょうか。
話がそれますが、京都は遠いという方は、東京の国立天文台にも同じツァイス社製の200㎜の屈折望遠鏡がある第一赤道儀室、アインシュタイン塔ともよばれる太陽塔望遠鏡などがありますので、そちらに是非。

第一赤道儀室
第一赤道儀室(クレジット:国立天文台)

話を戻して星空を見てみますと、惑星が集合していて、一等星も多いという、明け方の空でもみやすい素敵な空になっていました。色とりどりです。南の空には、西側から赤っぽい火星、黄土色の土星、茶色の木星、そして東の空には、一際明るく金星が輝いています。土星の側には、真っ白に輝くおとめ座の一等星のスピカが、少し顔を上げると、同じく一等星で麦のような黄金色のうしかい座のアークトゥルスが。さらに北緯28度前後ですと、火星と赤さを競っているさそり座の一等星アンタレスが南正面に、北緯35度前後ですと水平線から少し上に見えています。
東の空の夏の大三角はみえるでしょうか、それとも、もう乳白色と表現された薄明の中に隠れてしまったでしょうか。

1982年2月3日  明け方北緯35度付近の星空

こうして星空を楽しんでいても、わたしの熱帯はみつかりません。謎を追う彼女のあとを追ううちに、世界の中心の謎の中から抜け出せなくなってしまったようです。かってを重ね「観測所」が天文台とすると、「驚異の部屋」は京都大学総合博物館ではないかとも思うのですが、ここには「遊星歯車利用の回転運動・直線運動変換機構」なるものがあります。遊ぶ星。良い言葉です。この機構、まるでそれは暗号解読器をくるくると回しては、謎が暗号に包まれているのか、暗号が謎につつまれているのか、なんだかわからずに右往左往直線運動をしている私のよう。くるくる回すうちに地球もくるくると回って、星も移ろい、時間もたっていきます。

せっかくなので「熱帯」からもう一つ星空案内を。後記の中で36年経ったとあります。8月頭という記載もあります。東京です。「ぽつぽつと街の明かりが点り」ですからそう遅くない時間ですね。すると、36年前にみた星空とほぼ同じ惑星、同じ一等星、星座がみえていました。今度は夏の大三角もしっかり見えているでしょう。東京の空では見えない天の川が見えているのはおまけです。

2018年8月3日 20時頃の東京の星空

わたしの熱帯はみつからないまま星空を楽しんでしまいました。
締め切りも守れませんでしたが、おかげかやりたいこともできました。
『本の星空案内』 
登場人物が見上げた星空を見上げてみたら、楽しそうです。

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