見出し画像

組織拡大しつつもカルチャーを保つ方法 〜アマゾンの事例から

 

目を疑いました。アマゾンの従業員数が1年前の1.5倍になっているとのこと。

アマゾンは配送能力を高めるため物流施設などで積極的な人材採用を続けており、3月末の世界の従業員数は1年前の1.5倍の127万1000人に増えた。


私も数年前にアマゾンジャパンで、上記の物流施設(フルフィルメントセンター)やカスタマーサービスセンターで↓とても多くの方々の採用↓に関わらせていただきましたが、それでも従業員数が1年で1.5倍になるほどの規模ではありませんでした。


ところで、組織マネジメントについての土地勘がある程度ある方であれば気になるのが、「そんなに人が入ってきたらカルチャーが薄れてしまうのでは?」ということではないでしょうか。これはアマゾンに限らず急拡大した組織で起こりがちな問題です。「らしさ」の喪失というやつです。

中途入社者は良くも悪くもいろいろなカルチャーや常識を外部からを持ってくるので、オリジナルのカルチャーは何もしなければ自ずと薄れ、喪われてゆきます。

本記事ではこのような急成長を果たしつつも、カルチャーを薄れさせないためにはどうすればいいかについて、アマゾンの取り組みをベースに、同社の人事マネージャー(Program Manager, HR Planning)だった観点から解説していきたいと思います。

※とはいえ離れて7年くらい経つので「最近は違う」ということがあれば教えてください。



アマゾンにおけるカルチャーとは何か


カルチャーの定義はいくつかありますが、ここでは大まかに「組織内における行動や言動として自然ににじみ出てくるもの」としておきます。

ここで「自然に」とは書きましたが、いわゆるエクセレントカンパニーと呼ばれる会社の多くはこのカルチャーを定義・方向づけして、言語化して、浸透のための施策を積み重ねています。

カルチャーについて詳しく学びたい人は、同じ日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)の唐澤さんのnoteをご一読ください。


それではアマゾンにおけるカルチャーは何かというと、やはり私は14項目のOLP(Our Leadership Principles)ではないかと思います。ほかにもカルチャーっぽいものとしては「Work Hard, Have Fun, Make History」という言葉がありますが、これはあくまでもワークスタイルですし、行動としては測定しづらいゆえマネジメントしづらいものとなります。なので、OLPでしょう。



OLPの14項目がとにかく優れている


このOLPはいわゆるAmazonian(従業員)の「バリュー(行動規範・判断基準)」というものに相当するものです。僕はこれがアマゾンらしさを最も凝縮したものだと思っています。

バリューはカルチャーと同義なのか?という疑問もなくはないですが、これらのバリューの実践の積み重ねによってアマゾンらしさが磨かれ、耕され、にじみ出てくるものなので、アマゾンの場合はカルチャーとほぼ同義で扱って良いと考えます。


OLPは具体的には以下の14項目になります。分量が多いですが、まずはご一読ください。(https://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=4967768051 より引用)

Customer Obsession
リーダーはお客様を起点に考え行動します。お客様から信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合にも注意は払いますが、何よりもお客様を中心に考えることにこだわります。

Ownership
リーダーにはオーナーシップが必要です。リーダーは長期的視点で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。

Invent and Simplify
リーダーはチームにイノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、同時に常にシンプルな方法を模索します。リーダーは状況の変化に注意を払い、あらゆる場から新しいアイデアを探しだします。それは、自分たちが生み出したものだけに限りません。私たちは新しいアイデアを実行に移す時、長期間にわたり外部に誤解される可能性があることも受け入れます。

Are Right, A Lot
リーダーは多くの場合、正しい判断を行います。 優れた判断力と、経験に裏打ちされた直感を備えています。 リーダーは多様な考え方を追求し、自らの考えを反証することもいといません。

Learn and Be Curious
リーダーは常に学び、自分自身を向上させ続けます。新たな可能性に好奇心を持ち、探求します。

Hire and Develop the Best
リーダーはすべての採用や昇進における、評価の基準を引き上げます。優れた才能を持つ人材を見極め、組織全体のために積極的に活用します。リーダー自身が他のリーダーを育成し、コーチングに真剣に取り組みます。私たちはすべての社員がさらに成長するための新しいメカニズムを創り出します。

Insist on the Highest Standards
リーダーは常に高い水準を追求することにこだわります。多くの人にとり、この水準は高すぎると感じられるかもしれません。リーダーは継続的に求める水準を引き上げ、チームがより品質の高い商品やサービス、プロセスを実現できるように推進します。リーダーは水準を満たさないものは実行せず、問題が起こった際は確実に解決し、再び同じ問題が起きないように改善策を講じます。

Think Big
狭い視野で思考すると、大きな結果を得ることはできません。リーダーは大胆な方針と方向性を示すことによって成果を出します。リーダーはお客様のために従来と異なる新しい視点を持ち、あらゆる可能性を模索します。

Bias for Action
ビジネスではスピードが重要です。多くの意思決定や行動はやり直すことができるため、大がかりな検討を必要としません。計算した上でリスクを取ることに価値があります。

Frugality
私たちはより少ないリソースでより多くのことを実現します。倹約の精神は創意工夫、自立心、発明を育む源になります。スタッフの人数、予算、固定費は多ければよいというものではありません。

Earn Trust
リーダーは注意深く耳を傾け、率直に話し、相手に対し敬意をもって接します。たとえ気まずい思いをすることがあっても間違いは素直に認め、自分やチームの間違いを正当化しません。リーダーは常に自らを最高水準と比較し、評価します。

Dive Deep
リーダーは常にすべての業務に気を配り、詳細な点についても把握します。頻繁に現状を確認し、指標と個別の事例が合致していないときには疑問を呈します。リーダーが関わるに値しない業務はありません。

Have Backbone; Disagree and Commit
リーダーは同意できない場合には、敬意をもって異議を唱えなければなりません。たとえそうすることが面倒で労力を要することであっても、例外はありません。リーダーは、信念を持ち、容易にあきらめません。安易に妥協して馴れ合うことはしません。しかし、いざ決定がなされたら、全面的にコミットして取り組みます。

Deliver Results
リーダーはビジネス上の重要なインプットにフォーカスし、適正な品質で迅速に実行します。たとえ困難なことがあっても、立ち向かい、決して妥協しません。


いかがでしたでしょうか。私はこのOLPは大きく3つの特徴があると思っています。


特徴1「行動として評価しやすい」


ご覧いただいてのとおり、概ね「行動として評価しやすい」ものとなっています。他人から見て「できているorできていない」を行動ベースで判断しやすい。内的な価値観やマインドセットではなく、行動というのがキモです。

多くの思想・宗教・国籍・文化的な背景を持っている従業員たちに対しては、日本企業がやってしまいがちな「ふわっとした信条やスローガン」は効力がありません。アマゾンのような企業はあくまでも行動としてはかる前提でバリューを設定する必要があります。

特徴2「そもそも、これらを実践できる組織は絶対に成長できる!という内容になっている」

次に、このバリューの品揃えそもそもがイケてるということです。事業の成長に効果的な行動がずらり、圧倒的な成長を実現するとしたらこれ、といったものが一通り並んでいる感があります。これらを実践できていてる(実践することの優先順位を高くしている)からアマゾンは強いのだという。

「計算した上でリスクを取ることに価値があります」や「リーダーは同意できない場合には、敬意をもって異議を唱えなければなりません」や「間違いは素直に認め、自分やチームの間違いを正当化しません」や「同時に常にシンプルな方法を模索します」などを実践できる強さ(本当に実践しきれているかというと、もちろん濃淡はあるものの)。


特徴3「量が多い」

14項目は多いほうかと思います。Googleの「10の事実」は10項目、LINEの「LINE STYLE」は11項目と多いほうですが、それよりも多い。

「項目が多くなっても覚えきれないでしょ」と3つくらいに絞るという方法もありますが、そうすると解像度が粗くなり、グローバル企業や複数の事業を抱える企業ではマネジメントに少し使いづらいので、多いほうが使い勝手は良いのかと思います。

ちなみに、14項目はカードにして社員IDカードと一緒にぶら下げられる用になっています(今もそうでしょうか?)。いつでも見られるので暗記する必要はありません。



「入口」で見る


それでは、このOLPをアマゾンはどうやってAmazonianたちに浸透させ、組織の急拡大により求心力の低下・カルチャーの希薄化を防いでいるのか。「入口=採用」→「日常=マネジメント」→「節目=評価」における施策を見ていきましょう。

まず入口=採用。これは多くの企業が実践できていないのですが、アマゾンでは「入社後の評価項目と採用時の評価項目をalign」させています。入社後は行動評価としてはOLPが用いられるので、入社時の時点でそれらの項目もしっかりと評価しましょうという考え方です(難しいのですが)。

具体的には、今までのキャリアにおいて、OLPに相当するアクションを発揮・実践できていたかを数回の面接で観られます。現場社員への面接官トレーニングでは、OLP各項目をどのように評価・判断するかの質問例なども豊富にあります。



「日常」で語る


また、日常=マネジメントや同僚間のコミュニケーションにおいてもOLPは活用されています。「それって、もっとThink Bigできないかな」や「○○さん、あのプロジェクトですごくOwnership発揮できていますね」や「ここもう少しSimplifyさせたいよね」という感じで、上司や同僚との会話の中に挟み込まれる=組織としての口癖にしているように、TOP層・エグゼクティブたち自らが実践しています。こういうものは、TOP層たちがまず実践し旗を振らないと会社全体がやりません。



「節目」で省みる


さらに、節目のレビュー(いわゆる人事評価)でも、各自のOLPについて360度評価がされます。もちろん14項目すべてを評価するのは現実的ではないので、「青田さんが発揮できていると思われる項目&もっと発揮を期待したい項目」をそれぞれ3項目ずつ、行動として表れた事実とともに書いてくださいといった形式で相互評価します。

そして大切な同僚たちを誠意をもって評価していくプロセスは「この項目はどういう意味だったか?彼のあの行動は該当するのだろうか」とOLPの意味に立ち返り、理解を浸透していく機会でもあります。

なお、プロモーション(ジョブレベルが上がること)の際には上長や周囲の数名からの推薦文が必要ですが、その際もこのOLPを体現できているかどうかは厳しく見られます。

---

ということで、本記事では組織拡大しつつもカルチャーを保つ方法を、アマゾンを例にとって解説してみました。効果的なバリューを設定し、入口・日常・節目で強化する。そしてTOP層自らが体現する。

一つひとつの取り組みは真似できなくもなさそうですが、何よりも重要なのはカルチャーの重要性を認識し、組織として優先順位高く取り組んでいることにあります。

カルチャーはにじみ出てくるもの(アウトプット)なので直接マネジメントすることはできませんが、カルチャーを生む一人ひとりの行動はマネジメントによって影響を与えられます。急拡大におけるアマゾン内部は、まさに今、カルチャー浸透の正念場ではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?