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港区ウエスト麻布ストリート:電脳巨人①

「俺たちは30年前の人類と比べて五倍くらい頭がよくなったわけじゃないよな。それなのに入ってくる情報量が10倍にも100倍にもなったら、何が起きるかあんたも想像がつくはずだ。」

世界は小さくなった。情報のスピードが早まるにつれて俺たちの体は良くも悪くもどんどんでかくなっていった。何かすりゃすぐ誰かの目に止まって反応が飛んでくるし、見たくもないニュースやコンテンツだって耳を塞ごうが目を閉じようが全身の毛穴からなだれ込んでくる。情報の受発信が多すぎてもう自分の心や体じゃコントロールできなくなってしまった。

あんただって思い当たることがあるはずだ。例えば何の気なしに開いているそのアプリ、なぜ起動してるのか自分でももうわからなくなってるんじゃないか?

でも考えてもみてくれ、俺たちは30年前の人類と比べて五倍くらい頭がよくなったわけじゃないよな。それなのに入ってくる情報量が10倍にも100倍にもなったら、何が起きるかあんたも想像がつくはずだ。

自分の心と身体がでかくなったことに気付かずに、好き放題振る舞えばそりゃ誰かとぶつかることになる。そんでぶつかられた方は反撃しようとしてまた腕をあげるかもな。でもその肘がまた誰かさんにぶつかっちまう。世界の大きさは変わらないのに俺たちがでかくなったおかげで地球はもうパンパンってわけ。

どこでも届く電波は俺たちを繋げたわけだけど、そのおかげで俺たちが幸せになったかどうかはよくわからない。始まりは誰かを幸せにするためだったのに、出来上がった頃にはどこが違うものになっているのは、悲しいかなこれに限らずよくある話なんだ。

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少し前置きが長くなったかな、いろんなことをそれらしく喋りたくなるのは父親譲りの病気なんだ、許してほしい。今回はそれぞれの思惑のために電波と情報で自分をパンパンに膨らませた巨人のお話。インフルエンサーと呼ばれるようになったそいつらは、あらん限りの夢を写真にねじ込んで、それを観る奴らに憧れを抱かせる。綺麗な顔で、綺麗な服で、綺麗な場所とか食事に行って、綺麗な写真をSNSにアップする。平凡で庶民な俺たちは少しでもその華やかな生活の匂いを嗅ぎたくてそいつらをフォローしていくわけだ。逆に言えばインフルエンサーって奴は自分を膨らませてどれだけの人に見られて支持されるかが勝負って話。世の中に楽な仕事はないっていうけど、自分の大きさが金に変わるなんて不思議な時代になったもんだ。


俺が少しの間だけつるんだ巨人はサツキって呼ばれてた。あいつは巨人らしくちゃんと顔も立ち振る舞いもそりゃ綺麗だったけど、何よりどこにでもいそうな女の子だった。合コンでいたら今日は当たりかな、と思うくらい。そんなサツキとの出会いは実に間抜けなものだった。

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