「これからの住まい」(川崎直宏著)の展望について

市浦ハウジング&プランニング社長の川崎氏より贈られた本。これからの住まいのあり方を考えさせられる。
建築に関わっているものにとって、住まいの貧しさは大いに気になるところであり、戦後すぐの公営住宅、公団住宅の政策が、高度成長期を終えて、国の政策としても見えなくなっていることが根本にある。著者の提唱する「ハウジング・スモールネス」について、その展望を考えてみる。
序章において、問題点の指摘は具体的であり要点を撞いている。まずOECDの指摘は「日本では土地・建物の所有者の権利の至上のもの」(p.7)とあり、これは敷衍すれば、建築基準法の問題点でもある。最低限の基準を満たせば、建てることが自動的に権利として保証されている現在の建築確認制度を、何等かのかたちで根幹から変えていかなくてはいけない。安普請の家やアパートを建てては壊して、経済だけ回している社会の問題だ。建築や住宅に社会財としての性格があることを、行政も国民も確認できていない。社会経済理念として「規模の経済」から「範囲の経済」を方向づけるべき(p.11)というのはまさにその通りである。
第1章で戦後住宅史の流れをたどるところから、ストック型社会のハウジングの基本として、地域主導を導いているのも、当然の流れであると思う。そうしたときに、建築基準法が全国一律の規制となっており、地方分権一括法があるのに、建築行政が国主導になってしまっていることに大きな課題がある。
第2章「官」から「民」へでは、市場重視政策であったことが、問題点として述べられている。結局はハウスメーカの全国規模展開や都市での大規模再開発を優先してしまった流れを、どのように変えていくことができるかである。住生活基本計画がうまく展開しない根本も、そのような既得権と企業戦略に、政策が対抗できていないことにあるのではにないか。指摘のように、構造計算偽装や、耐火性能偽装、杭施工偽装、免震ゴム偽装、すべて市場経済の中で利益追求の姿勢から生まれたものである。(p.65)
第3章「つくる」から「つかう」へでは、ストック重視政策が待たれるところである。「200年住宅ビジョン」が示されたと言っても、現実の40年にも満たない住宅の寿命とのギャップは大きく、性能評価制度や融資制度などは、まだまだ流れを変えるようになってはいない。特にマンションについては、区分所有法自体の問題もあって、100年200年持たせることは、容易でない。
第4章「所有」から「利用」へは、前章の言い換えでもあるが、賃貸住宅政策と言う意味では、公営住宅の復活や自治体の強力な支援が不可欠であろう。「まちとシェアする賃貸住宅」(p.135)などという、まだ少ない展望も見られる。
第5章は「住まい」から「暮らし」である。住生活基本法が、住宅局の当初案では「住宅基本法」であったことに対して、「建築基準法」の上位法として「建築基本法」制定を提案している立場から、建築基準法をそのままにして住宅基本法はなかろうとパブリックコメントで指摘したことを思い出す。立法時点でも、国交省主導であり、セイフティネットの視点が弱く、もっと厚労省などとも連携が必要という指摘は、建築学会における議論でも随分とあった。戦後の住宅政策が数の充填であったことから、多くの予算を投入して公営住宅、公団住宅を建設してきたが、時代が変わった。しかし、それを市場に委ねるということではなく、いまこそ、弱者のための質の良い公営住宅の増強が図られるべきだと思う。行政の責務(p.159-160)と述べているのは、まさに同感である。そうなってくると、ますます地域として、自治体としてどう取り組むかということになる。住宅建設そのものを、自治体として、より強いコントロール下に置くことができないといけないし、それを可能にするための住民の意思決定への、積極的な参加が求められる。
第6章「在宅」から「地域」へは、まさに住宅福祉政策におけるキーワードである。すでになされたいくつかの試みに対して、その検証も必要であろう。都市と地方での状況は随分違う。人口減少社会、少子高齢化に対する住宅政策は、試行錯誤で進めるしかないようにも思う。
終章は「ハウジング・スモールネス」によるまとめである。グローバルな市場経済が席捲している現代の社会の中で、住宅産業も従来の規模効果と宣伝による市場拡大が現実という現実がある。そして、そのためには、地域ごとのルールではなく、建築基準法や品確法のような全国一律の規制基準が便利である。福祉政策として弱者のための住宅をどうするかという問題も、国はデータや情報の整備公開までで、実際の政策は自治体ごとに進める必要がある。その意味での、グローバルでなく「スモールネス」ということなのだと思うが、地域で回るようにするためには、ハウジング・コンサルタントとしての専門性が、短期的収益優先でなく持続可能社会構築の社会貢献として機能する必要があり、また、そのような専門性を社会が尊重するべく自治体として政策展開して行く必要があろう。土地・建物の私有権を強調した形の建築基準法の存在が、そのような展開に大きな制約となっていることを感じている。建築基本法制定を訴えたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?