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漱石を売る

尾道の古本屋さんで買った本。

漱石を売る/出久根達郎

古本屋店主の出久根達郎の日々を綴ったエッセイ集。ある日漱石の手紙(それも哀悼文)を入手する。内容が内容なので買う人もなく困ってるなんて話をしているとそれに乗っかる人あり。アイデアマンはいるもので。
あるイベントでその手紙が大きな役割を果たす事に。

しかし漱石の手紙をモノとしかみない客に

金はいらねぇ、帰ってくれ!

啖呵を飛ばす店主。
話を聞いた奥さんも店先に塩をまく。

店主とその奥さんの心意気に胸がすく。




しかしこれが
火焔太鼓に出てくる古物商のおかみさんなら
どうだろう?


馬鹿だねぇお前さんは
やっと商売になったってぇのに!
それを追い返しちまうなんて!
これでまたお腹と背中がくっついちまうよ

なんて毒突んだろうなぁ

儲け損なった店主に

でもいいんだよ
小野小町が鎮西八郎為朝に宛てた手紙でも
また仕入れてさ
儲けれゃいいんだよって

店先に塩まいてお茶淹れてくれたり

するかな…


しないだろうなぁ。

しかし
こんな茶碗がありましたというエピソードで
(儲けるつもりなく)結果大金を手にするという
はてなの茶碗は現実にはない


お客さんとのやり取りだけでなく
奥さんがこれまた面白い

古書買取時にただで貰った外国製の乳母車を押して古書買取に向かう嫁さん。ただ乳母車押してちゃ商売にならぬ。
一計を案じて乳母車に宣伝文句を車に書く

「もう一度生かせ、死蔵の文化古書」

回ってるとお得意さんから文化古書はいかん
古書雑誌としなさいとのご指摘。
お客様は神様。早速貰った標語を書き直す。
すると別のお得意さんから標語がよくない。
こういう風に直したらどうだ
「いま一度 命と光 死蔵の書 きよし」


さて乳母車はひとつ。
賢い嫁さんのとった解決策は!

このエピソードなんて
まるで落語の黄金餅!

毎日毎日江戸中を貰って歩いてる願人坊主の西念さん!人様のうちの前へ立って汚い頭陀袋を胸にかけて「南無阿弥陀仏…」いくらか貰って隣のうちへ。このうちは法華だなぁって思うってぇと頭陀袋をひっくり返して「南妙法蓮華経」としてある。背中には十字架…

などなど
事実は小説よりも面白く哀しく…
まるで極上の短編小説集!

ここ数年で一番
会う人会う人に紹介した本!

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