ニンニクチップス大ばら撒き

大泥棒エメルソン。
彼は義賊だ。
大泥棒エメルソンは高速で走りながら、大富豪のお金をばら撒く。
だから僕は大富豪のお金をたくさん拾えるように、足を鍛えた。
大泥棒エメルソンは平等にお金を配りたい精神の人だ。
だから高速で走りながらお金をばら撒くわけだけども、僕はそれに抗う。
一生懸命走ってついていき、根こそぎ頂きたいと思っている。
もう僕は大泥棒エメルソンに目を付けられている。
だから僕が拾いそうなタイミングで、
大泥棒エメルソンは別のモノをばら撒く。
僕はそれをかわして、
お金をばら撒いたタイミングでジャンピングヘッドし、
他の庶民がもらえる機会を奪い、僕はまたすぐさま走り出す。
これは義賊・大泥棒エメルソン(以下、義賊)と、
低俗・僕(以下、低俗)の闘いだ。
まずは低俗が義賊を見つけ、近くでストレッチを行なう。
すると義賊が一気に走り出す。
そう、義賊は低俗がストレッチを始めたタイミングで走り出す。
まだストレッチできていないことを見計らって走り出すのだ。
低俗だってそれを知っている。
むしろ走り出させるためにストレッチを始める。
このストレッチは誘い水なのだ。
義賊はまず大富豪の札束をばら撒き始める。
低俗はそれをできるだけ逃さずキャッチしていく。
義賊はタイミングを見計らって、大富豪の花びらをばら撒く。
低俗はそれを食べてさらにスピードアップする。
義賊は焦りながら、大富豪のお薬が入っている袋をばら撒く。
低俗はそれを華麗にかわす。
その大富豪のお薬が入っている袋は庶民が手に入れる。
一体何のお薬かは分からないが、庶民は有難く頬張るのだ。
絶対何か良くなるだろう、そう思いながら。
義賊は大富豪の札束をばら撒きつつ、時折バナナの皮をばら撒く。
ドンキーコングなのか、東京フレンドパークの蕎麦配達バイクなのか、
どっちの気分で撒いているかは分からないが、どっちにしろゴリラだろう。
低俗は余裕があれば、バナナの皮の白い筋を食べて腸内環境を良くする。
あういう食物繊維は摂って損は無いから。お通じ先生の教え通りに行く。
ちなみにお通じ先生とは、低俗のお父さんの愛人で、
よく低俗に半額のヨーグルトを買ってくれていた。口止め料だった。
だから低俗はお母さんへ、お父さんに愛人がいることは絶対言わなかった。
低俗はとにかく得することが好きだから。低俗が低俗である限り。
ここで義賊は乾燥したニンニクチップスをばら撒き始めた。
低俗は華麗にスルーする。こういう口臭がクサくなる食べ物は頂かない。
何故なら走っている時の呼吸がクサくなると、気分が滅入るだからだ。
これで低俗は何度滅入ったことか。
さすがにもう理解した。その罠にはもう引っ掛からない。
義賊はなんとか低俗以外の庶民に大富豪の札束がいくようにばら撒くが、
低俗はそれを必死で阻止して、大富豪の札束は全部低俗が頂く。
確かにたまに取りこぼしはある。
でもそれは低俗からのプレゼントだと思っている。
そう低俗の取りこぼしは、もはや低俗からのプレゼントなのだ。
全て低俗の手柄だと思いながら生きている。
そうすると、とても気分が良い。
低俗の価値がグンと上がったような気がする。否、絶対上がっている。
低俗は自分のケアがうまいのだ。
自分のことを低俗と呼んでいても尊厳が保たれるのだ。
いや、そもそも何で低俗は自分のことを低俗と呼んでいるんだ?
つい義賊に対抗するために、
一人称を低俗にしてしまったが、意味はあるのか?
義賊のゾクに合わせて、ゾクの低俗にしてしまったが、あれ、
どうしよう、自分のことを低俗と呼んでいる自分が急に嫌になってきた。
そもそも低俗なのか、低俗……いや僕は。
いや低俗……僕は低俗じゃない、全然低俗じゃないはずなのに。
何で今まで自分の一人称を低俗にしてしまっていたんだ。
《それが俺の術だ、でもついに自分で解いたようだな》
脳内に響く声、これは一体何なんだ。
《俺は義賊の達也だ。
 オマエは勝手に俺の脚の速さからエメルソンと呼んでいたが、
 俺の本当の名前は達也だ。浦和黄金期のツートップ違いだったな》
どういうことだ、
大泥棒エメルソンは実は達也で、ソイツが僕の頭の中へ語り掛けている?
一体どういうことなんだ。
《ちなみに今、ばら撒いている大富豪の札束は、オマエんちの札束だ。
 オマエは一人で富を得すぎている。さらに不当に、だ。
 まさに不当だ。俺のばら撒く札束を独り占めしようとするなんてな》
そう言えば、どこかで見たことある札束だと思ったら!
じゃあなおさら僕は全ての札束を拾わなければ!
……って! じゃああのお薬も僕のお薬ってことっ?
ちょっ! ちょっと! あれも拾わないと! あれは大事なお薬なんだ!
陰茎をより細長くするお薬なのに! クソ! 大泥棒エメルソンめ!
《達也だ》

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