見栄張るもやし

高橋:今日はもやしをレンチンしてソース掛けて食おうっと……あっ。
西田:……あっ。
高橋:手と手が触れ合った、これは恋愛の予感……じゃねぇよ。
   西田じゃん。何でオマエがこんなとこいんだよ。
西田:普通の買い物だっつーの……というかオマエ、
   もやしなんて買うんだ、めっちゃ貧乏じゃねぇ?
高橋:いや! 貧乏で、もやしを買うわけじゃねぇし!
西田:いやいや、もやし買うなんて貧乏な証拠じゃん。
高橋:というか西田だって買おうとしてたじゃねぇか!
西田:いっ! いや! 別に! そんなことねぇし!
   というか俺のもやしはそういうもやしじゃねぇし!
高橋:どういうもやしなんだよ、言ってみろよ。
西田:俺はあれだし、家庭菜園の肥料にする予定だったし。
高橋:うわっ、家庭菜園なんてみみっちいことしてんだな。
西田:いや、家庭菜園と言っても、ラフレシア、
   ラフレシアの栽培だし。
高橋:いや珍しいモノ作ってモテようとしてんじゃん、ダセェ。
西田:そうじゃねぇし! ラフレシアはクサイからモテねぇし!
   めっちゃ硬派なラフレシア育てようとしていたし!
高橋:いやそもそもラフレシアの時点で軟派だし。
   硬派は百合だろ。
西田:いや百合はガールズラブだろ!
高橋:その発想がもう軟派じゃん、ダメだコイツ、貧乏で軟派です。
西田:硬派な金持ちだよ!
高橋:じゃあ何で、もやしに手をかけていたんだよ、正直に言えよ。
西田:それは……いやじゃあ言うわ! 正直に!
   もやしは金を塗りたくってオブジェにする予定だったわ!
高橋:何だよ、もやしの金オブジェて。
西田:それを庶民に配る予定だったんだよ! そう! オマエに!
高橋:いらねぇよ、何だよ、もやしの金オブジェて。
   まずそこの処理が終わってねぇんだよ。
西田:貧乏の開運だよ!
   オマエが貧乏だから開運してやるためにだよ!
高橋:いや俺、貧乏じゃねぇし、そんな風水も聞いたことねぇし。
西田:金持ちしか知らない風水だからな!
高橋:いや俺だって金持ち、というかオマエは貧乏で俺が金持ち。
西田:いいや! 俺のほうが金持ちだね!
   その証拠に、もやしのこと何も思っていないし!
高橋:俺だって、もやしのこと愛してねぇし!
西田:もうもやしがフライパンの上で焼かれていても、
   なんとも思わないし! 全然中華あんとか作り始めないし!
高橋:俺だって、もやしがレンチンされても、
   オーロラソース作り始めないし。
西田:えっ? レンチン?
   レンチンなんて貧乏人の調理方法してんの?
高橋:いやレンチンは貧乏じゃないだろ! 電子レンジあるんだぞ!
西田:いやレンチンは時短節約オバサンのヤツじゃん、貧乏だなぁ。
高橋:いやいや! レンチンって科学だから!
   科学は金持ちの証だろ! 科学知らないのっ? 科学!
西田:科学科学って、どういう仕組みか説明できんの?
高橋:うっ! ……いや! 西田、知らないのかっ?
   オマエは知らないから説明してほしいのかっ?
西田:そうじゃねぇよ! 全然知ってるわ! すげぇ科学だわ!
高橋:そう! すげぇ科学!
   ここはもうすげぇ科学ということで引き分けでいいな!
西田:分かった! ここだけはもうすげぇ科学で引き分けでいい!
   この話はもうしないことにしよう! 絶対引き分けだからな!
高橋:えっ? 知らないの?
西田:えっ? えっ? あの、えっ?
   引き分けだろ……? えっ、マジでオマエは知ってんの?
高橋:……よしっ、引き分けだな。
西田:引き分けだろうがぁ! 何だよ今さっきのぉ!
高橋:引き分けだとして、じゃあもやしの話だな。
西田:そうだろうがぁっ! もやしの話だろうがぁっ!
高橋:いやもやしごときの話でそんな熱くなってるの貧乏過ぎじゃね?
西田:えぇぇえええええええ! そんなこと言うぅぅうううううう?
   てかさっきからオマエ、卑怯過ぎじゃん! やり口が!
高橋:何が? 西田が貧乏なだけじゃん。
西田:俺全然貧乏じゃないし! じゃあもやし! このもやしの袋!
高橋:うはっ、もやしの袋持ったぁ、ハハッ。
西田:オマエに投げつける!
高橋:うわぁぁあああああああ! もったいねぇぇええええ!
西田:出た! 本心出た! もったいねぇが出た!
高橋:いやだって……ほら……袋、破けちゃったじゃん……あぁ、
   もやしがスーパーの床にばらまかれて、あぁ……。
西田:……あっ……ゴメン……。
高橋:ほら、店員さん呼んで、ほうきで集めてさ、捨てるしかないし。
   俺が袋持ってレジ通って買ったことにするから。
西田:……いや、俺が買ったことにする。
高橋:そういうのいいから、もうそういうのいいからさ。
   オマエは店員さん呼んでこいよ。
西田:いいや! 俺は金持ちだから袋買うのは俺がする!
高橋:じゃあもういいよ、何だよオマエ、最低だよ。
   もやしの袋投げつけて、金持ちアピールして。
   店員さぁん、どこですかー。
西田:さてと、俺は袋を持ってレジに行くか……ワーッハッハッハ!
   お金を払う、俺の勝ちだぁぁぁあああああああああああああ!

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