豆腐こぼした人

あっ、豆腐こぼした……手のひらからツルンと滑って地面に落ちた……。
ダメだ……もう一気にローテンション、否、ローテンションさんだ……。
もうこんなローテンションにはさん付けさせて頂くよ。
さん付けしたら急にいろんなことに憤ってきたよ。
さん付けしたら憤る現象の人だよ。
何で僕は
豆腐屋で豆腐を買ったという事実にテンション上がり過ぎてしまったんだ。
そりゃ確かに豆腐屋で豆腐を買うということは、
オトナの階段を登るための、いわばオトナ・ミッションだから、
テンションが上がってしまっても仕方ない部分はあるけども、
だからって、だからってだよ……くそっ、
でもオトナになったんだよなぁ! 僕はオトナになったんだよなぁ!
豆腐屋で豆腐を買うなんて相当のオトナなんだよなぁ! なぁ! 僕!
……くそっ、いやもう、くっころだ、いや殺されたくはない、間違えた、
くっころモノが好きすぎて、
頭の引き出しの早い段階にその言葉がすぐにあってしまう。
いやまあくっころモノ好きは相当なオトナだからそれはそれでいいとして、
何で僕は豆腐屋で豆腐を買ったという事実にテンション爆上げして、
つい手のひらに直接乗せてもらって帰るという選択をしたんだ!
くそっ、豆腐屋の店主も「本当に大丈夫かねぇ?」と声を震わせていた。
でもあの声の震わせは単純にジジイだからと思っていたが、
まさか僕に対しての恐れだったとは……そういうことだろっ?
そういうことだろっ! なぁ! 僕! 僕よ!
……ダメだ、
憤り過ぎておかしくなってきた……主に脳内がおかしくなってきた。
脳内の中で何故か、死神が幽霊馬車を運転しているイメージが浮かぶ。
死神が幽霊馬車をズダダダダダと走らせているイメージが浮かんでしまう。
くそっ、まるで走っている時のスヌーピーじゃないか!
走っている時のスヌーピーが
脳内に浮かべているイメージそのものじゃないか!
僕はスヌーピーなんかじゃない、
あんなにピーナッツピーナッツしていない。
ヤマザキのコッペパン買う時は必ずピーナッツクリームだけども、
まだそこまでのピーナッツじゃないんだ、僕は!
まだそこまでのピーナッツを名乗っていい存在じゃないんだ!
早朝野球だってやっていないし! 頭の上にヒヨコも乗っていない!
僕の頭の上に乗っているモノは、くっころ帽子だけだよ!
僕が自分で作ったくっころアップリケが付いた、くっころ帽子だけだよ!
エルフの剣士が「くっころ」と言っている
アップリケの帽子だけなんだよ!
だよな! なぁ! 僕! 僕よ!
くそっ、もう何が何やら、
話がどこまでいったのか分からなくなってしまった。
まず一から確認しよう!
まず豆腐は……よしっ! アスファルトの上に落ちている!
アスファルトの上なら不幸中の幸いだ!
土の上だったら、一気に菌が繁殖しただろうけども、
アスファルトの上は全くの無菌だから大丈夫だ!
アスファルトは毎日雨に濡れては太陽に照らされて、
湿り気熱気匂いアスファルトとなり、消毒されているから!
というわけで! この豆腐の上の部分だけ掬って、持って帰る!
上の部分は汚くないからな、多分。
アスファルトに直でセッションしている部分はさすがに辞めよう。
セックションの邪魔をしたくないから、あっ、セッションね。
つい本当のオトナにしかできない単語を言うところだった。
そう、ハックションという
オトナにしかできない本物のクシャミを言うところだった。
さてと、どうやってこの豆腐を掬うかだなぁ。
掬うような形状のモノは今、僕は持ち合わせていないけども……いやある。
この帽子だ!
帽子って何かスプーンみたいに掬うような形状になっている!
よーしっ、帽子で掬ってこの豆腐を持って帰ろう……ってダメだ!
帽子で掬うと、すくう繋がりで
このくっころアップリケを救うことになるのでは!
嫌だ! 僕はくっころに異常に興奮するんだ!
このくっころ状態は維持したいんだ! 救いたくないんだ!
くっころを救うなんて少年漫画じゃないか! 全然オトナじゃない!
こちとら一回辱めてるパートがあるオトナの隔週漫画雑誌なんだよ!
なぁ! そうだろ! なぁ! 僕! 僕よ!
僕のアフタヌーンが止まらない! 否、止まりたくないんだよ!
だから帽子で掬うことなんてできない! くっころ! くっころは永遠だ!
……というわけで、この豆腐はもう諦めよう。
掬うことはできない、だからこそ救うことはできない。
ダブルミーニングだ、あっ、ダブルミーニングってかなりオトナ単語だな。

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