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【Uncensored】CANYON Aeroad CF SLXはミニマルなオールロード足り得た

タイトルが全てだ。"結論は文頭で端的に示せと"学んだが故にそうするが、ローカルの土の上をしたたかに走った上での個人的な結論である。
だが、その上で長い長いテキストをしたためる

したたかの様子

借りちゃったのである

結論のみを抽出した上で揶揄を添加すると、「動画を頑張って作ったり、Web上でだいぶ元気に振る舞わなくても、ハイエンドのエアロロードを借りる機会が(稀に)生じた」のだ

沈黙は金とは言ったもので、このような悪辣な言の葉が水面に浮かぶミルクがトレーに返る事は無い。しかし、この個体は一貫してシックなサイクリングカルチャーの裾野を好む


購入の検討にあたって参考になるようなインプレッションはこの一連のテキストには存在しない

様々なコストの上でしたためられた複雑なアロマを燻らせるが如きインプレッションはこう…何と言うかですね…僕にとっては自転車は単に道具でしかないのでちょっと…ついでに書いてしまうとご商売で自転車に関わる人には妙な助詞でポエムを書く才能が備わってる事が割と多くないですかね…僕もそんな感じですが…

みたいな気持ちが生じてしまうし、そういった手垢の付いた内容は凡夫が為すべきではない。のたくったテキストを連ねたところで結論は既に述べてある、この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ


機材もライダーも優れているのがプロフェッショナルだが、アマチュアリズムに於いても機材の優位性は体感出来る(のではないだろうか) 

(良く走るフィールドに依存してる点も大きいが、)僕は"ドロップバーの趣味の自転車は取り敢えずロードバイクめいたジオメトリでタイヤが太ければ良いのではないか"、と思っている

主にグラベルバイクと呼ばれる、穏やかなハンドリングの乗りものは個人的な要求に合致しないのだ。その点でAeroadは個人的な要求をミニマルに満たし、且つ最も速い車体だった。印象を箇条書きで書き下したものが下記だ

・直進安定性があって空力が良い上に30~32cを履かせた状態でそれなりにタイヤクリアランスがあれば、それはもう(便宜上こう表現するが)オールロードって事で良いんじゃないですかね

・(未舗装を走る自転車としては)極めてタイトでありながら、舗装路を外れてなお速くて安定している点が途方もない愉快さの根源に感じられた

・コンディションによってはきわめての泥が付着するのでせり出したフロントディレイラーは要らないし、台座も切り落とせば良い
(Queen of Heartsも口癖のように"首を撥ねよ!"と言っていたものだ)

空力の良い車体をより洗練させる為の選択肢は、あまり多くない


・この車体は32cに対して必要なクリアランスを有している。Surlyはいにしえより “Fatties Fit Fine( FFF™)” と主張するが (※金子聡がこの概念を最も的確に示した一連のテキストを残している)、全環境対応の観点で言えばAEROADに於いては30cがその最大公約数と言える

余裕があるのだ

・レーシングバイクのソリッドな素性は消せないがエアボリュームで隠蔽できるが故に、必要な硬さを備えて変な動きをしないフレームにする事がロードバイクとしての正解と言えそう(というか、推測だけど旧来の翼断面のバイクはタイヤが細い為に、特性が癖としてより鮮明に感じられたの)である

・個人的には"それ"こそがロードバイクの(不毛とも言える)入眼だと思うが。一体型ハンドルと専用のシートピラーは、一定以上のコストを投じた製造環境と品質管理の下で生産されたものであれば、"正解の判りにくい微調整"が減るので合理にも思えた
(一方でその上でポジションが合うかは個人に依存するとも思う、僕はあれこれと余計なことを試したい方である)

これらが印象の(ほぼ)全てである

#ArakawaOutback


その上で、見えざる扉は確実に存在する

それ故にAeroadは、自らを律するべき側面がある

そもそもロードバイクとは、(フィジカルの個体差や絶対的な強弱はさておき)速く走るための道具だ

それ自体は否定しないが。お揃いのペースとウェアとコンテクストで為す、バスツアーのようなサイクリングのための最適なソリューションではない。歩行から走行に至るグラデーションや乗馬などと同様に、速度域によって然るべきフォームが存在する

そういった用途であれば新しいGrailの方がより適しているし。あれこそがクロスバイクめいたポジションでロードバイクに乗る人間に向けた、現時点での"プレーンなロードバイク"の最高峰であるように思うのだ。つまり、"Full CarbonのFatties Fit Fine(FFFF™)"は実在する

※あまりにも余談だが記す。脚力の有無を揶揄しつつ握るドロップバーカルチャーの弊風に塗れていないのであれば、同ブランドのRoadlite (特にCF)は白眉のプロダクトとなるようにさえ思う

フラットバー且つ"Pavement"なハンドリングに最適化した車体は本当に軽やかで、自転車の根源的な楽しさがあるんですのよ

そういった道具をオーダーで作ったので、断定的に述べる

※売れなそうだけど必要なバイクをラインナップしてるの、実に素晴らしいですね。実に売れなそうだけど

趣味の自転車に限らないが。特定の用途の為の道具には、最低限の備えるべきスキルが存在するのは事実である

退屈に聞こえるだろうが"走り、曲がり、止まる"の一連の行為を、どの領域でも丁寧に行う事こそがその本質なのだ。その上で、ミスやトラブルが生じる

繰り返される330回の行為に対して1つの重大事故が起こる可能性を示唆したのがHerbert William Heinrichだ、それを"万が一"と表現すればその確率は0.01%だが、上記に準じれば0.3%だ

乗車のスタイルの緩さと、緩慢な態度が等号で結ばれるものではない


人間の判断は容易に鈍る

趣味の自転車に於ける愛車と呼ばれる "これ" や "それ" が愛ゆえに事実を歪め、真に最適な道具でない事例は少なくない

思い入れが当事者のプレーンな判断を鈍らせるのは、有史以来の真理のひとつだ。開けさえしなければわたしの、そしてあなたのそれは閉じた箱の中で世界一のシュレーディンガーの自転車のままでいられる

自らの手元にある主にスチールで構成された幾つかの車体に思い入れはあるが。ロードバイクは速く走る為の道具であり、Aeroadはその最たるモデルの一つである。脚色のない事実を受け入れて以降に、あなたとその道具の真に対等な関係性が生じる


Paris-Roubaix(とエアロダイナミクス)の(ごく一部の)話を(掻い摘んで)しよう

歴史を振り返れば、近代クラシックレースに於けるゲームチェンジャーは幾つもあるが、結果が伴った白眉は幾つかに限られる

Paris-Roubaixであれば、2010年にZIPPのエアロハイトのカーボンリムを持ち込んだFabian Cancellara

2016年にFOILで勝利した Mathew Heyman(こちらは主にリムブレーキ時代でありながら、キャリパーブレーキの呪縛から解放されたシートステイ由来のフレックスが理由で選ばれたようにも思う)がそれだ

適者生存とは言うが。結果的にエアロダイナミクスが敗者よりも優れており、それがゲームチェンジャーと目された("Sir"がそう称した別の特性を備えた車体は、結果的にゲームを変えるには至らなかった)

※余談だが2012年にCOLNAGOのシクロクロスバイクは勝者に53㎞の独走を許した後に最も勝利に近づいた。歴史を変えるには至らなかったものの個人的に見たかった進化の方向はこちらである。歴史の闇はいつの時代も色濃く、それ故に勝者は勝者としてひときわに取り沙汰される

その最新の事例が、2020年の勝者であるSonny Colbrelliを経た後の2023年のMVDPでありAeroad


Paris-Roubaix以外のエアロダイナミクスの話もしよう

個人的に好きなエピソードだがJonas Vingegaardはこのインタビューに於いて"オーソドックスなの形状フレームとローハイトのリムを好むが、仕事の為に空力を選択する(意訳)"と述べている

レーサーとはつまり。成果の為に、硬く速い自転車を選ぶ


人間は道具に翻弄されて生きる

人類は永遠に届かぬ100%を目指し、その半ばで生涯を終える

現在とは未完成の積み重ねの上に成り立つ砂上の楼閣であるが、この車体はその完成系の様にさえ思えたのだ。これこそが人気の理由の核たる部分だろう

体感して確信したが。趣味の自転車の人間がのたまう具体的なようで漠然とした"ロードバイク"とはつまり、端的にエアロロードバイクでありAeroadのような自転車の事を指す(それがあなたの用途に真にフィットした選択でなくても、である)

自分自身もそうだが。ライクラを纏ったロードバイク遊びとは、プロフェッショナリズムの真似事なのだ


エアロードに跨る機会は存在しており、可能であれば作った方が良い

あなたに稀な貸与の厚遇が無くとも心配はない。砂漠で一粒のダイヤモンドを拾う機会は、そもそもが存在しないような比喩めいたものだ

Webという机上で、和解を必要としない機材に関する対立に一丁噛みするのも良(くはな)いが、何せ此国には実車を備えた現地法人が存在する。八王子に分類されつつも広義の尾根幹と呼べるエリアに於いて、コストを払ってでもAeroadを通じて"ロードバイク"の現在地を体験すると良い

そして運良く同じタイミングで跨る機会があれば、結果的に新型Grailの"ロードバイク"としての完成度と乗りやすさに驚く事になる

これこそが"のたくったテキスト"そのものだが。あれこそが"エアロのみに特化してはいないものの究極的にエンデュランス且つレースの片鱗も感じられる何か"の正体なのだ

百聞不如一見、兵難遙度、臣願馳至金城、図上方略(百聞は一見に如かず。 軍事情勢は離れたところから推測しがたいので、わたしは金城に駆けつけ、上策を図りたい)」、良く知るであろう一節を冒頭に含むこのテキストは、漢書の「趙充国伝」に記されたもの(だそう)だ

他のテキストでも記したが。大きな企業が為す研究開発の果てに生じた複雑な形状のコンポジット・エンジニアリングの産物が優れているのは間違いない事実であり。その進化と収斂の方向は概ね決まっているが、選択権はいつだってに我々の側にある

わたしは八王子に駆けつけずに試乗の機会を得たが、CANYON Aeroad CF SLXはミニマルなオールロード足り得た

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