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釣り日記始めました -今日も釣れねえンだわ

 ってなわけで、釣り日記を始めてみた。
 釣りを始めたのは2021年の5月で、娘が釣りに行きたいと言い出したのがきっかけだ。 娘はなぜ釣りに興味をもったかというと、ゲームの「どうぶつの森」で釣りができるらしく、マグロだのリュウグウノツカイだのを釣って、それで興味を持ったようで、実際にリアルでも釣りをしてみたかったらしい。 そんな矢先に八景島シーパラダイスに遊びに行ったときに、ちょっとした釣りコーナーがあり釣った魚を食べられるスペースもあったのでそこで体験したら、簡単にアジを釣って味をしめたようだ。
 (どういう仕組みでそうなっているのかわからないが、そこのアジはエサ無しの釣り針を落とすだけでも速攻食いつくほど活性が高い。また、そこのアジは元々水族館の餌として連れて来られたもので、釣られないままでいてもいずれ水族館の魚の餌になるらしい。 絶対死である)

 娘も息子も基本的にインドアであまり外に出たがらないので、折角借金をしてまで買った、新車のCX-5(購入三ヶ月で擦った)も持て余し気味であった。 しかし、釣りにを趣味にすれば、そんな状況も変わるだろうと踏んで釣りを始めることにした。

 このとき俺は

 魚を釣って、あわよくば食費の足しにして妻もニッコリ!


 などと考えていたが、それは理解していなかったのである。

 「釣りが食費の足しになるわけがない」ということに。


 多分……いや絶対に釣り人が一度は思ったことがあると思う。 何なら今だって釣果が良い時などに思うこと、それが「釣った魚を食費の足しにする論」である。
 今日は釣り代の元が取れたかなーとか考えちゃうやつだ。

 こんなの釣りを始めて三ヶ月もすれば少なくとも悲観的で理性的な判断をしがちな左脳くんは理解することであるが、歩いて行ける場所に港があってバカスカ釣れるならともかく、横浜で釣りで食費の足しにしようとしても、まあ無理であろう。  

基本的に、釣りはやればやるほど赤字である。

 一方で右脳くんはアホの子だから、ちょっとキジハタ(割と高級魚)とかが釣れちゃったりしてポジティブな要素があると直感的に「いける、いけるわこれ!」って感じになっちゃうのである。

 冷静に考えると、そもそも1億2000万人の胃袋を毎日3回も満たす現代の食の流通は、極端に効率化されており、釣り人が1日1万以上船宿に払って、波に揺られて海にゲロぶちまけながらようやく1匹釣れるブリですら、スーパーマーケットにかかれば、切り身が200円程度で売られているような状況である。
 堤防で釣った場合でもエサ代だけで600円程度かかるのに、更に車の移動費や、自分たちの餌代も考えると食費の足しなるはずがない。

 しかし経験の浅い俺は右脳くんの奴隷だったので「まあ……、最近は魚も高いしな……。それにアジならどこでも釣れるやろ……」くらいのノリでいたのである。

 そういう舐め腐った状況なので、アジならどんな装備でも釣れるだろうと余裕をぶっこいて、メルカリで3000円の釣り道具セットを妻に選んでもらって三崎港に出かけた。(ちなみに、この時点で往復の高速代とガソリン代は約2000円である)

 三崎港は三浦半島の先端で、三崎マグロが有名な漁港である。 釣り場に着くと、コの字型になっている堤防から海を取り囲むようにして凡そ100人くらいのファミリーどもが2~3メートルの間隔をあけて糸を垂らしている。 「これだけ人がいるなら、まあまあ釣れるポイントであろう。」 そう思ってサビキセットを準備し、アミ姫(アミエビがチューブになってるやつでフルーティな匂いがする)をカゴに入れて海に落とす。

 そして4時間後……

 釣れねえンだわ……

 いや、びっくりするほど釣れないのである。 釣り場に来た当初はまるで遊園地の入場口にいるかのように輝いていた娘の目は、もはや波打ち際で腹を上にして漂っている死んだ魚の目ように曇っていた。 まあゲームの釣りとは違ってリアルの釣りはよほど条件の良い場所でもない限りずっと釣れたりしないものである。
 一方、俺はというと、娘とは逆に「何とか一匹釣ってやるぞコラァ!!」と闇雲に竿を上下に揺らしたり、心のなかで魚信が来ることを祈願したりしていたわけであるが、そこから更に2時間経った時だった。
 もうあたりが完全に暗くなっていて、ファミリー層は大体撤退しており、俺の心もボウズを受け入れるしかないかなと思っていた頃、竿が小気味良くブルブルと震えた。
 これは間違いなく魚のアタリである。 ここで取り逃すわけにはいかない。 父の威厳をかけて慎重にリールを巻く。 熱い鍋の運ぶように慎重に竿を引き上げ、ついに釣れた!

 ハタンポである。 食べたら意外に美味しいらしいのだが、釣り人が1000人いたとしてもこれを狙って釣る人はまずいないであろう外道である。 とはいえ、6時間経って初めての釣果である。 喜ばずにはいられない。

「釣れた!釣れたぞ娘よ!」

 しかし、はしゃぐ俺とは対照的に娘は腕をだらりと倒して首を傾けていて「もういいから帰ろうよ……」という気持ちを身体全体を使って表していたとさ……。

 ちくしょう……。 いつか大物を釣って娘を見返してやらぁ!!!

 こうやって俺はどんどん釣りにのめり込んでいくようになったのである。

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