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強風下のフカセ釣りなンだわ -今日も釣れねえンだわ

 14時半。お盆休み期間というのに、打ち合わせを入れられて、予定では12時半におわるはずだったのに部長から白と黒とも取れぬ曖昧で実に為にならないアドバイスという名の小言を延々と聞き流し、ようやく釣りに行ける時間になった。
 本来であれば朝の7時くらいから出発して、海釣り施設の8時の営業開始と同時にフカセ釣りに勤しみたかったところなのだが、とんだ邪魔が入ってしまったものだ。
 もたもたしていると釣りの時間がどんどんなくなってしまうので、予め準備していた今日の釣り装備を担いで早速家を出る。
 海釣り施設に着くと、鼻腔を突き抜ける潮風を感じ……たりはしない。もう隙あらば海で釣りをしているので鼻が潮の匂いに慣れていて何も感じないのだ。それに景色や海の匂いを愉しむ暇などない。今日という今日はメジナを釣りまくってやるのだ。一つ2000円する割と高価な部類の新しいウキを楽天で取り寄せたのだ。これで釣れるに違いない。

 盆なので家族連れでごった返しているかと思いきや、ぽつぽつと釣座が空いている。もう十数回はこの海釣り施設に来ているのでメジナが良く釣れるポイントは把握済みだ。ただ、風が強い。ひっきりなしに10m/s以上の風が吹き付けている。風が強いと糸が風の影響を受けて絡まったりしやすいし、波も高くなる。撒き餌も狙った場所に落ちてくれない。魚は魚種によって住んでいる深さが違うため、撒き餌がそこに届くようコントロールする必要がある。波が高いと当然それらも難しくなる。刺し餌も波によって浮き上がってしまったりするので、きちんと沈むようガン玉を打ち、沈む速度をコントロールするのだ。
 このコンディション、非常に実力差が出る状態であるが……いいだろう、望むところだ。釣りは釣り場に行く前から始まっている。海は単純ではない。膨大なパラメーターが存在する中、あらゆるシチュエーションを想定しながら、この場合はこうすると対応策を考えておくのが重要だ。
 当然、俺だって想像しておく。このシチュエーションならこのウキを使い、ダメならこうする。
 野球などのスポーツに統計学が取り入れられているように、釣りも確率と統計であろう。マグレで釣れることもあるが、それでは釣果は伸びない。おいしいお菓子を作るには寸分たりとも分量を間違えることが許されないように、0.1g単位でおもりを調整したり、あらゆるパラメーターを考慮しながら、もっとも釣れる状態を探索するのだ。殊更、フカセ釣りは他の釣りに対して釣り人が調整できるパラメーターが多いところが醍醐味である。悪状況下で工夫しながら釣果にこぎつけた時の充実感は筆舌に尽くし難い。今日は新しいウキも用意した。今日のような風の強い場面も想定して買ったウキだ。この難局を攻略してメジナをゲットする。俺の技術がメジナに通用することを証明する。釣り人としての矜持を示すのだ!!

 そして4時間後……

……釣れねえンだわ。

 クソ強風なンだわ……。沖まで白波が立ってるし、テトラポットにあたった波が霧状になって空を舞ってるンだわ……。浮力Bのウキにガン玉G2, G3, G3って感じで段打ちしてるのにウキが沈まず上がってくるほど波が強いンだわ……。
 コマセも割と同調してたりすると思うのだが全然アタリが来ない。そもそも波のせいでアタリなどわかったものではない。ガン玉を更に追加して水中に浮かせることで波の影響を極小化したり、悪状況なりにうまくやっているはずなのだが、釣果に繋がらない。釣り竿も風に煽られて、旗でも持っているような抵抗である。
 そもそもいつも誰かしらいるはずの常連も一人もいない。周りも全然釣れていない。誰一人楽しさそうな顔をしておらず、折角釣り場に来たから続けているだけでやり始めたからにはやるしかないという感じで、いわゆる負けパターンである。こんな状況で釣りを続けていても釣れた試しがない。

 結局、ボウズのままフィニッシュである……。

 いやー、悪条件なりにうまくやったつもりなのだが、全然ダメだった……。何が原因なのか分からないので修正しようがない。こういう日は家でおとなしくしていろということか……。

 くやしいのう……くやしいのう……。

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