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短篇「君を見つけてしまった」1~8-2

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どこか一人で生きてますって感じの女の子との冬の出会い。サンタさんのソリと追いかけっこするようにクリスマスイブに向かってゆきます。
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2021年11月の記事一覧

短篇「君を見つけてしまった」1/8

   ⁑ 1 ⁑  廊下のイスに腰掛けると、奥のカウンターで職員と話している女の子が目に入った。  紺色のダッフルコートを着ている。  レポートの文献を読み始めたけれど、再び彼女に視線を移した。なぜって、彼女は中途半端に伸びた髪を肩にはね返られているのだけれど、カウンターの向こうに乗り出して何かを訴えているその姿がとても果敢だったから。  職員が何度もパソコンを覗きこんだり首をひねったりしている。難題を突き付けているのかもしれない。そんな一つの光景が、彼女の生活ぶりをギュッと

短篇「君を見つけてしまった」2/8

   ⁑ 2 ⁑  二度目に彼女を見かけたのはバスの中からだった。   大学から駅ゆきに乗って外を眺めていると、自転車をこいでいる彼女が目に飛び込んできた。ハッとした。やっぱり肩を怒らせて男まさりにこいでいる。  学生課のカウンターに身を乗り出していた姿がよみがえる。  記憶をなぞっているうちに脇道にでも入ったのだろう彼女の姿は消えていた。  自転車に乗っていたのだからこの近所に住んでいるのかもしれない。  地方から出てきた僕は学校からちょっと離れた家賃の手ごろなアパートに

短篇「君を見つけてしまった」3/8

 ⁑ 3 ⁑  薄いウイスキーを飲みながらカウンターで皿洗いをする彼女を見ていた。 「僕ら同じ学校の学生だよね」  頃合いを見て話しかけてみた。 「そうなの?知らなかった。というか人の顔おぼえられなくって私、と言うか人の顔あんまり見てないし」  そう言いながら彼女は僕の目を見ていた。 「専攻は?」 「にんぎょう科学よ」 「人間科学じゃなくって?」 「人形科学よ、人間が人間を操る動機、あるいは操られる仕組み、あるいは人形という悪夢と芸術性、それを勉強してるの」 「そんな分野が