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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2022年3月の記事一覧

(詩)愛する

きみが空を愛するように ぼくはきみを愛した きみが海を愛するように ぼくはきみを愛した きみが星を愛するように ぼくはきみを愛した きみが風を愛するように ぼくはきみを愛した きみが故郷を愛するように ぼくはきみを愛した なつかしい空、なつかしい海 なつかしい星、なつかしい風 なつかしい街 初めて会った時 初めて会った人なのに なつかしかった あの時きみが どうしてもなつかしかった 限りない空のように 限りない海のように 限りない星のように 限りない風のように

(詩)新東京駅

生まれてはじめて 上京した人だけが下車する 新東京ステーション 一度下車したら もう二度と訪れることはない 夢やぶれ帰郷する人も 都会になじんで 東京人になってしまった人も もう二度と再び その駅の改札を くぐることはできない ただ一度生まれてはじめて 東京を目にする時にだけ その駅のプラットホームに 佇むことができる 地図にも時刻表にも存在しない その駅の…… 新下関 新山口 新岩国 新尾道 新倉敷 新神戸 新大阪 新富士 新横浜 かばんに夢だけをつめこ

(詩)少女へ

少女へ 生き急ぐきみへ その席に座っていた ひとりの少女が じっと花を見つめていたことや 時々ひとりで笑っていたことを 誰も知らなくても 痛々しいほど腰の曲がった 老婆が歩く姿や 駅前の階段に座り込んだ 浮浪者の姿をどんなにか かなしそうな目で見ていたことに 誰も気付いていなかったとしても 花の中に少女のほほえみは残る 老婆や男の心の片すみに 少女の涙の粒は住みついて 少女の声や夢は 小さなかけらに姿を変え それは種となり土に眠り やがて春がまた訪れて 去年の今頃

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)ヘリコプター

草原で寝転がる わたしの上空に ヘリコプターが飛んできた てんとう虫という名の ヘリコプターは わたしのほっぺたに 影を落として なんにも知らない ヘリコプターは そして わたしのほっぺたへと 着陸します ゆっくり、ゆっくりと 着陸しまーす 今その空港が雨で 濡れているとも知らないで 涙という雨で 草原に寝転がる わたしの上空に ヘリコプターが飛んできた

(詩)いいわけ

ぼくはきみに さようならとは 言わなかった ぼくはきみに さようならを 言わなかった ぼくはきみと さようならを 交わさなかった 夜空を見上げると 満天の星が瞬いていた きみが去っていった 夜だというのに 静かに風が ぼくのほおをなでて 吹きすぎていった きみはいまごろ どのあたりを 旅しているだろうか ふとぼくは そんなふうに 本当に自然に そんなふうに思えた 強がりや慰めや 気休めじゃなく 確かに そんなふうに思えた 今ぼくはひとり きみが好きだった 港の灯

(詩)ネオン街をよこぎって

ねえ、きこえてる 受話器を通して ねえ、こっちの音 そう あなたの好きだった東京の音 今わたし 新宿駅の公衆電話からかけているから ええ相変わらずよ 土曜日の夜だからすごい人波 でもわたしは仕事だから これから駅の地下道を抜け表に出て イルミネーションの海を人波をかきわけ ネオン街をよこぎって オフィスのあるビルにいくの ええ、元気よ ビルのエレベータをまっすぐに上がり オフィスに辿りつくと そこは人影もなくしずかで 暗闇の中にてさぐりで 照明のスイッチをさがす パソ

(詩)憧れ

昔わたしが わたしだったもの 石、草、花 木、木の葉 空気、水 波、波音 雨、雪 虫、土 大地、風 駅、夜行列車 レール、枕木 プラットホーム 海岸線、地平線 夕闇、黄昏 木洩れ陽、朝焼け 銀河、満天の星 ネオン、はーばーらいと 雑踏の足音 昔 わたしが わたしだったもの 草 きみの足元に 咲いていた 風 きみのほおを 撫でていった 夜明け いつも きみを包み込む 夜明けのしずけさで ありたかった

(詩)世界で一番美しい場所

とさつ場に家畜をのせてゆくトラックは 世界で一番美しい場所を通ってほしい トラックの荷台は 柔らかな網で囲まれ 家畜たちが世界を見られるようにして 海や山を通ってほしい 潮騒や鳥たちのさえずりの中を 冷たくすんだ海の水の中を きらきらと光るかれらの瞳の中に この世界の美しさを とどめてゆけるように 花の中を飛び回る蝶 風に揺れる樹の葉、木洩れ陽 夏の中になき盛る蝉たちの声 満天の星、銀河 夕暮れの陽にきらめくなぎさ 静かに降りしきる雪 生きる生命の美しさを とさつ場

(詩)パラダイスを桃にゆずって

あ、あの木 桜だったのね 桜三月桜咲く 美しいのに かなしそうなのは なぜ、ですか かなしいくせに 美しく咲くのは ここは天国ですか パラダイスを桃にゆずって 誰のためにあなたは咲くの ひっそりとほんとうは いとしいあなたのために 咲きたかった 風にゆれる草花のように 咲きたかった ただあなたがいてくれたら そこがわたしの天国です あなたのいない天国が わたしには 地獄であるように パラダイスを桃にゆずって 三月を菜の花にあずけて ただひっそりと 咲きた

(詩)少女へ(海)

貝殻、足跡、波の音、 空の青さ、木漏れ陽、プラタナスの木陰、 夕映え、夕立、虹、 駅のホーム、街の灯り、花火、 星座、ラヴソング、風のにおい、 夜明けの静けさ…… 目印はいくつもある、この星の上に もしもきみが遠い国へ行って 誰もきみの行方を 知る者はいなくなっても きみが残していったすべてのものが やがてこの地上から 永遠に忘れ去られた後にも ぼくは海の夕映えのきらめきの中で 潮風と遊ぶきみの笑い声と出会うんだ きらきらと輝く波の中で いつも寂しそうにしているぼくの背中

(詩)戦場

傷ついた子猫を 海に連れていって あげたかった 傷ついた子猫と そして一日中 海を見ていたかった 昨日傷だらけの姿で 生まれてきた子猫と 海を見ていたかった 子猫が力つき しずかな眠りにつくまで 昨日までいたところへ また戻ってゆくまで 傷ついた子猫に しおざいの記憶だけは 持っていってほしかった 空と海の青さだけは 持っていってほしかったから 傷ついた子猫と 海を見ていたかった ここは天国じゃない 生まれてきたものにとって ここは戦場 ここはせんじょうだから

(詩)つの

つのが伸びたよ つのがのびたよ やわらかで 誰もこわがらない つのが二本 のびてきたよ やさしい顔して やさしい雨に濡れながら つのが折れたよ つのがおれたよ 雨粒のキスにおどろいて はずかしそうにまっ赤な顔して かたつむりの おつむの中に かえっていったよ

(詩)若葉の頃

かみさま わたしは一度もかみさまなど 信じたことはないし おそらくこれからだって ずっとあなたのことを信じたり あなたにすがったりして 生きてゆくことはないだろう けれど今日今だけは わたしにあなたの名を となえさせて下さい かみさま どんな小さな草の花にも 生命は宿るものなのですね かみさまマイラヴ あなたに 口付けしたいほどの 今のおろかな わたしなのです どんな生命にも よろこびは 宿るものなのですね ことばも使えず 立って歩くこともままならない そんな生ま