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詩の倉庫と化してます。多分1、000個位はいくかと。
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#眠れない夜に

(詩)ぼくが海なら

死にたいきみへ 生きていたくないきみへ もしもおれがきみの 心臓の鼓動なら 今すぐにでも 止まってあげたい でもおれはただの 人間の屑だから おれが海なら きみの好きな夏の海でさ そっときみを つつんであげたい 生きもせず かといって死にもせず ただ 夏の空の下で つつんでいてあげたい おれがきみの、涙の海ならば

(詩)冬のお風呂

ひざを抱えている ずっと ひざ小僧抱いている 冷めない水があるならば この星に降り注いだ 雨の中のほんのわずかの水が この星のかたすみで暮らすわたしを 今やさしく包み込み 凍えたわたしを暖める奇蹟 昔々生命は 冬のお風呂の中で誕生した 純白の雪の降りしきる夜 この星に生まれた生命は 美しい生命で ありたいと願った 凍えた体と 汚れた心を包み込む 冬の夜の奇蹟 ひざを抱えている ずっと ひざ小僧抱いている いつか水は冷めると 知っていて いつか夢も冷めると 知って

冬の野良猫

冬、好きなもの 雨を雪に変える寒さ 仲間のクロの 黒い毛に落ちてはとける白い雪 雪の夜の静けさ 冬、好きなもの 一日中あっためてくれる日差し クリスマス、お正月、 バレンタインの賑わいの中を ひとりぼっちで歩く時の 人間になったような寂しさ 冬、好きなもの 透き通るような星の瞬き 少しだけ長い夜の 夢と眠りと欠伸の時間 それから、それから 誰かの涙の音さえ、こっそりと 聴こえてきそうな 夜明け前の静けさ

冬の地下道

まっ赤にはれた指で数える あといくつ寝ると、春 何度数えても同じ だってさっきから 一晩中数えているから 減るはずないのに やっぱりまた数えている 寝付けない 地下道のすみで数えている まっ赤にはれた 皺くちゃの手で あといくつ寝ると……。 路上生活者のつぶやき 冬の間だけ地球が速く 回転すればいいのに せめて この地下道のすみだけでも 一晩の夢で 二晩過ぎればいいのに せめて この地下道のかたすみだけでも 膝抱え、待っている春

いつか忘れた冬のしおざい

雪、雪 さむい、さむい 冬だった どうしても 海に あなたをつれて いきたかった 凍りつく冬の中を 白い息切らして 海へ あったかい、あったかい 知らなかった 人のてのひらが こんなに あったか、かったなんて 忘れたのは さむい、さむい 忘れたのは 海に降る雪 忘れたのは、そして あなたの面影 忘れなかったものは ぬくもり ひとひらの雪が 幸福そうに とけていった あなたの、ぬくもり いつか聴いた 冬のしおざい いつか忘れた 冬の、しおざい

さよならの音

すきと告げようとして かみ締めた唇の音 さよならに音があるなら 銀河の彼方へと 消えてゆく流星の音 さよならに音があるなら 遠ざかる船の 汽笛にかき消された潮騒 さよならに音があるなら 海の波を照らす はーばーらいとの瞬き さよならに音があるなら 雪の路を何も言わず 歩いていったあの人の足音 さよならにも音があるなら

(詩)雪だるまの会話

ぼくたち 雪でできているから 冷たいはずだよね 子供たちが 白い息をはきはき つくっていたし こんなに風も 空気も冷たいし 冷たくなかったら ぼくたち とけてしまうはずだよね なのに なんだかぼくたち あったかいね ほっぺただって まっかにほてるくらい あったかくて やさしくて ぼくたち こうふくだよね ほら こんな真夜中なのに 子供部屋の窓から ねむたそうな つぶらな瞳が ぼくたちが とけていないか 心配そうに見ているよ

ズボンについた猫の毛

彼女が恋人の彼と街を歩く時 いつもどこからか 野良猫がやってきて 彼の足にすりよってくるので 彼のズボンはいつも 猫の毛がいっぱいついていた そんなに猫が 嫌いでもなかった彼女も そのズボンについた毛のことだけは 我慢できなくて ある日とうとう彼に迫った わたしと野良猫と あなたはどっちを選ぶの しばらく考えた末 彼は、彼女に別れを告げた それから間もなくして 彼女に新しい恋人ができ その新しい彼氏と 彼女が並んで街を歩いていた時 まだ彼女のまわりに うっすらと

海に降る雪

(一) 雪が見たくて冬まで咲いた ひまわり畑のひまわりに 雪が舞い降りる 雪の冷たさに ひまわりは一瞬で枯れ ひまわりを 太陽と間違えた雪は 一瞬でとけた (二) 降りしきる雪の中で 鳴いてみたくて 冬まで 殻の中に隠れていたせみは 降り出した雪の中で 羽化したけれど 余りの寒さにガタガタ震えて うまく鳴けなかった そんなせみの死骸の上に 雪が舞い降りた そんなせみの抜け殻にも 雪が積もった また今度の夏 羽化するようにと (三) 雪を受け止めようとして 待ってい

スヌーピーのように

いつも遠い星を見上げ まだ見ぬきみを夢見ていた クラスで一番 金持ちの家の少年は いつもぼくにむかって言った クラスのみんなの前で 女の子たちの前で おまえの家はまるで 犬小屋だと そんな犬小屋みたいな ぼろぼろの家の窓にも けれど銀河の光は差し込んだ そんなぼろぼろの家の窓にも けれど純白の雪は舞い降りてきた そんなぼろぼろの家の窓から いつも遠い星を見上げ まだ見ぬきみを夢見ていた 少年の頃 いつか同じように ぼろぼろの家の女の子と 結婚するのが夢だった

(詩)サンタクロース

自分より 不幸せな人を見ると 自分が幸せなことが なんだか 恥ずかしくなる 人込みの中で 泣いている人を見ると 笑っている自分の顔が ロボットのように思う 飢えた子どもたちの映像を TVでながめながら おなかいっぱいの ごはんを食べている わたしがいる 電車を下りて 住む家のない人たちが ふるえている冬の通りを 足早に通り抜け 暖房の効いた 家のドアをあける時 やっぱりどうしても 振り向いてしまう わたしはばかです、ただの なあんにもいいこと なかったんですよ わた

雪の音

雪の夜 耳をふさげば 雪の音、聴こえる 傘の内側に 耳をあてれば 雪の音、聴こえる 傘にあたって 雨に融ける時の 「つめったい」っていう 雪の子どもたちの 声も聴こえた 雪の夜聴いた雪の音は 遠ざかる 誰かの足音に似ている 雪の音はあなたの 涙の音に似ている

(詩)新東京駅

生まれてはじめて 上京した人だけが下車する 新東京ステーション 一度下車したら もう二度と訪れることはない 夢やぶれ帰郷する人も 都会になじんで 東京人になってしまった人も もう二度と再び その駅の改札を くぐることはできない ただ一度生まれてはじめて 東京を目にする時にだけ その駅のプラットホームに 佇むことができる 地図にも時刻表にも存在しない その駅の…… 新下関 新山口 新岩国 新尾道 新倉敷 新神戸 新大阪 新富士 新横浜 かばんに夢だけをつめこ

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが