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魔女のハーブは、あんまり甘くない 2ー1

<二人の少女>

○ハーブのお店
 小さな町の小さなお店。
赤とオレンジのストライプの柄のエプロンをしたミサキ(15)が、カウンターを拭いている。

町の時計台の音がひびくと同時に、2人の少女、アカリ(16)とセーラ(16)がドアを開けて入ってくる。

ミサキ「(笑顔で)いらっしゃいませ」

アカリ「こんにちは」

セーラ「こんにちはー」

ミサキ、どうぞこちらへと、二人をカウンターへうながす。

アカリとセーラ、嬉しそうにカウンターに座るとセーラがミサキを見る。

セーラ「このお店、すっごい、いい香りがしたんで、入っちゃいました」

ミサキ、わあとおどろきながら笑う。

アカリ「おすすめの、ハーブティーをお願いできますか?」

ミサキ「(笑って)はい、ただいま」

ミサキ、厨房へ入り、お湯を沸かす。

アカリ「あれ、その石・・」
アカリ、ミサキの胸のペンダントを見る。

ミサキ「(見ながら)ああ、これですか? これは、母からもらった石なんです」

アカリとセーラ、顔をあわせる。

ミサキ「・・・・?」

セーラ「あの、それは、何か不思議な力を持ってるとかって、言ってました?」

ミサキ、ペンダントを見る。
お湯が、こぽこぽと音を立てる。

ミサキ「不思議な・・、いえ、何も聞いてませが。何かあるんですか、これ?」

セーラ「い、いえ、なんでも。あたしの思い違いかも」

セーラ、両手をひろげ苦笑いをする。
ミサキ、ハーブティーを淹れる。

ミサキ「おまたせしました」

2人の前に、2つのかわいい陶製のティーカップがおかれた。

アカリ「わあ、すごくいい香り」

ミサキ「(笑って)はい、レモングラスなんですが、私が、ちょっぴり手をくわえました」

アカリ「(うなづいて)ですよね。こんな香りのレモングラスは、はじめて」

「ニャ」

下から声がしたので見ると、ミサキ、黒猫がいるのに気づく。

ミサキ「(しゃがんで)あら、黒猫ちゃん、とてもキレイな目」

セーラ、ふふと、ちょっとドヤ顔になる。

セーラ「あたしの飼い猫で、ココっていうんです」

ミサキ「まあ、ステキな名前。私も猫、飼ってるんですよ。でも、その服装で黒猫なんて、なんだか魔女みたい」

アカリが下を向いて、笑いをこらえている。

ミサキ「じゃ、お腹にやさしいヤギさんのミルクで」

ミサキ、棚の奥からミルクが入った瓶を出し小皿にそそぐと、ココの前に出す。

アカリ「まあ、ありがとうございます」

ココ、ヤギのミルクをペチャペチャと小さく飲む。
セーラ、ゆっくり飲みなとココに言っていると、お店のドアが開く。

そっと初老の婦人が顔を出し、ミサキに、にっこり笑う。

ミサキ「あ、おばさん、こんにちは」

婦人「ミサキちゃん、また、ハーブ、もらえるかしら?」

ミサキ「ええ、もちろん」

婦人、ゆっくりとお店の中に入ってくると、アカリとセーラに軽く会釈する。
二人とも、笑顔を返す。

婦人「ミサキちゃんのハーブは、本当によく効くわ。カゼもあっという間に治って、こんな元気よ」

婦人、両手でガッツポーズをする。

ミサキ「(笑って)本当ですか。うれしい。それに、ハーブはもともとお薬として飲まれてましたから」

婦人「そう、ミサキちゃんは、お医者さんね。町のお医者さん」

ミサキ、照れくさそうに笑うと、ハーブのはいった小さなガラス瓶を婦人にわたす。
婦人、嬉しそうにガラス瓶を受け取ると、ドアを開けて帰っていく。

ココ「ニャオ」

ココが、嬉しそうな声をあげる。

ミサキ「あら、猫ちゃん。飲みおわった?」

セーラ「ごちそうさまでした、って言ってます」

よかったと、ミサキはココに言う。

アカリ「(おどろいて)でも、すごい。町の人から、お医者さんなんて言われて」

ミサキ「はい。私、ハーブは、おいしいおくすりだと思ってるんです。あんまり甘くないですけど」

アカリとセーラ、顔を見合わせて笑う。
ミサキ 「?」とまばたきする。

アカリ「それで、聞きたいことがあるんですが・・」

ミサキ「?」

アカリとセーラ、急に困った顔になる。

アカリ「この街で、泊まるとこってあります?  あたしたち、あんまりお金もなくて・・」

二人とも、ひきつった笑みを浮かべ、ココは、床で満足そうに伸びをする。

ミサキ「ああ、それなら」

ミサキ、もう一度、棚の奥を見ると、よっと大きな紙を出す。
カウンターに紙をひろげると、町の地図が大きく描いてある。

ミサキ「えっと・・、ここね」

ミサキ、地図の右はしを指さす。

ミサキ「ここが、いいですよ。とってもやさしいおじいさんがいて、きっと部屋を貸してくれるはずです」

アカリとセーラ、ハイタッチをする。

アカリ・セーラ「「やった!」」

セーラ、ハーブティーを一気に飲み干す。

アカリ「ほんとにありがとうございました。また、きますね」

ココ「ニャ」

アカリとセーラとココが、お店を出ていく。

ミサキ「(手を軽くふって)また、きてくださいね」

ドアが閉まると同時に、お店の電話が鳴る。
ミサキ、電話をとる。

ミサキ「もしもし。あ、アイちゃん?」

アイ「ああ、ミサキ? 今夜は、間に合いそう?」

ミサキ「うん。もう、お客さんもいないし、大丈夫だよ」

アイ「よーし。今夜は、いい星が見れるぞ」

アイの楽しげな笑いが、受話器から聞こえてくる。

アイ「じゃ、いつもの時間に、いつものとこで」

ミサキ「うん」

アイが電話を切る音を聞くと、ミサキは受話器を置く。

「ニャオ」

三毛猫が、カウンターにちょこんと座っていた。
裏の窓が、少し開いていた。

ミサキ「あら、モモ。もうお帰り?  ボーイフレンドは、どうしたの?」

モモ、小さな目を、きゅっとつむる。

ミサキ「え、もう、飽きたって・・、(苦笑い)ほんとに気分屋さんなんだから」

ミサキ「それに、さっきまで、黒猫ちゃんもいたのよ」

モモ、あくびをすると、棚の上にある写真に、ちょんと前足をつけた。

ミサキ「あ、ほら、お姉ちゃんも、おかしいって」

ミサキ、憂いを含んだ笑みを写真に向ける。
窓の外を見ると、夜の空が広がり始めていた。

○町はずれの丘(夜)

町のいちばん高い丘で、アイ(15)が天体望遠鏡をのぞいている。
ミサキ、モモをつれてアイに手をあげる。

アイ「お、ミサキ、ずいぶん早いね。モモちゃんも」

ミサキ「(笑って)うん。なんかワクワクしちゃって」

アイ「ほら、あれ」

アイが夜空を指すと、北斗七星が見える。

ミサキ「わあ、きれい。それにあの小さいのって・・、アルコルだよね?」

アイ「うん、ミザールのそばにあるからね。でも、見せたいのは、それじゃないの」

ミサキ「え? じゃ、どれ?」

アイ「そのそばに、もう一つ、星、見えない?  よーく見て」

アイ、目を大きく開けて、小さく首をかしげる。

ミサキ「特になんにも・・。あれ? 今、なんか赤いのが?」

アイ「そう、それ。 さすがミサキ、よく見えたね」

北斗七星のそばに、赤く光る星がちらちらと見える。
ミサキ、アイを見る。
アイ、胸のまえでパンと両手をあわせる。

アイ「(興奮して)ねえ、これって、まちがいなく大発見だよ! あたしたちの名前が星の名前になるかもしれないよ」

モモ「ニャオ」

アイ「ほら、モモちゃんも、喜んでる!」

アイが、丘の上をぴょんぴょんと飛び跳ねて、はしゃぐ。

ミサキ「ほんとにすごい・・。アイちゃんって天才かも・・、え?」

ミサキ、胸のあたりに熱を感じ、視線を移すと、ペンダントが赤く光っている。

ミサキ「な、なにコレ・・?」

はしゃいでいるアイが、ぴたっと止まる。

アイ「?」

ミサキ、ペンダントを手のひらにおく。

ミサキ「ひ、光ってる・・?」

アイ「ん、どうかした?  あ、あれ、星が・・」

アイが夜空を見ると、星の赤い光がどんどん大きくなっていく。

アイ「うそ・・、星があんなに赤く・・!」

やがて、赤い光が隣の星をも隠してしまうほど大きくなる。

ミサキ・アイ「・・・・」

二人とも、言葉を失う。

ミサキ、ペンダントを見ると、赤い光がだんだん弱くなり、すっと消える。
すると、夜空の赤い星も、消えて見えなくなる。

しばらくの間、丘に夜風が吹き、二人の髪を揺らす。

ミサキ「い、いまのは・・」

アイ「・・・・」

アイ、ペンダントと夜空を交互に見る。

アイ「ミサキ、そのペンダントって、もしかして・・」

ミサキ「?」

アイ、ミサキのそばにかがむと、胸のペンダントをちょんと指先でさわる。

アイ「まだ、すこし熱い。これは、もしかして・・」

アイ、あごに手をあて、探偵ポーズで、うーんと考える。

ミサキ「お、お姉ちゃん・・?」

ミサキ、ペンダントにむかってつぶやく。

アイ「・・え、何か言った?」

ミサキ「う、ううん、何にも」

アイ、ようしと腕をくむ。

アイ「ミサキ、ちょっと、うちに来てくれる?」

ミサキ「?」

アイ、ミサキの手をにぎって、ぐいとひっぱる。

ミサキ「え、ええ?」

二人が丘をくだっていくと、モモがあとについていく。
ミサキ、夜空の北斗七星を見る。

ミサキ「お姉ちゃん・・」

                                                             <2へ続く>

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