魔女のハーブは、あんまり甘くない 第2章 6
○町はずれのコーヒ店(昼)
ミサキ、レンガ色のコーヒー店に入る。
だが、店の中には誰もいない。
店内には、コーヒーの香りと小さなBGMが流れている。
やがて、奥の階段から歩いてくる音がすると、ユウキが顔を出した。
ユウキ「いらっしゃいませ・・あ」
ミサキ「(笑って)こんにちは」
ユウキ「どうも、この前は」
ユウキ、小さく頭をさげる。
ユウキ「(苦笑い)申し訳ありません。店を開けておくなんて」
ミサキ「(手をふって)いえ。でも、どうかしたんですか?」
ユウキ「い、いや、来客の相手をしてまして・・」
ユウキ、どこか落ち着かない様子。
ミサキ「はあ・・」
ミサキ、窓際のテーブルに座り、コーヒーを注文する。
ミサキ「なんだか、ここのコーヒーが飲みたくて、きちゃいました」
そうなんですか、とユウキ。
ミサキ「ユウキさんのコーヒーって、なにかこう、心をほっとさせてくれるような味がするんです」
ユウキ「(笑って)それは、ありがとうございます。僕も、このお店をやっているかいがあります」
ユウキ、注文メモをたたむ。
ユウキ「でも・・」
ミサキ「?」
ユウキ「ミサキさんの淹れてくれるハーブティーも、すばらしかったですよ。あんなのはじめて飲みました」
ミサキ、ほおがあかくなる。
ミサキ「そ、そうですか。そんな、たいしたものじゃ・・」
ユウキ「いえ、あんな元気が出るハーブティーは、はじめてです。飲んだあと、すごく疲れが取れて。ホントに助かりました」
ミサキ、目をそむけて、窓の外を見る。
ユウキが厨房に入り、コーヒーを入れ始める。
外には赤とオレンジの町並みが見えたが、ミサキ、視線のはじに見えたものに心をとめた。
お店の裏の玄関の前に、見慣れた靴が並べてあった。
ミサキ「え・・・・」
ミサキは、体に緊張を感じた。
ユウキ「おまたせしました」
ユウキが、おいしい香りのするコーヒーをミサキの前においた。
ミサキ、ちらりとユウキを見る。
ユウキ「・・?」
ミサキ、ぐっとコーヒーを半分飲むと、カップをおいてお代をユウキにわたす。
ユウキ「あれ、ミサキさん、もういいんですか?」
ミサキ「ええ、とてもおいしかったです。ごちそうさまでした。ちょっと急いでるので」
ユウキ「はい・・」
ミサキ、ユウキに小さく手をふってお店を出ると、お店の裏側にまわり二階を見上げる。
二階の窓にはカーテンがひいてあったが、小さなすき間から知っている後ろ姿が見えた。
ミサキ、すこし考えこんでから早足で港の方へと歩き出した。
○レンガ造りの宿(昼)
丘の右の方にあるレンガ造りの宿。
少しはなれたところで青い瞳の少女、空を見ている。
そばの切りかぶの上では、老人が座って微笑んでいる。
少女「あー、だめだー。今日は、空の調子が悪いみたい」
少女、丘の上に大の字になる。
少女「ねー、おじいちゃん、やっぱ、ムリかなあ?」
少女、座っている老人にむかって言う。
老人「いやいや、お前なら、できるさ。そんな急ぐことはないよ」
老人、笑いながら、ヒゲをなでる。
少女、苦笑いをする。
少女「あー、そうだ」
老人「?」
少女「そういえば、先週から泊まりにきた、あの人たちなんだけど」
老人、なにか気づいたように目を開く。
老人「ああ、あの少女2人のことかい?」
少女「うん、なんか魔女みたいな格好してたでしょ? 小さい人は、ホウキ持ってたし」
老人「おお、そうだな。わしも、ひさしぶりにあんな子を見たよ」
少女「なんか、見てて不思議な感じがしたんだけど」
老人「・・うむ、わしのカンなんだが、あの2人は、ただ者ではない気がするな」
少女、ふーんと返事をする。
老人「それと、もう一人の子なんじゃが」
少女「(すこし考えて)ああ、大きいほうの?」
老人「うむ、あの子は、たぶん・・」
老人、アゴに手を当てて気難しい表情になる。
少女「たぶん?」
老人「いや、遠い昔の記憶だ。たぶん、人違いだよ」
老人、笑顔にもどる。
少女「ふうん。ああ、それで、昨日の夜なんだけど」
老人「?」
少女「丘の上で星と話してたら、不思議な人と会ったの」
老人、顔を前に出す。
老人「不思議な、とは?」
少女「うん、その2人と同じ力を感じた人。なんか、胸に不思議な色のペンダントしてたかな。暗かったけど、まちがいないよ」
老人、もう一度、アゴに手をあてる。
老人「ほ、本当か、それは?」
少女「あれ、おじいちゃん、どうかしたの?」
老人「い、いや、もしかして・・、いや、そんなはずは」
老人、腕を組んで何かを考えていたが、うしろの空に何かが飛んでいるのに少女は気づく。
少女「(指をさして)あ、あれ」
老人?と振り向く。
空に、ホウキに乗った2人の少女が見える。
老人「(笑って)ああ、あの子たちじゃないか。今日も元気に飛んでるな」
老人、切りかぶから体を起こす。
少女も立ち上がって、空の2人を楽しそうに眺める。
少女「あたしも、あんなふうに飛べるようになるのかな・・」
老人「もちろん、できるようになるさ。なんせ、お前は、わしら一族の血をひいてるんだから」
少女「この町って、魔女の町なの?」
老人、小さくうなづく。
少女「ただの言い伝えだと、思ってたけど・・」
少女「そうか、あの2人が、この町にきたのは、そのせいかも・・」
老人「まあ、それも、考えられるな」
老人、丘を見回し両腕をひろげる。
老人「この町も、わしが生まれる前は、黒い大地と呼ばれ、星も出なかったらしい」
少女、まゆをひそめる。
老人「だが、ある日、夜空の向こうで、とてつもない大きな音がして、星のカケラが降ってきたそうだ」
少女「星のカケラ・・」
老人、空を見上げる。
老人「それから、だんだんと、空に星がかがやき、人びとは光の街を夢見るようになったのさ」
少女「光の街・・」
老人「ああ、まだ、人びとの理想とはほど遠いとは思うが、空に星が増えてきているとは思わんか?」
少女、こくりとうなづく。
老人、そっと少女の肩に両手をおく。
老人「お前なら、きっとできるさ」
少女「あたしが、光の街を・・」
老人「ああ」
少女、笑うと、お腹がぐーっと鳴る。
少女、顔が赤くなり、老人は笑い出す。
○丘のてっぺん(夜)
夜空には、まばらに星がうかんでいる。
少女は、お腹を両手でおさえ、満足そうな顔。
少女「あー、お腹いっぱい。やっぱ、おじいちゃんの料理はサイコー」
少女、白い岩の上に座って丘のむこうを見ると、人のシルエットに気づく。
「?」
少女「あれは・・」
少女、目を細め、シルエットをながめる。
少女「たしか、おじいちゃんのとこにいる、背の高いほうの・・」
アカリがココを抱え、町とは反対側へと歩いていくのが見える。
少女「いったい、どこへ・・」
やがて、アカリの姿が、丘のむこうの木々の中に消えていく。
少女、にっこり笑う。
少女「なんか、おもしろそ。ついてってみよ」
少女、白い岩からおりて、木々のほうへと歩いていく。
<Episode7へ、つづく>
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