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書きたくないことばかり書いていたら、書きたいことが書けなくなった

数年間、副業でWEBライターをしていた。

「文章を書く仕事をしたい」と言っていたら、知人伝いで紹介された。主な依頼内容は、ファッション系サイトに設置するコラムの作成だった。

検索エンジンの上位ページ表示を狙って、指定されたテーマと文字数で、指定されたキーワードや関連ワードを散りばめた文章を書く。つまりはSEO記事の作成だ。

わたしが目指していた「文章を書く仕事」とは少し、というか、かなりずれがある気がするけれど、書くことに関しては何の実績もない素人だから、とりあえずやってみよう。

何かしらの勉強にはなるだろうし、月に数万円程度であっても、自分の書いた文章でお金がもらえるのは嬉しいことだ。

そんな気持ちで引き受けた。

空き時間を見つけては「今年のトレンドを徹底解説!おすすめアイテム10選」みたいな記事を、来る日も来る日も書き続けた。

記事の目的は、サイト内の商品ページへさりげなく誘導すること。

今年のトレンドはコレとコレ。なので、こんな商品はいかがでしょうか?という具合に。

ひとつのコラムとして成立させるための最低限の文章力と構成力は必要だけど、読む人の感情を揺さぶるような表現力や、ゼロからイチを生み出すようなクリエイティビティは必要ない。

それでも、せっかく文章を書いてお金をもらうのだから、自分なりに納得できる文章を書こうと、引き受けた当初は意気込んでいた。

より簡潔な文章を目指し、時間をかけて推敲した。おしゃれでキャッチーな言い回しをインプットしようと、ファッション誌を読み込んだりもした。

でも、すぐに気づいてしまう。誰も、わたしの文章なんか読んではいない。

もちろん目を引くタイトルや見出しを冠することで閲覧数が伸びたり、構成次第で記事の滞在時間、ひいては商品ページのクリック数に影響するのだから、SEO的な創意工夫は必要だけど。

文章のクオリティを上げようと思えば時間がかかる。クラウドソーシングサイトに掲載されているような、未経験者向けのライター案件に比べれば条件は良かったけれど(それらがあまりに酷いというのもある)、それでもうかうかしていると、簡単に最低賃金を割ってしまう。

それなりのお金を稼ごうと思えば、文章へのこだわりは捨て、指定された条件通りに、それなりのものを素早く仕立て上げる要領の良さが必須だった。

指定された文字数を稼ぐため、あるいは指定されたキーワードを散りばめるため、くどくどと長ったらしい言い回しを採用し、決まり文句を並べ、量産型の記事を量産する。

検索上位に浮上できればそれが正解だった。

段々と書くこと自体が苦しくなって、半ば自棄っぱちな気分で、どうにかこうにか記事を仕上げた。

お小遣いを稼ぎたいだけなら、別のアルバイトを探した方がマシかなとも思うけど、パソコンひとつで働きたい時に働けるというメリットは捨てがたかったし、自分を騙し騙し、仕事を引き受け続けた。

そうこうしているうちに、好きで書いていた詩や小説が、書けなくなってしまった。書くのは書くのだけど、書いていてまったく楽しくない。そんな風に書いたものはやっぱり全然面白くない。

公募に出すための作品作りも、誰に頼まれたわけでもないのに半ば義務のようになってくる。

どうして書きたかったのか、自分が何をやりたかったのか、わからなくなっていた。

そんな時、なんとなく手にした本の中に「やりたいことを見つけるのが難しければ、まず、やりたくないことを手放そう」という言葉を見つけた。

うん、そういうことだよな、とわたしは思った。薄々気づいてはいた。ただ、勇気がなかった。

継続して仕事をくれる先への罪悪感だとか、副業としての条件だとか理由は色々あるけれど、一度掴んだものを、手放すのが怖かった。

思えば昔から、習い事をやめたいと言えない子どもだった。

幼稚園のころ近所のお姉ちゃんに憧れて始めたピアノは、小学生に上がるころにはすでにやめたくて仕方がなかったのに、どうしてもやめたいと言い出すことができず、結局中学生になって運動部に入り、物理的に続けるのが難しくなるまで続けた。

だけど、もうじゅうぶんに大人なわたしは、自分の人生は、自分で選べることを知っている。

やりたくないことをしている時間は思いのほかエネルギーを消耗するし、人生の時間は限られているから、当然やりたいことをやるための時間も減ってしまう。

やりたくなくても、やらなければならないこともあると思う。でもきっと、少しの覚悟さえあれば、手放せるものだってあるはずだ。

けっこうな遠回りをしたけれど、わたしはわたしの人生を選ぶことにした。

不思議なことに、思い切って副業を手放してからはメインの仕事のお給料が増えたりもした。

今はまた少しずつ、空き時間を見つけては、書きたい文章を書いている。そんな毎日がとても楽しい。

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