見出し画像

My醤油、Your醤油、Our醤油を作る喜び

【自分で作る醤油はまずいという原体験】

 幼少のころ「米・味噌・醤油」が作れれば、自立して生きていく術を知っている事と同じだと、教えられた。その中でも圧倒的難しさを誇ったのが醤油つくりであった。

 醤油つくりを習得する経緯で大きなハードルは毎日の管理と搾りの難しさ。醤油を手作りする場合、毎日毎日飽きもせずかき混ぜ続け、ようやく出来上がったもろみから醤油を搾るのだが、ふつう、一般家庭では布で超す程度の事しかできない。せいぜい、自重でぎゅっと絞るくらい。そしてこの方法で絞った醤油というのは、僕のイメージだと「醤油水」みたいな、薄い、ぼやっとした味の醤油にしかならない。つまり、毎日毎日の管理を繰り返し、ようやく一年育てたもろみに詰まったうまみをしっかりと絞り出すのは、とても難しいのだ。
 
当時、母は、「自分で作ることに意味がある。味に文句を言うな」と、うまくもない中途半端な醤油を惜しげもなく料理に使うものだから、醤油の自作行為は苦い記憶しかなかった。おいしくない醤油のために面倒な事を続けることなどできないのだ。そして、てづくり醤油とはそういうものなのだと、完全に思い込まされていた。

【てづくり醤油はまずいという印象が吹っ飛んだ、新しい学び】

 ところが2009年、長野県で農家てづくりの醤油つくりを伝承されてきた岩崎さんと出会い、家庭で作れる「旨い」醤油の作り方を学び、それまでの醤油釣りに対する記憶と固定概念は見事に吹き飛んだ。(写真は初めて主催した2009年の醤油搾りワークショップで初対面の岩崎さん)

醤油搾り岩崎さん

この時食べた醤油の味は今でも強烈に記憶されている。そして、この時の学びが、現在の醤油つくりのレシピ、ノウハウを習得するきっかけになり、幼少のころの苦手意識が吹っ飛び、「何でも自分でやってみる魂」が再点火されたのだ。そんなこんなで写真に写っているこの時の搾り船(醤油を搾るための道具・機器一式)を岩崎さんから譲り受け、もう10年ちかく、My醤油を作り続けている。

醤油搾り岩崎さん2

【My醤油から、Your醤油、Our醤油への広がり】

 現在は自分の醤油だけではなく、2009年のころの岩崎さんがそうであったように、仕込んだ醤油を搾ってあげるという、搾りの委託を、ワークショップ形式でひき受けている。醤油搾りワークショップのために道具一式を車に積み込んで、いろいろな地域へ赴く機会も増えた。

 どんな地域でも、その地域で仕込まれた醤油には、そこにかかわった方々の個性が醸し出される。その個性にこそ、発酵調味料の面白さだし、だからこそ、その地域や人たちの暮らしぶりが垣間見える。今は、私の醤油だけでなく、あなたの醤油や、私たちの・彼方たちの醤油に触れる機会が増えている。一年にわたり醸される醤油は、調味料が出来上がるプロセスを学ぶだけでなく、そこにかかわる人々もつなげ、醸造されていく。

【醤油作りにしかない、出来上がりを最高に楽しめるという魅力】

 醤油搾りワークショップは、まさに「搾り」にかかわることで完成する喜びに立ち会うことが、最大の魅力であるといえる。この特徴は、コメ作りとみそ作りには無い。コメ作りの楽しみは、通年管理労働の共有だし、みそ作りは、仕込みに必要な労力の共有に特徴があるので、完成のみを共に喜ぶ事は無いといっても過言ではない。

その点、私たちが使う醤油仕込みレシピは、初めの仕込みが超簡単であること、途中の管理も超簡単であることから、作成のプロセスを共有することなどあまりない(麦や大豆の生産、麹つくりから行うならまた別だが)。僕のかかわる醤油作りは、つまり、完成お披露目会に等しいのであり、出来上がりをともに楽しむことが最初で最後の集いなのだ。

【たかが醤油、されど醤油。】
 このような取り組みを通して、最近痛感していることは目的と手段の逆転がおこす、「こじれ現象」だ。昨今は、まあある種の発酵ブームがすさまじい。醤油作りにも、発酵の面白さにひかれて多くの人が集まる。
しかし、醤油作りに関わることの喜びは「旨い醤油」や「上手な発酵管理」の技術を学ぶことではない。そんなものは年を重ね回数を重ねると勝手に上達する。大切なのは、おいしさの追求でもなく、醸造の上達でもないと思っている。大切なのは、かかわる中で、「今できている喜びを共に享受する」という分かち合いだと思う。

 私たちはまずいもの(嫌いなもの)を作りつつげることはできない事を知っている。しかし、成長と上達を追求することも、また、できないし、その必要はない。農ある暮らしや里山経済の魅力は、成長ではなく、「今いる自分の場所と環境と能力」の共有だ。だから、僕の提供する醤油作りは、かかわる人たちが、「今瞬間の喜び」を共有する機会のお手伝いに過ぎない。

「どうすればもっとおいしくなるの?」とか、「発酵をもっと追求したい」とか言われると興ざめしてしまう。

暮らすということは、専門家になることではなく、できるようになる事が増えていく多面の関係を醸造することだ。

だからこそ、完成を単純に喜び分かち合える醤油搾りワークショップは、最高に楽しいのである。

醤油搾り3

https://www.youtube.com/watch?v=m50-XDZcQS0&t=44s
この動画は2020年2月22日岐阜県白川町黒川地区で開催した醤油搾りワークショップの動画です。醤油という調味料を通して、里山の暮らしにかかわる事の楽しさを感じてもらえると嬉しいですし、いつかあなたも、搾りたての醤油を一緒に味わう機会が作れるといいなあ。



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

4
1975年生まれ。「自然食品・天然雑貨のお店 株式会社りんねしゃ」の2代目。地元愛知に市民参加型体験農場、北海道に除虫菊と薄荷栽培、地元飲食店を運営する二拠点有機複合農場を運営。日本で唯一の有機農業全寮制私立愛農学園農業高等学校の副理事長であり国際NGOで若手農業者育成にも従事。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。