煮えたつ遠さ

春は底ぬけみんなむらびと品川に
 ◎
鬱血の踵をもてば燕来る
紫木蓮こゑ出すときの喉濡れて
ほぼ夢の羽虫の浮かび肥る枇杷
やまひつつ茉莉花となり夜を過ごす
ねむたさの晴れてこはれた蛾の模様
 ◎
機器の熱浴び虻に漸近する僕ら
布を広げて五月は腹ばいで来るよ
ぶあつさを虹になれない攣る蹠
夏柳人に人凭るすごい速さ
あじさゐに木曽は煮えたつとほさして
上野からけはひの鳩も灼けてゐる
 ◎
帰る燕にうすむらさきの木の感覚
濡れぼそる木賊の奥に息をぬく
 ◎
まどろみのバス紅葉の関を北へ
なみおとが来て蓑虫はぜんぶ夢
枯れてゆく勿来に息をぶあつくす
藻の日々を息白くしてみんなゐる
自転車の冬はせせらぎめく身体
 ◎
肉親よ冬あたたかを薔薇は澄み
病体やゆらぎながらに鯨来る
人は冬うはごとさいかうに港
まいにちを猫のうろつく花八手
水涸れてもみの木にある日のぜんぶ
 ◎
金縷梅のみなみへ泪みなぎらせ
日の暈の色放心の春の馬
野遊びの耳を飾つてまるで忌の

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