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持続可能な物流を目指して2

今回は持続可能な物流を目指しての2回目です。
これまでトラック運賃は長らく買手市場で価格低下が著しかったという背景があり、明らかに運賃が低いものが見受けられます。しかし、いざ値上げ要請が来ても、ロジカルな説明をしてもらえず、困っている荷主の方も多いと思います。

どのように値上げの説明をすれば良いのか分からない営業の方が多いように感じていますので、私自身が値上げ要請を受けた時に欲しいと思う情報を共有したいと思います。値上交渉の参考になればと思い記事にしてみました。

荷主でも運賃の妥当な評価方法が分からないという方もいると思います。ぜひこの記事を参考にして活発な議論をして頂けたらと思います。


進まない議論


値上げ交渉は最近よく聞くようになりました。2024年問題もあり、前向きに検討している荷主の方も多いと思います。

ところが困ったことに、当の運送会社からロジカルな説明がされないことが多いように思います。少なくとも私はそうです。私の場合は一部を除きほぼ説明してもらえません。

社内で値上げの必要性を説明して承認を得たいのに値上げの根拠が全くないのです。

ロジカルに説明出来ない側にも理由があります。多くの運送会社では運賃低下に合わせて削れる人件費は削り切っていて細かなコスト管理を行う能力が無くなっているのです。適切な営業担当者もいなければ、コスト管理する担当者もいないので、どんぶり勘定での価格決めも少なくないでしょう。そこに説明を求められても回答できないという状況です。

このような状況では運賃に関する議論も出来ず、お互いの理解も深まらないのです。

ロジカルな説明の必要性


今、目指すべきゴールは何でしょうか?

適正な価格を維持して安定した物流サービスが提供され、最適なサプライチェーンを構築する事です。これは荷主も物流業者も共に発展する事を意味しています。

ところが運送会社が赤字を垂れ流し、突然倒産されたり、整備不良で遅延や事故を起こしてはゴールを目指せません。また事故の原因が低運賃だとしたら、荷主も社会的な責任を問われるでしょう。また今後はドライバーの確保も容易ではなくなります。

物流インフラを維持していくには、適正な維持費を運送会社に保証することが重要です。運送会社も荷主に対して必要なコストを明確に提示しておくべきです。

何かが変動した時には価格を円滑に追従させていく増減していく事が持続可能な物流に繋がります。

ロジカルな説明は一時的な値上げのために行うのではなく、荷主と物流パートナーが持続的に共存するために共有しておくべき事項だと思います。

運賃の分解


さてロジカルな説明で、やるべき事はシンプルです。運賃を徹底して分解します。

こうする事で議論を発散させなくします。分解する事で問題点も明確になります。お互いの改善の話し合いのために何のコストがどれだけ掛かっているのかクリアにしましょう。

トラックの費用はおおよそ下の通りに分解出来ると思います。

(運賃分解)

  1. 車両減価償却

  2. 燃料代

  3. 高速代

  4. 維持費

  5. 人件費

  6. 管理費


これらのポイントについて詳しく解説をして頂きたいと思います。

1.車両減価償却は以下の計算式で算出できます。
 車両減価償却=車両取得額÷使用年数÷稼働日/年x運行日数÷稼働率
運行あたりの車両の取得費を使用日数から計算します。ただ365日運行できる訳ではありませんので稼働率を勘案した稼働日数で割ります。

2. 燃料代は走行距離を燃費で割り使用する燃料のリットル数を算出し、燃料単価を掛けます。ただ実運送距離だけでなく、回送や往復もあり得ますので必要あればそれも係数として掛けておきます。
 燃料代=走行距離÷燃費x燃料単価(x往復/回送率など)

3.高速代=実費です。

4.維持費は車検やタイヤ交換などのメンテナンス費用を運行あたりの費用にします。減価償却と同じ考え方です。
 維持費=維持費÷稼働日/年x運行日数÷稼働率

5.人件費はドライバーの費用です。年収と社会保険・退職金などの費用を運行あたりの費用にします。
 人件費=(年収+社会保険等)÷稼働日x想定運転時間/8Hx稼働率

6.管理費はトラックだけでは運行は出来ませんので管理費率での算出が適当です。
 管理費=上記費用合計x管理費率
  管理費率=(年間の事務経費、税金、管理者人件費など)÷年間売上原価

ロジカルな運賃説明を実際に計算してみたい方は、こちらからスプレッドシートをダウンロードしてシミュレーションをしてみて下さい。

ターゲットを絞る


運賃の分解が出来たら値上げ交渉のターゲットを絞ります。

特に交渉したいのは5.人件費です。ドライバーの給与を改善したいのでこれなら人が集められるだろうという価格が定められるとベストです。実際には成り手が少ないので妥当な金額は難しいですが、ターゲットは定めたいところです。ドライバーの平均年収は400万円前後です。これでは人が集まりませんので500、600万円に上げたい!と交渉するのが理解しやすいでしょう。

また分かりやすいのは2.燃料代、3.高速代です。これは運送会社ではどうしようもないコストです。コストが上がった分の値上げは正当な要求です。ただ基準価格を持っていないと困ります。受注して値段を決めた時に遡って確認が1番ですが、無ければ値段が上がる前を仮の基準に置いても止むなしでしょう。今後のためと割り切りましょう。

1.車両減価償却についてはCO2削減のため買い替えたい、稼働率を上げて単価を下げたいので手配数を増やして欲しいと話すのも良いと思います。

もしサービスで行っていた作業などがあれば、それを明確にしてその分の作業費を貰うなども手はあります。

どちらにしても値上げすべきポイントを絞って自分達の土俵で会話する事が重要です。

物流特殊指定


基本的なルールも理解しておきましょう。
荷主も物流パートナーも意外と理解されていない方が多いです。

下請法では同業者間の資本金の大小で適用される法令で、注文書の発行や禁止行為が定められています。荷主企業と運送会社は基本的には同業者ではないため下請法は適用されません。しかし運送会社が不利な立場になる傾向にあるため、運送事業者を保護する目的で独禁法の物流特殊指定が下請法に近い形で規定されています。
主な禁止行為は以下の通りです。

(独禁法物流特殊指定の主な禁止行為)

  1. 代金の支払い遅延

  2. 代金の減額

  3. 買いたたき

  4. 物の購入強制・役務の利用強制

  5. 不当な変更

  6. 要求拒否・情報提供に対する報復措置

合意した運賃の減額、支払遅延は当然禁止です。
また一方的な値決めも”買いたたき”に該当します。急な納期・納地変更にも関わらず追加費用を支払わない行為も”不当な変更”に該当します。詳細はこちらのリンクから確認して下さい。

このルールを理解していれば、無理な事を言われた際に「それはコンプラ違反になってしまうので」と軽く返せると交渉の主導権が握れるでしょう。また荷主の担当者にもモラルの低い方はいます。あまりに度が過ぎる場合には公正取引委員会に相談してみましょう。

まとめ


運賃の全てを開示してしまうと利益が出ている他の運賃との説明が出来なくなる、余計に突っ込まれてしまう。そう考える人も多いでしょう。しかしトラック運賃は底値に達しています。共存するために、この機会にこそ話し合いと見直しが必要です。

また2024年問題だけを理由に値上げに成功した会社も多いと思います。ただこれはいつまでも続かないです。次の交渉のネタを減らしているのとも言えます。
次の交渉時には、必ず前回値上げしたのは何だったんですか?と問われます。

安易な値上げは持続可能な物流には向かいません。今後のために何をすべきなのかしっかりと考え直して交渉に挑んで欲しいと思います。

もしロジカルな運賃の説明が理解できない、難しい、分析する人がいない、という方は運賃分解を支援しますので物流DAOにお気軽にご相談を下さい。連絡はこちらからお願いします。

以上、今回はここまで。
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