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アイドルの前世を探す旅の話

あえて誰とは言わないのだけど、今も現役で活動するあるアイドルさんには、前世があることは聞いていた。

念のため説明すると前世とはアイドル界隈用語で以前に所属してたグループおよびその時の活動名を指す。アイドルには設定も名前もあり、グループが変われば違うものになる。事務所も変わるのでSNSアカウントも連結してないケースが多い。あたかも別人なので「前世」と呼ぶ。

これの扱いは様々でそもそも隠しようもない規模のこともあるし、あんまり公にはしたがらないケースもある。どっちにしろアイドルさんの多くは昔の写真を掘り返されるのは嫌がる。

一方でオタクはやっぱりオタクなので推しのヒストリーは可能な限り収集したい。

だがこれほど情報が世界を覆うような時代であってもその試みは意外と難しい。

早いのは古参のオタクに聞くことだが、それではつまらないので独力で頑張ってみる。

さて、アイドルのアカウントは多くの場合、事務所管理である。脱退と共にクローズされてそのままでの転生を認めないことが多い。この契約がまずいきなり多くの情報をこの世から消し去ってしまう。自撮りもタイテもなくなる。その子を一本化して遡れる情報がゴソっと消えてしまう。膨大なオタクのリプライももう連結させたものとしては発掘出来ない。

インタビュー記事やwikiがあるグループばかりではない。地下アイドルの多くは他所の媒体に取り上げられることは稀。ライブレポート記事なども出てこない。当然、現在のグループの公式にまとまっていたりもしない。

散逸した情報にアクセスするにはキーがいる。でなければインターネットの情報には入れない。

前世のグループ名も活動名もわからない。せめて活動名が同じである可能性にかけて無限に検索遡る手もある。エゴサ対策された固有性の高い名前ならそれでもヒットさせられるかも。ただそんな名前をそのまま引き継いでることは稀である。

オタクがそういう会話をしている可能性に賭けて「●● 前世」で検索してみる。だが案外オタクはそういう話をしていないし、小規模なグループではフォロー返しやリストでオタクが管理されてるのでエゴサワード入れて発信する人が少ない。

さて困った。アイドル活動という比較的目立つ仕事をしていて、かつ現役でもあるのに経歴が追えない。少なくとも2年とか立つとそんな感じになる。そもそもそのグループ自体が消滅してることさえある。その場合は余計に手がかりがない。そんなバカなとも思うのだが本当にそうなのだ。

そこで考えてみる。少なくともその当時には継続して追いかけようとしたオタクがいるはずだ。そいつを辿ればいいのではないか。

そこでその子の加入ファーストTwを掘り、そのリプ欄を覗く。はっきりは書いてないが、元から知ってる風のやつを探す。ぐぬぬ、あまり多くない…多くないがいることはいる。

そいつのそれ以前のTwを掘っていく。クソ、RTばかりでなんも書いてねえ。(前世のアカウントが消えてるのでそこからも消えてる)

じゃあ別のやつだ。クソ、こいつもなんも書いてねえ…ん?この名前は??現在の活動名に似た名前を見つける。アプリメーカーとかの「あなたと仲良いフォロワーさんランキング」みたいなやつ。

その名前で検索すると…あった。幸いそのグループのアカウント(1年前に唐突に更新が止まってるが生きてる)ものが残っていて、そこで前世の彼女の姿が確認できた。掘り進んでいくとYouTubeのライブ動画なども出てくる。キーワードさえわかればそれなりの情報にはアクセスができるようになる。

ただ当時そのライブを観てたファンがどんな感想を持ったのか、みたいなTwはエゴサワードで調べるには限界があってほとんどサルベージできなかった。

こういうことは地下ではよくあるのだ。小規模でもライブハウスでライブしてた子たちがいてそのファンもいたはずなのに一緒にチェキ撮ったりしたはずなのに何もなかったかのように情報が出てこない。

オタクが後から検索で追える形で何も残してないのである。おそらくそんなことをしなくても見てくれる運用になってたりリプライが主だったりしたからだ。その情報は二度とアーカイブから掘り出されることはない。鍵がなければインターネットは開かない。

これは悪いことばかりでもない。本人が後でアイドルやってたことをあまり知られたくない人生を歩む時にはこのクローズ性は実に有用だ。忘れられる権利なんて言われて難しいが実際に全てを抹消するのは困難だから。

しかし一方でこれは別の子の話だけど、その子の脱退告知は例のクソ運営作文でボロクソに書かれていた。素行不良だの繋がりだの。面白いのは同時にアカウントロックされてしまった彼女は公式アカウントを乗っ取って反論を始めた。運営が慌てて矢継ぎ早に削除するがまた投稿されるという。これをその時気づいたオタクがスクショをとって投稿してる。珍事ではあったので地下アイドル媒体にも取り上げられ、今は両論併記で知ることができる。

何より、そのまま信じればアイドル失格の手酷い暴露文だったが、当時のオタクの反論や日頃のライブの感想も出てきたことで良い現場を作ってて人気メンバーだったこともわかる。

となれば、一方の言い分が正しいとも言えない。答えは現場にしかない。これはオタクがちゃんと残しておいたからこそ知ることができたことだ。

↑このサブブログでも書いたのだけど、SNSを削除され、活動履歴を追うことが困難な地下アイドルの最後は運営が書いたお知らせ文が「正史」になる。それが一方的で虚偽を含んでいても、どんなに頑張ってオタクを楽しませていても最後はこのペライチにまとめられて終わりだ。

貴方が発信しない限り。

最近はnoteを書くオタクも増えた。もちろん昔から撮可ライブってのがありその姿を残すこともできる。でもちゃんと日々のライブの感想や推しへの想いは後から検索可能な形で節目節目だけでもいいから残しておくことをオススメする。

彼女たちが流した汗も涙もオタクと交わした思い出も簡単に何も残らなくなってしまうから。例えそれぞれの心の中にあったとしても僕はそのことがとても切ないとも思う。

いつかそれが一方的に悪評を着せられた誰かを守ったり救ったりすることもあるかもしれない。

アイドルは儚い。

常に成長する彼女たちは小さな死を繰り返しているものだ。うまく歌えなかった貴方も踊れなかった貴方も日々これ消えていく。その最後がパッと消えてしまうものであるのも、それはそれで趣はあるのかもしれない。

でも自分はちょっとだけそれに抗ってみたい。だから文章を書き、写真を撮るのだと思う。その姿を、それが湧かせた感情を焼き付けていくために。

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