見出し画像

青騎士 創刊によせて

むかし、ある漫画編集者に聞いた。あなたはなぜ漫画編集者になったのですかと。彼は答えた。

「俺は、大学生を6年やった。授業のなかには興味をひくものもあったが、友だちは出来ず、金も無く、安い下宿にただ転がって1日中天井を見つめて腹をすかせるだけの時間を過ごしていた。そのとき、1冊の週刊少年マガジンを何度も何度も読んだ。雑誌の端から端まで、小さな文字のすべてにいたるまで何度も読み返した」
「読んでいるあいだは腹も空かなかった。漫画の世界に没頭した。楽しかったし、面白かった。俺は救われたんだ。漫画はすごい。漫画は人を救う。だから漫画の編集者を志したんだ」。

忘れられない話だった。
僕はなぜ漫画編集者を志したのだろうか。

僕は小学生のころから受験勉強漬けの子供だった。学校の合い間に塾へ通い、家庭教師も雇ってもらって、時間のすべてを受験勉強に使っていた。毎日ただひたすらつらかった。小学5年生のころ、地下鉄駅の売店で『ウイングマン』の単行本を買った。その1冊を何度も何度も読み返した。広野健太を応援しながら僕もいっしょに戦っていた。死ね、死ね、死ねライエル。そうだった、僕も救われたんだった。光りのない、真っ暗な小学生の毎日に、360円の単行本だけが希望だったんだ。

僕は漫画の編集者になった。町には漫画だけ売る漫画専門店という書店が出来るようになった。同人誌即売会にも行った。インターネットが発達して、ウェブ上で無料の漫画がたくさん読まれるようになった。外国にも行った。『ドラえもん』しかなかったベトナムでも、自分の作った漫画が売られるようになった。アニメ化も経験し、取材も受けた。漫画賞を取り、後輩もたくさん出来た。そして。

僕はいつも聞きたい。後輩たちに。「キミは、なぜ漫画編集者になったんですか」。僕は46歳になったいまでも、ひとコマ、ひとコマ。1ページ、1ページ。漫画の向こうの読者を救うために、漫画を作っているんだよ。

-------------------------------------------------------------------------------------

新創刊する青騎士には、KADOKAWAの3つの編集部から有志が集まっている。3つの雑誌はそれぞれ異なる対象読者に向けて作られているが、漫画作りにかける情熱はどちらも変わらない。月刊ASUKAも、電撃マオウもハルタも、それぞれの雑誌を全力で作っている。

そのうえで、自分たちの編集技術を伸ばすために、それぞれが手を組み、ひとつの漫画誌を作ることになった。2018年には一度、ブック・イン・ブックの形で発行していた青騎士は、その価値が認められ、3年経って独立創刊へと至ることになった。

いつも、毎日、初心に還り、全力を尽くして、さらに上に行きたい。僕らのこの創刊が、漫画業界をよりいっそう、豊かなものにすると誓います。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!