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ペルシア語とダリー語の単語の違い

アフガニスタンの公用語の一つダリー語は、ペルシア語の方言だとよくいわれる。たしかに文法は同じで、一部単語が異なる程度の違いではある。しかし単語が違うだけだ、と片付けることもできない。会話で伝えようとしてもまったく通じないこともある。

ペルシア語とダリー語の単語の違いについて具体的なイメージを掴むため、以下に100コ例を挙げておきたいと思う。

*なお、本記事は、2019年5月にTwitter上に書き散らかして散逸していたつぶやきをまとめたものです。臨場感があるので誤字脱字もそのまま掲載します。

***

アフガニスタンの公用語の一つダリー語はペルシア語の方言で、文法構造などは同じですが、用いられる単語や発音が異なるところが多いです。よく使われる単語で違いを紹介したいと思います。

(1)大学
ペルシア語で「大学」はدانشگاه(ダーネシュガー)ですが、ダリー語でپوهنتون(プーハントゥーン)です。カーブル大学は、プーハントゥーネ・カーブルとなります。プーハントゥーンはパシュトゥー語(もう一つの公用語)。なおダーネシュガーのダーネシュは知識、ガーは場所という意味です。

(2)学部
学部はペルシア語でدانشکده(ダーネシュカデ)だが、ダリー語ではپوهنځی(プーハンザイ)。大学のプーハントゥーンと同様、もともとパシュトゥー語。「ザ(je)」の文字はパシュトゥー語特有。例)カーブル大学文学部:プーハンザイェ・アダビーィヤート・プーハントゥーネ・カーブル。

(3)日本
ペルシア語で日本はژاپن(zhāpan;ジャーパン)だが、ダリー語ではجاپان(jāpān;ジャーパーン)。「日本」の綴り方を見ただけで、その人がイラン人かアフガニスタン人かわかる(話せば訛りですぐわかるが)。

(4)川
ペルシア語で川はرود(ルード)もしくはرودخانه(ルードハーネ)だが、ダリー語ではدریا(ダリヤー)というのが一般的。しかし、ペルシア語ではダリヤーが海の意味なのでイランの人がダリー語を聞くと違和感があるらしい。ただダリー語から入った人間からすると川はダリヤー以外の何物でもない。なお、ダリー語で海はبحر(バヘル)。川はダリヤー、海はバヘルということで使い分ける。

(5)「ه(he)」の音
単語の違いというわけではないが、「ه(he)」の音が文尾に来た時、ペルシア語では「エ(e)」の音だが、ダリー語では「ア(a)」の音の方が近い。例えば、「手紙」はペルシア語で「ナーメ」だが、ダリー語では「ナーマ」に聞こえる。一事が万事こうなので脳内変換は一筋縄でない。

(6)ミネラルウォーター
ミネラルウォーターはペルシア語でآب معدنی(アーベ・マァダニー)だが、ダリー語ではآب مینرلی(アーベ・ミーネラリー)。ダリー語では英語をそのまま取り込むことが多い。私はイランに行って「アーベ・ミーネラリーください」とボーイさんに言って通じず驚愕したことがある。

(7)休日
ペルシア語でتعطیل(タァティール)だが、ダリー語でرخصتی(ロフサティー)。イランの人には「تعطیله؟(お休みですか?)」といった会話が普通だが、アフガンの人は単語が違う上に、「ヘー」を末尾に付す用法も用いないので通じない。同じことを聞くのであれば、「رخصبی است؟」と聞くと思う。

(8)渋滞
渋滞をペルシア語ではراهبندان(rāh-bandān)と表現するが、ダリー語ではبیروبار(bīrūbōr)という。「امروز بسیار بیروبار است(今日はとても渋滞してるね)」など。ラーバンダーン(道(ラー)が閉鎖(バンド))はペルシア語圏で通じるが、アフガンではビールーボールが一般的に使われる。

(9)大きい
簡単なものを少し。「大きい」と言う時、ペルシア語ではبزرگ(bozorg)だが、ダリー語ではکلان(kalān)。کلانもペルシア語にあるにはあるが、日常的には聞かないような気がする。

(10)小さい
「小さい」はペルシア語でکوچک(kūchek)だが、ダリー語ではخرد(khord)。教科書にありそうな例文の「あの猫は小さい」は、
(ペ)آن گربه کوچک است
(ダ)آن پشک خرد است
となる(猫はペシャク;後に説明)。この短い文で単語が2つ違うと、理解不能になる。

(11)猫
猫はペルシア語でگربه(gorbe)だが、ダリー語でپشک(peshak)。アフガニスタンではゴルベという言葉を聞いたことがない。一方で、イラン人がペシャクと聞くと何を思い浮かべるのだろうか?

(12)ノート
身近なもの。「ノート」はペルシア語でدفتر(daftar)、ダリー語でکتابچه(ketābcha)。ketābcha(e)は本のکتابに接尾辞のچهがついたもの(他にباغچه等)。この言葉はペルシア語にもあるので、一般的な用法としてどれを常用するか、という話。

(13)事務所
「ノート」を意味するدفترには事務所という意味もあり、ダリー語では「事務所、職場」という意味合いでよく使う。ペルシア語ではدبیرخانه(dabīr-khāne)の方が一般的か。

(14)鉛筆
「鉛筆」はペルシア語でمداد(medād)、ダリー語でپنسل(pensil)。ダリー語はやはり英語をそのまま取り込んだ形。鉛筆削りはپنسلپاک(pensil-pāk)。

(15)ボールペン
「ボールペン」はペルシア語でخودکار(khod-kār)、ダリー語ではقلم(qalam)が一般的。もちろん、ペルシア語でもペンの意味でقلمはあり、قلم خودکارという言い方もするが、ダリー語ではقلمだけでボールペンのことを思い浮かべることが多い。

(16)学校
ペルシア語では学校一般をمدرسه(madrese)、小学校をدبستان(dabestān)と、ダリー語では学校をمکتب(maktab)と、宗教教育を行う学校をمدرسهいう。ペルシア語にもمکتبという言葉はあるようだが、あまり日常的に使われないような印象がある。

(17)病院
病院をペルシア語ではبیمارستان(bīmārestān)、ダリー語ではشفاخانه(shafā-khāna)という。shafāは「治療」という意味なのでペルシア語話者にも意味が想像できると思うがおそらくshafā-khānaという言い方は一般的ではない。

(18)孤児院
施設関連で続けて書くと、孤児院はペルシア語でیتیمخانه(yatīm-khāne)というが、ダリー語ではمرستون(marastūn)という。مرستونはペルシア語にはないのでパシュトゥー語だと思われる。

(19)ドア
ドアをペルシア語でدر(dar)というが、ダリー語だとدروازه(darvāza)という。ペルシア語ではdarvāzaは門、城門を指すが、アフガニスタンでは扉、ドアを指すように思う。

(20)閉める
これに関連して、「ドアを閉めて」をそれぞれ言うと、

(ペ)در را ببندی
(ダ)دروازه را بسته کن

となる。どちらもبستن(閉める)という動詞を使うのだが、ダリー語の場合はبستنの過去分詞+کردنになる。こうした用法はアフガニスタンでは多い。

(21)書く
過去分詞+کردنの例としては、「書く」がある。ペルシア語ではنوشتن(neveshtan)、ダリー語ではنوشته کردن(nūshta kardan)となる。

例)ここの名前を書いてください
(ペ)اینجا اسمتان بنویسی
(ダ)اینجا اسمتان نوشته کن

(もちろん、アフガニスタンでもペルシア語の用法は理解される)

(22)窓
「窓」はペルシア語でپنجره(panjare)だが、アフガニスタンのダリー語ではکلکین(kilkīn)。

(23)お元気ですか?(Are you fine?)
ペルシア語ではخوبه؟(khūbe?)と聞くのが一般的だが、ダリー語ではخوب هستید؟(khūb hastīd?)と聞く。テヘランを中心としてイランでは時代とともに省略される形が通用するようになったのかもしれない。

(24)お元気ですか?(How are you?)
ペルシア語ではچطوری؟(che-touri?)、ダリー語ではچطور هستید؟(che-tour hastīd?)が一般的だ。言語は使われる内に省略されることがあるが、場所によって古いまま残ることもある。ペルシア語とダリー語の関係はそういうものかもしれない。

(25)ありがとう
ペルシア語ではمرسی(mersi), متشکرم(motashakkeram)といった表現がされるが、ダリー語ではتشکر(tashakkur)が使われる。どうもありがとうはبسیار زیاد تشکرやیک جهان تشکرなど。ちなみにトルコでもありがとうをタシャクルと言うのは興味深い。

(26)椅子
「椅子」はペルシア語でصندلی(sandalī)、ダリー語でچوکی(chūkī)。sandalīはダリー語では「こたつ」の意味となる。両言語の違いの一例として、やたら出てくる。累次書いているように、他にもたくさん事例はあるのだが。。。

(27)靴
身近なものの違いでは、「靴」をダリー語ではبوت(būt)という。ペルシア語ではگفش(kafsh)。ダリー語は、英語のbootを取り込んだように思われる。新聞等でkafshが用いられることがあるが、日常会話では使われない。

(28)200
数字の発音も微妙に違うのだが、全く違うのが200。ペルシア語だとدویست(devīst)だが、ダリー語ではدو صد(do sad)。2(do)と100(sad)を続けていうと200になる。

(29)車
「車」はペルシア語ではماشین(māshīn)で、ダリー語ではموتر(mūtar)。イランでmūtarと言っても通じないし(エンジンだと思うか?)、アフガニスタンでmāshīnと言っても通じない。興味深いのは、この場合、どちらも英語から来ているところ(machine, motor)。

(30)砂糖
お茶に砂糖を入れる際に両国での単語の違いは困る。ペルシア語ではشکر(shekar)、ダリー語ではبوره(būra)。ダリー語で「砂糖ありませんか?」は「بوره ندارید؟」だが、イランでは通じない。

(31)カメラ
カメラは、ペルシア語でدوربین(dūr-bīn)、ダリー語でکامره(kāmra)。ダリー語は英語を取り入れた。ドゥール・ビーンという言い方はものすごいイランっぽい感じがする。

(32)自転車
ペルシア語でدوچرخه(do-charkhe)、ダリー語でبایسکیل(bāiskīl)。イランでは外来語をなるべくペルシア的な言葉で置き換えるようだ。ただ、コンピューター、テレビなどはそのまま入った(کامپیوتر. تلویزیون)ので、上手くいかない場合もあるようだ。

(33)保健省
ペルシア語ではوزارت بهداشت(vezārat beh-dāsht)だが、ダリー語でوزارت صحت عامه(vezārat sehhat āmma)となる。政府省庁などの名称で、ペルシア語とダリー語で違うものはけっこうある。

(34)検察庁
よく使う単語で全然違うのが検察庁。ペルシア語でدادسرا(dād-sarā)、ダリー語でلوی څارنوالی(lūi cāranvālī)。パシュトゥー語から来ている。検察官はلوی څارنوالとなる。「څ(ce)」の文字はパシュトゥー語特有。

(35)最高裁判所
最高裁判所はペルシア語でدادگاه عالی(dād-gāh ālī)、ダリー語でستره محکمه(stra mahkama)。

(36)下院
下院のことをダリー語ではولسی جرگه(wolesi jirga)と言うが、そのペルシア語訳はمجلس نمایندگان(majles-e namāyandegān)。ただ、アフガニスタンは二院制だが、イランは一院制なので単純に比較できない。

(37)上院
「上院」をダリー語ではمشرانو جرگه(mashrānū jirga)と言うが、ペルシア語読みではمجلس سنا(majles-e senā)と言う。

(38)寮
大学などの「寮」のことをペルシア語ではخوابگاه(khāb-gāh)というが、ダリー語ではلیلیه(lailia)という。ペルシア語の呼び方は、そのまま寝る(khāb)ところ(gāh)ということだが、ダリー語の呼び方はパシュトゥー語を使っている。

(39)胡桃(くるみ)
表現方法が面白いのは胡桃の呼び方。ペルシア語ではگردو(gerdū; 丸い(gerd)からの派生語)、ダリー語ではچهار مغز(chahār maghz; 4つ(chahār)の脳(maghz)の合成語)と呼ぶ。胡桃は、割る前は丸く、割った後は脳みそのようだからだろう(と思う。。。)

(40)ズボン
「ズボン」はペルシア語でشلوار(shalvār)、ダリー語でپتلون(patlūn)。シャルワールと聞くと、南アジアの伝統衣装シャルワールカミーズを思い出してしまう。

(41)美しい
「美しい」という形容詞はペルシア語ではقشنگ(qashang), زیبا(zībā)などが使われるが、ダリー語ではمقبول(maqbūl)が最も多用されるように感じる。イランでも「かわいい、きれいな」という意味を持っているようだが、アフガニスタンほど使われないであろう。

(42)秋
「秋」をペルシア語ではپاییز(pāyīz)で表すことが多い感じがするが、ダリー語ではخزان(khazān)もしくはتیرما(tīrmā)で表すことが多い。

(43)道、通り
「道、通り」を表す時、イランでよく聞くخیابان(khiyābān;大通り)という言葉はアフガニスタンではほとんど聞かれない。ダリー語ではسرک(sarak)をよく使う。

(44)毛布
「毛布」はペルシア語でپتو(patū)と呼ぶが、ダリー語ではکمپل(kampal)と呼ぶ。アフガニスタンではパトゥーというと、男性が体に巻く大判のストールのことを表す。なお、そのパトゥーは防寒具にも、時として礼拝用カーペットや毛布にもなる便利グッズなのだが。

(45)~わかりますか(知ってますか?)
日常会話で「~わかりますか?」と聞く時、イランでمی دانید؟(mī dānīd?)とدانستن(dānestan)を使うことが多いが、アフガニスタンではمی فهمید؟(fahmīdan)と使うことが多い。これは単語の違いというよりも感覚的なところ。

(46)フォーク
フォークをペルシア語でچنگال(changāl)、ダリー語でپنجه(panja)と言う。ダリー語のپنجهはپنج(数字の5)の派生語。ペルシア語で派生語は結構多い。身近なものでは、هفته(週)はهفت(七)の派生語。چشم(目)とچشمه(泉)も。

(47)じゃがいも
じゃがいもはペルシア語でسیب زمینی(sib-zamīnī)、ダリー語でکچالو(kachālū)。ペルシア語は「地上の+りんご」という表現。一方、ダリー語のカチャールーというのは独特(何語に起源があるか要調査)。ただ、アフガン人の中でも面白い響きという感覚がある。カーブルにはじゃがいもを冠した「ポステ・カチャールー」という関所のようなところがある。またバーミヤーン州はじゃがいもが名産品として有名。「バーミヤーン州のじゃがいも」「クンドゥーズ州のメロン」「ラグマーン州の狡賢い人」等は定型句みたいなもので冗談や会話で用いられる。

(48)カリフラワー
カリフラワーはペルシア語でگل کلم(gol-kalam)、ダリー語でگلپی(golpī)と言う。ペルシア語は「花+キャベツ」という表現。アフガニスタンでは、安価なカリフラワーやじゃがいもを玉ねぎや油で炒めた家庭料理が、ナーンとともによく食べられる。

(49)はい
はい/いいえの「はい」を、ペルシア語ではبله(bale)と綴るが、ダリー語ではبلی(balī)と綴る。ただ、ややこしいがアフガニスタンでبلهと書くこともある(一方、イランでبلیと書くことはない)。アフガニスタンでは正書法が確立されていないということだろう。

(50)いいえ
はい/いいえの「いいえ」を、ペルシア語ではنه(na)と綴るが、ダリー語ではنی(nī)と綴る。アフガニスタンではنخیر(nakhair)と言うこともある。

(51)人生、生活
そういえばこれも正書法の問題だと思うのだが、ペルシア語では「人生、生活」をزندگی(zendegī)と綴るが、ダリー語ではزندگیと綴ることもあればزنده گیと綴ることもある(気がする)。

(52)トマト 
食材系を書くと長いのだがお付き合いいただければありがたい。トマトは、ペルシア語でگوجه فرنگی(gouje-farangī)、ダリー語でبانجان رومی(bānjān rūmī)。音からして全然違う。بانجانはبادنجان(なすの意)が変形したように思われる。理由は↓(53)を見るとわかる。茄子をペルシア語ではبادنجان(bādenjān)と言い、ダリー語ではبانجان سیاه(bānjāj siyāh)と言う。ダリー語の場合、トマトと茄子をセットで覚えると覚えやすい。「バーンジャーン+ローマの(رومی)=トマト」、「バーンジャーン+黒い(سیاه)=茄子」。

(54)人参
人参のことをペルシア語でهویج(havīj)と言うが、ダリー語ではزردک(zardak)と言うのが一般的。زردは「黄色」の意味なので、黄色の小さいやつという感じだろうか(←ただの推論)。

(55)バター
バターをペルシア語でکره(kare)と言うが、ダリー語ではمسکه(maska)と言う。

(56)胡椒
胡椒のことをペルシア語でفلفل(felfel)と言うが、ダリー語ではمرچ سیاه(murchi siyāh)と言う。

(57)ピーマン、ししとう
なお、ピーマン、ししとうのことをダリー語ではただのمرچ(murchi)と呼ぶ。ペルシア語の場合はفلفل سبز(felfel sabz)。フェルフェルがムルチと同義のような感じがある。

(58)ほうれん草
ほうれん草はペルシア語でاسفتاج(esfenāj)。英語のspinachから来ていると思われる。一方、ダリー語ではپالک(pālak)と言う。パーラックはサンスクリット語に起源がある。今でもヒンディー語等でほうれん草のことを指す(例.パーラック・パニール=ほうれん草とチーズのカレー、等)。両国は同じペルシア語圏ではあるが、単語によって西方から入って来たり東方から入って来たりといった違いがあるところは興味深い。縄田鉄男先生によれば、ダリー語にはドラヴィダ語に起源を発する単語も多々あるらしい(縄田鉄男『ダリー語文法入門』大学書林、1990年)。

(59)バナナ
バナナはペルシア語でموز(mouz)、ダリー語ではکیله(kīla)と言う。

(60)スイカ
スイカをペルシア語でهندوانه(hendevāne)、ダリー語でتربوز(tarbūz)と言う。メロンをخربوزه(kharbūza)と言うのでダリー語ではセットにすると覚えやすい。

ちなみに、アフガニスタンには、

با یک دست دو تربوز گرفته نمی شود(片手で2つのスイカを持つことはできない。転じて、二兎を追う者は一兎をも得ずの意)

という諺がある。

(61)きゅうり
きゅうりのことをペルシア語でخیار(khiyār)と言うが、ダリー語ではباد رنگ(bād rang)と言う。ダリー語の方を直訳すれば「色の風」。なんだか詩的な感じもする。

(62)とうもろこし
とうもろこしをペルシア語ではذرت(zorrat)と言うが、ダリー語ではجواری(jawārī)と言う。

(63)大根
大根をペルシア語でترب(torob)と言うが、ダリー語ではملی(molli)と言う。ملی(mellī;メッリー)には「国民の」という意味もあるが、大根の方のملیは「モリー」と発音するので表記は同じでも音は違う。

(64)柿
柿のことをペルシア語でخرمالو(khormālū)と言うが、ダリー語ではاملوک(amlūk)と言う。ちなみに「グァヴァ」のことをامروت(amrūt)と言い(ダリー語)、2つの単語はよく似ている。

(65)きのこ
「きのこ」のことをペルシア語ではقارچ(qārch)と言うが、ダリー語ではسمارق(samāroq)と言う。意外に思うかもしれないが、アフガニスタンでもときたま食される。

(66)アイスクリーム
アイスクリームは、ペルシア語でبستنی(bastanī)だが、ダリー語ではشیر یخ(shīr-yakh)。ダリー語は語義的には「牛乳(shīr)+氷(yakh)」という表現。

(67)オレンジ
オレンジのことを、ペルシア語でپرتغال(portoqāl)、ダリー語でمالته(mālta)という。 

(68)桃
桃のことを、ペルシア語でهلو(holū)、ダリー語でشفتالو(shaftālū)。 

(69)トイレ
トイレのことをダリー語ではتشناب(tashnāb)というが、ペルシア語ではتوالت(toālet)。もちろん丁寧な言い方でیدستشوئی(dast-shū'ī;「手(dast)+洗い(shū'ī)」はどちらでも用いられる。

(70)ホテル
ホテルは綴りが微妙に異なり、ペルシア語でهتل(hotel)、ダリー語ではهوتل(hūtel)。

(71)シャワー
シャワーは、ペルシア語でروش(dūsh)、ダリー語でشاور(shāvar)。ダリー語は英語をそのまま取り込んだ形。

(72)警察署
警察署のことをペルシア語でکلانتری(kalāntarī)と言うが、ダリー語ではقوماندانی امنیه(qūmāndānī-amniya)。ダリー語の方は英語のコマンド(司令する)から来ていると思われる。アムニヤは治安を意味するامنیتの変形だろう。

(73)警察
細かいことかもしれないが、警察官をペルシア語ではپلیس(polīs)と書くが、ダリー語ではپولیس(pūlīs)と書く。ちなみに、پاسبان(pās-bān;警官、見張り人の意味)というイランでよく聞かれる表現はアフガニスタンでは聞かないなぁ。

(74)すみません
会話のはじめなど「すみません」と言う時、イランではببخشید(bebakhshīd)と言うのが定番だが、アフガニスタンではمیبخشید(mībakhshīd)と言う方が多いような気がする(それほど自信はないが、文頭が「メ」の音に聞こえる)。

(75)列車
列車のことをペルシア語でقطار(qatār)というが、ダリー語ではریل(reil)の方が一般的。イランではreilは「レール」そのものの意味なのではないかと思う。アフガニスタンで「車」のことを「ムータール」と言うのと同じようなものか。ちなみに、湾岸の国カタールはقطر(qatar)で長母音は入らない。原音表記に忠実に書くのであれば「カタル」の方が近い。アフガニスタンの首都「カーブル」(کابل)も同様。طالبانも「ターリバーン」「ターレバーン」の方が「タリバン」よりも原音に近いが専門誌以外で書くと編集されてしまうorz

(76)空港
「空港」はペルシア語でفرودگاه(forūd-gāh)。ダリー語でも用いられるが、より一般的に使用されるのはمیدان هوائی(meidān-e havāyī)。

(77)風邪
風邪のことをペルシア語ではسرماخوردگی(sarmā-khordegī)というが、ダリー語ではزکام(zokām)かریزش(reizesh)というのが一般的。ریزشという単語がイランで用いられるのかは不勉強でよくわからない。

(78)マッチ
マッチのことをペルシア語でکبریت(kabrīt)、ダリー語でگوگرد(gūgerd)。アフガニスタンで「マッチ売りの少年(女)」のことをگوگرد فروشیなどという。改めてこのگوگردという単語をペ日辞典で調べたら「硫黄」という意味だった。

(79)赤
色の「赤」をペルシア語でقرمز(qermez)、سرخ(sorkh)の両方が用いられるが、ダリー語ではسرخ(sorkh)しか用いない。イランではqermez、アフガニスタンではsorkhという使い分けのイメージがある。

(80)おじ(父方)
アフガニスタンでもイランでも家族・親戚のつながりが重要。父方のおじをダリー語でکاکا(kākā)というが、ペルシア語ではعمو(amū)という。おばは同じعمه(amme)。

(81)おじ(母方)
母方のおじをダリー語でماما(māmā)、ペルシア語でدایی(dā'ī)。母方のおばは両国同じでخاله(khāle)。

(82)月名の違い
アフガニスタンとイランでは月の呼び名が異なる。

アフガニスタンの暦:
حمل
ثور
جوزا
سرطان
اسد
سنبله
میزان
عقرب
قوس
جدی
دلو
حوت

イランの暦:
فروردین
اردیبهشت
خرداد
تیر
مرداد
شهریور
مهر
آبان
آذر
دی
بهمن
اسفند

(83)厚い
本などが「厚い」と言う時、ダリー語ではدبل(dabal)と言う言葉を使う。ペルシア語ではکلفت(koloft)。ダリー語の原音だと「ダブル」に聞こえる。英語のdoubleと関係はあるのだろうか?(どなたかご存知だったらぜひ教えていただきたいです)

(84)州
行政区画の「州」はペルシア語でاستان(ostān)、ダリー語ではولایت(velāyat)。州知事はوالی。

(85)郡
「郡」はペルシア語でشهرستان(shahrestān)、ダリー語ではولسوالی(volsvālī)。郡知事はولسوال。おそらくパシュトゥー語から来ていると思われる。

(86)ガソリン
ガソリンのことを、ペルシア語ではبنزین(benzīn)、ダリー語ではتیل(tīl)もしくはپترول(petrūl)。ティールという言い方はインド系の言語の影響と思われる。ペトロールは英語を取り込んだ形。

(87)貨幣単位
ペルシア語・ダリー語の違いというものでもないが、アフガニスタンでは貨幣単位に口語でروپه(rupa)という言い方をする。例えば、100アフガニーをサド・ルパなど。このルパはインド・パキスタンの貨幣単位روپیه(rūpiye;ルピー)の略称。

(88)稲妻
稲妻(雷)のことをダリー語ではالماسک(almāsak)、ペルシア語ではبرق(barq)。

(89)カエル
カエルのことをペルシア語でقورباغه(qūrbāghe)、ダリー語でبقه(baqa)。ダリー語の発音は日本語的にはあまりよろしくない。

(90)お金
「お金」はイランでもアフガニスタンでもپول(pūl)なのだが、アフガニスタンではپیسه(paysa)とも言う。特に口語でよく使われる。インドでは「パイサ」は「ルピー」の補助単位なのでインド亜大陸からの影響。この言い方はイランでもされるのだろうか?

(91)さようなら
さようならはペルシア語でخدا حافظ(khodā hāfez)、خدا نگهدار(khodā negah-dār)などが使われる。ダリー語(アフガニスタン)でもこれらは使われるが、بامان خدا(bāmān-e khodā)という言い方もよく用いられる。

(92)お疲れさま
「お疲れさま」はペルシア語でخسته نباش(khasta nabāsh)が用いられる。ダリー語(アフガニスタン)でもこれは頻繁に用いられるが、もう一つの言い方مانده نباش(mānda nabāsh)というのもよく使われる。これはماندن(māndan;留まる、疲れる)から来ている。言われたら、同じくمانده نباشと言うかسلامت باش(salāmat bāsh)と応えればよい。ほぼخسته نباشと同じような意味と思って間違いはないであろう。

(93)どういたしまして
「どういたしまして」はペルシア語でخواهش می کنم(khāhesh mīkonam)。ダリー語でも用いるが、アフガニスタンではقابل تشکر نیست(qābl-e tashakr nīst)という言い方もする。「お礼にはおよびません」といった感じだ。

(94)農民、農夫
農民のことをペルシア語ではکشاورز(keshāvarz)と言うことが多いが、ダリー語ではدهقان(dehqān)という言い方の方が圧倒的に多い。少なくとも口語でkeshāvarzという言い方はほとんど用いない。

(95)虹(「ロスタムの弓」)
虹はペルシア語でرنگین کمان(rangīn-kamān)だが、ダリー語ではکمان رستم(kamān rostam)。イラン式では「色のある(رنگین)弓(کمان)」という表現法だが、アフガニスタン式では「ロスタム(رستم)の弓(کمان)」という表現法。このロスタムというのはアフガニスタンの神話の英雄の名前である。英雄ロスタムの弓のようだから、虹を「ロスタムの弓」と言うようである。ロスタムはフェルドウスィーの叙事詩『王書(シャー・ナーメ)』に登場する。このため「アフガニスタンの神話」と上述したが、これはアフガニスタン人の認識であり、イラン人からすると「イランの神話」という分類の方が適切との議論もあろう。ただ、ロスタムはサマンガン(現在のアフガニスタンの北部の州)で自らの子ソフラーブをもうけるとの記述もあり、現在のイランとアフガニスタンを包摂的に含むペルシア圏における民族叙事詩という捉え方がしっくりくるのではないだろうか。アフガニスタンでは現在でも虹のことを「ロスタムの弓」と呼んでいるという事実は、「『王書』はイランの叙事詩である」という言説に一石を投じるものであるとも言えよう(なんて大袈裟か)。少なくとも、今でもダリー語の日常の単語にロスタムの名が浸透しているというのは興味深い。 

(96)学生
大学生などの「学生」のことをペルシア語でدانشجو(dānesh-jū)と言う。ダリー語でも通じるがمحصل(mohassel)の方がよく使われるような感じがする。ちなみにこれらの複数形はそれぞれدانشجویان、محصلینとなる。

(97)生徒
学校の「生徒」をペルシア語でدانش آموز(dānesh-āmūz)と言うが、ダリー語ではشاگرد(shāgerd)の方が圧倒的に使われる。

(98)バッグ
バッグをペルシア語でکیف(kīf)、ダリー語でبکس(baks)と言う。ダリー語は英語のbagを取り込んだ形。

(99)薬局
薬局のことをペルシア語でداروخانه(dārū-khāne)、ダリー語でدواخهنه(davā-khāna)。

(100)友人、友達
友達のことはペルシア語でもダリー語でもدوست(dūst)だが、ダリー語ではاندیوال(andīvāl)、رفیق(rafīq)という呼び方も日常会話では使われる。rafīqはアラビア語起源だが、andīvālは出所不明。パシュトゥー語か?

ペルシア語、ダリー語の単語の違いシリーズが100コに達したので一旦休止にしたいと思う。関心を持って見てくれた方におかれてはどうもありがとうございました。



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