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実況解説って、焼き鳥なのかもしれない。

私は今、深夜の歌舞伎町の居酒屋で、一人この文章を書いている。
様々な職業が存在する昨今で、私はたまたまesportsキャスターという仕事をさせてもらっている。最初から目指していたわけではないし、自分は今やっている事は趣味の延長でしかない。仕事だとは一度も思ったこともない。

そんな中で時々、キャスター業即ち実況解説のことを考える。
視聴者からは”実況”や”解説”と一纏めにされることも多々あるが、この2つの役割は似ているようで全くの別の職業だ。サッカー選手とバーテンダーくらい違う。いや、多分この比喩は間違っている。

兎にも角にも我々が普段行っているキャスター業には、マニュアルのようなものが存在しない。特別な事を言ってるようで、この世の殆どの職業が同様な事が言えるだろう。
現在あらゆるゲームタイトルがesportsの大会を行っている中には、当然のようにキャスターと呼ばれる存在が確認できる。ゲームで行われている状況を視聴者の為に発信するという稀な役割を担当している人間たちだ。

キャスターという仕事は、基本的には二人以上で行われる。
その中でも、とりわけ人気の組み合わせや、独特な味が売りのペアが存在している。なぜ、このような化学反応が起きるのだろうか。
結局はその人達が成長してきた過程で培った知識や人格同士のシナジーという無粋な回答は用意できる。ただそれではつまらない。適切な表現はないだろうか。

答えはハイボールのすぐ隣にあった。焼き鳥である。
脂の滴るジューシーな鶏肉を味付けした一本には、壮絶な歴史とドラマが見いだせる。あぁ、そうか。我々キャスターは”これ”なんだ。

大会配信が焼き鳥屋だとしたら、視聴者はお客さん。目的は最高の一本を嗜むこと。キャスターは業者の方から頂いたお肉を、どう焼くかの判断を任されている存在なのかもしれない。それでいうならば、選手が行う試合は焼き鳥そのものだ。

つまりキャスターは喋りというスキルを使って、最高の鶏肉を誰でも味わえるような一品に焼き上げる必要がある。ここで重要なのは役割分担だ。
話をキャスターだけに絞るのであれば、実況は肉に串を刺して焼いていくのが仕事。解説はその鶏肉の味を最大限際立たせる為に、スパイスや秘伝のタレで味付けをしていく。これを限られた時間の中で行うのが一連の流れ。
これを独特のバランス感で行っているものが、実況解説なのかもしれない。

私は過去に選手と解説をやっていたこともあるが、現在は実況を担当することが多い。

ではこの実況側の焼き手が知識や経験を生かして、己の垣根を越えて解説側に足を踏み入れてみるとどうだろう。実況が限られた時間の中で、焼きから味付けの第一段階の工程まで行うことが出来れば、解説者は更なる味の深みを付けることができるようになるはずだ。初めましての人から、グルメな玄人好みの味わいの領域まで駒を進めることが出来るかもしれない。

逆に実況側が焼きを十分に行わず、串に刺さった生焼けの肉を解説に渡したらどうなるだろうか。想像は容易い。解説側が焼きの最終工程を行う必要性が生じ、味付けに割く時間がどうしても減ってしまう。解説側の知識や鶏肉の質すら殺してしまう可能性すらあるのだ。これは逆の立場でも同様のことが言える。
この一連をキャスターのスキルに置き換えるならば、ゲーム理解度や表現の幅に相当するものである。選手を経験している人のであれば、焼き鳥側の気持ちをくみ取る視点で語る事も出来るだろう。

前述したとおり、実況側には肉に串を刺す権利があると私は考える。
さらに言えば、焼き鳥にはかわやネギま、ハツやせせりなど、彩りは豊かだ。アスパラベーコン串だって、焼き鳥のメニューには当然のように入っているのだ。串に何を刺すのかは、その人次第ともいえる。

全てが塩味のもも肉であったら、それはつまらない。
定番のメニューさえ揃っていれば、パッションフルーツを刺したっていいんだ。それをお客さんが気に入ってくれるのであれば。


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