新明解第四版 2022年5月25日の日記

古書店に行ったときにはかならず辞書のコーナーを眺めるようにしているのだが、今日はとうとう新明解国語辞典の第四版に出くわした。新明解国語辞典は三省堂の発行している国語辞典で、その語釈の面白さで有名となっている。赤瀬川原平によって『新解さんの謎』という本が刊行され、いまでも面白い読み物として読み継がれているくらいなのだが、実はその当時からかなり語釈は作り直されている。第四版は1989年に発行されており、2022年現在最新の第八版とは三十年近くの隔たりがあるのだから当然といえば当然だろう。言葉のニュアンスはとどまることなく移ろいゆくものだ。

とはいえ新明解国語辞典が語釈に力を入れているのは以前と変わらず、第八版でも現代のアクチュアルな問題に対して考えるきっかけを与えるようなことが目指されていたり(考える辞書、みたいなキャッチフレーズを掲げていた)と、明確に方向性を持ったものとなっている。サイズも価格も手ごろなので、文章を書く方が手元に一冊持つ、くらいの用途であればかなりよいと思う。

ということでいま手元には新明解国語辞典の第四版と第八版が両方あるので、有名な語釈をいくつか引き比べておこうと思う。

【恋愛】
第4版
  特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで、一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持を持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。
第8版
  特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。

【動物園】
第4版

  生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設。
第8版
  捕らえて来た動物を、人工的環境と規則的な給餌とにより野生から遊離し、動く標本として一般に見せる、啓蒙を兼ねた娯楽施設。

引き比べるとわかるが、どちらの版にもその語について議論となるようなトピックが盛り込まれていることが分かる。どこか村田沙耶香の小説を想起するような「自明視される常識」があり、それについてあなたはどう考えますか、というような問いが浮かぶようなものになっているような気がする。第四版はその色がかなり強く出ていたということを聞いていたので、今回手元に置くことができてとても嬉しく思っている。本棚は圧迫されたが。どこに置くんだこれ。

最後に古書店の辞書コーナーあるあるなのですが、古語辞典が驚くほど多い。おそらくは受験の時に使ったもののそれ以降の人生で使うビジョンが見えず、売り払ったということなのだろうが、それにしても数が多い。古書店に行った際には見てみてください。


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