「2.0」2.0 2021年2月24日の日記

藤崎慎吾の『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生み出しつつあるもの』(ブルーバックス)を読み進めている。キッチンで作れる「人工細胞のレシピ」などとっかかりやすいトピックを導入に、現状の「生命の起源」に関する議論を一望できるように纏められている。なにをもって生命とするかの定義によって生命の起源は変わるだろうし、生物と呼べないけれど一部生物としての機能を有している高分子といった、「生物0.5」のような存在をどう捉えるかといった、生物学的な手法から一歩離れたところから生命を問い直すやり方も面白く、柞刈湯葉の短編集『人間たちの話』収録の同名の短編「人間たちの話」で語られている、現実のファーストコンタクトはそれを生命であると学会で定義づける、なんとも割り切れないものになるのかもしれないというシニカルな視点と対になるそれであるように思われた。

太田邦史の『「生命多元性原理」入門』でもそうだったけれど、専門ごとに特化されていきがちな学問の世界で、一つの問いかけをもとに分野横断的に色々な考察を拾っていって、ティンバーゲンの四つの質問のようなやり方で未だ答えのわからない問いかけに答えていこうとする本は面白い。「今後なにを知っていくべきなのか」という問いに対する一種のマップとしても機能するだろうし。

他にも『我々は生命を~』において(今読んでいるところまでですが)興味深かったのは海底から噴き出す液体二酸化炭素が溜まり、海底だというのに「乾いた」場所が存在するということでしょうか。海底という高圧条件下では二酸化炭素は液体となるため、海中だというのに加水分解から逃れられる環境となっているらしい。メタンや硫黄化合物などを栄養源にできるため、微生物の生息もあるのだとか。この本とは別で深海に関する本も買っているのでこちらを読み終わり次第読みたいなぁと思っている。

上の文章を書いていて思ったけれど、「○○2.0」という言い方を見かける頻度がとみに上がったような気がする。ソフトウェアのバージョンを表す「○○2.0」とか「○○3.1」みたいなもののイメージを引っ張ってきて、「根本からすげかえて、全く新しいやり方を始めるというニュアンス」を表しているのだけど、このアップデート観というのも時代によって変化していくものと思われるので、そのうち「「○○2.0」2.0」が生まれるのかもしれない。とりあえず根本が変わってないちょっと目先を変えただけのものを2.0と呼ぶ誤用(とも言い切れないかもしれないけれど)はややこしいのでなるべく避けていただきたく思います……。

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