猫を楽しめます 2020年10月26日の日記


日課のバンド新着PV漁りをYouTubeでしていた時のことだった。確かMega Shinnosukeの「Midnight Routine」を再生したタイミングだった気がするけれど、PVが始まる前にGoogleの広告が挟まった。YouTubeでは動画の再生時に広告が入ることがある。一刻も早く見たい動画がある時には「邪魔しないでくれ~~~」と思うこともあるけれど、私は割と広告自体も楽しんで見られる方なのでYouTubeで広告が挟まることについてはそれなりに肯定的に感じている。


しかし、PVの前に流れたGoogleの広告動画を見て、恐ろしい違和感に襲われた。不快な違和感ではなく、面白いSFを読んだ時の違和感に近い感覚。再生されたのはGoogleのAR機能を紹介する動画だったのだけど、その特徴を端的に表すフレーズとして(確か)「あなたの部屋で3Dの猫を楽しめます」というものが出てきたのだ。


めちゃくちゃ面白い。このフレーズを解体していくと、まず3Dでない猫(それこそGoogleなんかの検索エンジンを使えば可愛い猫の画像が大量に得られる)が一般的になっていることを踏まえた上で、もしあなたの部屋に猫がいなくとも、AR技術でそこに立体的な猫を召喚できるよ、という触れ込みなのだ。本来3Dであるはずの猫がいったんデジタル化することによって2Dになり、それが当たり前になった後で、もう一度デジタルを積分したような3Dが現実に投影される。このように「あなたの部屋で3Dの猫を」は、Googleが通ってきた技術の過程が詰まっているフレーズなのだ。


また、「猫を楽しめます」の方にも直訳っぽい硬さがあって良い。なんだか「楽しむ」という動詞に対する目的語として生き物を取った場合って、基本的に食べ物として(それでも違和感がある気もしますが……)になるはずなのに、猫を可愛がるだとか眺めるじゃなくて「猫を楽しむ」という表現を取っているのは面白い。ちょっとディストピアの匂いがする。なんだかGoogleだから"敢えて"っぽさがあるけれど、これを後ろ盾のない一般的な人がやるとアニマルライツに照らして倫理的にどうなんだ、な取られ方をされかねない。Googleのちょっとギークっぽいところがでている面白いフレーズだなと思いました。


あまりに思うところの多い広告だったため、もう一度見たかったのだけど、どうやらYouTubeは「今再生された広告をもう一度見る」という機能が存在しないらしい。過ぎ去った広告は探し出さない限り二度見ることはできず、リンクすら辿れなかったりすることも多々あるようだ。広告としてはどうなんだ……と思わないではないけれど、動画投稿サイトのUIとしては適しているのかもしれない。広告はあまり歓迎されないものなのだろうし。思わず二度見、みたいな感じでGoogleの「あなたの部屋で3Dの猫を~」を楽しみたかったのだけど、残念ながら元動画を見つけることができなかった。無念。


広告ほど「見られる」ことを露骨に意識している映像作品も珍しい。ACのCMなんかも面白いものが沢山あったりするし、賞を取るようなアイデア広告なんかはそれこそ発想が詰まっている。半分テーマを与えられた大喜利のようなものもあるけれど、それでも決まった枠の中でどれだけ面白いことができるかを競っているような業界には興味深いものが沢山あるような気がします。私が最近眼にした中で一番面白かったのは中屋辰平氏による第4回ジャパンシックスシートアワードのNTTドコモ「歩きスマホ」防止の広告課題の銅賞作品です。視点が面白い。


ちなみに先ほどGoogleのAR機能を試してみたのだけど、なぜか私の部屋では猫を楽しむことができませんでした。アメリカアリゲーターやボールニシキヘビは楽しむことができたのに。なんで?

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