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際限なき借金大国??  =緊縮政策から転換できない朝日の記事を批判する=

 朝日新聞(2020/07/20)が、全額を国債発行によって生み出す国のコロナ対策予算を1面使って批判する記事を掲載しています(※1)。背景にあるのは、この数十年間、日本の緊縮政策を支えてきた考え方であり、「財源語られぬまま」「税金による収入を大きく上回る支出を重ね、借金に寄りかかるいびつな財政」が続くことを指摘して、後半では「国の財政の破綻が現実味を帯びた」2015年のギリシャの様子が紹介されています。
 「与野党からも財政のあり方を問う声」がほとんどない現状をなげき、復興特別税と消費税10%を決めた東日本大震災後の民主党政権と自公の合意を評価する論調は、財務省をはじめ、緊縮政策を推し進めてきた人びとの意向に沿うものだと思います。 しかし…、こうしたことは本当なのでしょうか?

1) 日本はギリシャのように財政破綻することはない

 日本とギリシャの大きな違いは、政府が通貨を発行する権限を持っているかどうかにあります。アメリカ(ドル)、日本(円)のように通貨を発行する権限を有する政府が、自国通貨建ての負債を返済できずに破綻することが、理論上も実際上もあり得ないことは、財政危機をあおる財務省じたい認識している事実(※2)なのに、「日本はギリシャのようになりかねない」という考え方は、政府・財務省、報道機関、学者、政党などによって流布され続けてきました。
 自国通貨による財政支出を制約するのは、財政赤字の累積(国債発行残高の増大)ではなく、財政支出の拡大によって需要が供給を超えておきるインフレーションの昂進です。しかし、コロナ禍による深刻な不況で経済活動が縮小している今、心配すべきはインフレーションではありません。人びとに明日を生きるお金が回らず、人びとの暮らしが危機に瀕しているとき、何よりも必要なのは、財政出動によって、暮らしを支え、命をつなぐお金を人びとに直接届けることです。
 しかし、安倍政権はマスクとかGO TO トラベルとか、見当違いの「政策」を打ち出しては批判を受けて修正し、時間だけが浪費されています。もっとも大切な現金給付についても、限定された1世帯30万円給付策への批判が沸騰して、やっと、一人10万円の一律給付が決定されましたが、それすら、緊急事態宣言から4カ月近くたって、まだ配布が終わっていません。
 今、メディアに求められているのは、人びとに「2015年のギリシャ」を想起させることではなく、安倍政権が「財政健全化を最優先で考えるべきではない」と表明したことでもありません。一体、記事を書いた人は、人びとが明日の命の危機に直面している今でも、「財政健全化を最優先で考えるべき」だと言うのでしょうか。批判されるべきなのは、実際には、安倍政権が人びとを救うためのお金を出し渋り、引き延ばし、さらに中抜きして、お友達への巨額の利益供与を繰り返していることだと思います。

2) 記事は緊縮政策への批判に応えていない

 世界中で緊縮政策に反対する声は拡大し、「反緊縮」という言葉が、マスコミでも取り上げられるようになりました。よく読むと、記事は緊縮政策へのさまざまな批判を意識して書かれていることがわかります。しかし、記事は批判と正面から向き合わず、巧妙に批判をすり抜ける書き方をしています。

a) 国債残高1,000兆円は財政破綻の原因となるのか?

 記事は、コロナ危機対応の財政出動で「国債発行残高も一気に増え、国の財政規模の2倍近い1千兆円に迫る。主要国でも突出した水準だ。」と書いています。国債発行残高の増大が財政破綻の原因となることを強く印象付ける書き方ですが、断定はされていません。
 反緊縮をとなえる人びとは、一貫して「国債発行残高の増大は財政破綻と関係ない」「国の借金1千兆円。国民一人当たり800万円」というキャンペーンは、消費税増税をねらう政府・財務省のプロパガンダだと批判してきました。記事は、こうした批判を意識して、国債発行残高の増大が財政破綻を引き起こすという直接の書き方を回避しながら、しかし、そうした印象を読む人に強く与えるようになっています。

b) 日本とギリシャは違うという批判に正面からこたえるべきだ

 預金引き出しのためATMに行列するギリシャの人びとの写真は、当然、「日本はギリシャのようになる」という警告でしょう。記事は後半でギリシャの経済破綻に触れています。しかし、このままでは、日本もギリシャのようになるという断定は巧妙に回避されています。そして、「国債の多くは外国人投資家が持ち」という文がさりげなく挿入されていることに注意が必要です。
「日本はギリシャのようになる」という宣伝に対して、反緊縮を唱える人たちの批判の一つは、ギリシャの政府と銀行が債務を負った相手の大部分が外国人投資家だったのに対して、日本政府の発行する国債の大部分が日本国内で消化されている(国内の企業や個人の資産になっている)という点にあります。この一文はそうした違いを見ていないという批判を回避するために挿入されており、しかし、その点をどう評価するかという判断は書かれていません。ここでも、批判にはこたえないまま、「ギリシャのようになる」という印象を強く与える書き方になっています。(※3)

c) 税金の支えがあってこその財政??

 冒頭、記事の要約として置かれている3つの文の一つは「税金の支えがあってこその財政。国民が公助や自助のあり方を共有し、負担を分かち合えるか」です。記事を読む人は、現金の給付や事業への補助で急場をしのげても、結局つけは回ってくるのだと思わされます。しかし、従来はあまりに当然と思われてきたこうした考え方こそ、今、反緊縮の経済理論によって厳しく批判されているのです。
 実際問題として、コロナ禍に対する国の財政支出は、国債発行によって生み出されており、徴収した税金が当てられているわけではありません。そして、国債の累積残高(約1千兆円)は、将来、人びとが税金を納めて穴埋めしなければならない「国民の借金」ではなく、低成長下で政府の債務が増加するのは正常であり、民間の経済が停滞し、需要が縮小した(人びとにお金が回らず、人びとの暮らしが危機に陥った)ときには、政府が国債を発行してお金をつくり、人びとの暮らしを支えていく必要があることが、この間、多くの経済学者によって明らかにされてきました。
 アメリカや日本など、通貨発行権を持つ国の財政支出は、その国で生まれる富をどの分野にどれだけ配分するかを決めるものであり、その量は、累積した国債の残高ではなく、その国で生まれる富(供給)と、企業や人びとの間にどれだけ使えるお金があるのか(需要)の関係によって制限されます。一方、税金は、こうした国では本来、企業や人びとの間に生まれる需要(使えるお金、使いたいと思うお金)を分野ごとに制限し、調整するための機能を果たすものです。
 「税金の支えがあってこその財政」「財政が行き詰まれば…社会的サービスをどうしても欠かせない人に、しわ寄せが行く」という古い考え方、人びとにはいつも我慢を強いる一方で、大企業や大銀行が危機に陥ったときには、いつも公然と無視されてきた緊縮的な経済理論、緊縮的な考え方から、私たちは今こそ自由にならねばなりません。

3) 17人の経済学者・社会学者による提言

 さる5月21日、反緊縮の経済政策を求めて、17人の経済学者・社会学者による「全員に確実に届く、真の『コロナ』経済政策はこれだ」という提言が公表されました(※4)。以下はその一部です。
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【真の「コロナ」経済政策のポイント】
(1)全ての人に、現金給付20万円を2回と、消費税停止(ゼロ%)<70.4兆円>
(2)事業・学問継続のために、休業補償(雇用確保)・中小企業支援策(家賃などの固定費免除)、学生の学費免除など<29兆円>
(3)医療装備品等の設備投資・開発支援、買取、供給ルートの確保など<2兆円>
(4)感染リスクのある職種で働く人に、コロナ危険手当。医療、介護、保育、食料など生活者に必要な供給力の維持・増強<32.5兆円>
(5)地方交付金の増額など<6兆円>
[計約140兆円]
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 提言は、財源は原則としてすべて新規国債発行によって生み出すとして、…この国債は恒久的に借り換えを行うので、将来的にも増税による庶民の負担は必要にならないと主張しています。

4) 緊縮政策からの大転換を!


 コロナ禍の中ですべての人びとの暮らしが守られ、だれ一人命を落とすことなく生きのびるために、そして、コロナ禍の向こうに、すべての人びとが安心して暮らせる社会を作り出していくために、今こそ緊縮政策からの大転換が必要になっていると思います。

付論) 「全員がもらえる10万円の給付金」??

 論旨とは外れるのですが、どうしても書きたいので付論としておきますが、この記事の書き出しはこうです。
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新型コロナウイルスへの対応にかかわる国の経費は、2度の補正予算で57兆円を超えた。所得にかかわらず全員がもらえる10万円の給付金や、国内旅行代金が補助される「Go To トラベル」もある。
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「全員がもらえる10万円の給付金」?? えーっ!!
 この記述にはあきれました。いったい、給付金は「もらう」のか? 筆者は本当にそう思っているのか? 違うだろう(怒!)。
「われわれが主権者であり、政府の振る舞いはわたしたちの負託による」という考え方を、私たちは中学校で習ったのではなかったか? いや、小学校だったかかもしれません? 
「もらえる」という書き方に、筆者の社会観、政治に対する基本的なスタンスが表れていると思いました。伊藤裕香子さん、本当に怒ってますよ、私は。

(※1) https://www.asahi.com/articles/DA3S14554769.html 無料の会員登録で全文がお読みになれます。
(※2) https://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm 格付け会社が日本国債の格付けを引き下げたことに対する財務省の意見書要旨です。財務省はその中で「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。」とはっきり述べています。
(※3) https://economicpolicy.jp/wp-content/uploads/2017/06/TaroKouzaResume01.pdf 2017年、ひとびとの経済政策研究会と山本太郎さんがコラボレーションで開催した、「全てのひとびとのための経済学講座」のレジュメ「ギリシャとアイスランドからの教訓」。朴勝俊関西学院大学教授制作。
(※4) https://rosemark.jp/2020/05/22/rose_state_140t/
【薔薇マーク提言】全員に確実に届く、真の「コロナ」経済政策はこれだ

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