NHK杯2022(1)・女子シングル

 お仕事ではなく、完全にプライベートで真駒内へ行ってきました。今回のNHK杯はバンケットまでしっかり行われ、久しぶりのフル開催といった様相。全日本の重圧や世界選手権の荘厳とは少し違う、華やかな緊張感が満ちた素晴らしい試合でした。
 グランプリシリーズは、短い開催期間中に全てのカテゴリを楽しめるのが素晴らしい所。ロシア勢の不在は残念ではありますが、その分多彩な国の代表選手の演技を観戦することが出来たのも嬉しかったです。何と言っても、エストニア女子が二人、日本で、眼前で演技してくれるという喜び。エストニア女子シングルは世界選手権の枠が1つですので、さいたまでどちらと再会できるのか……というのも気になるところです。

 その女子シングル。今回は、ニナ・ペトロキナ選手が同国エストニアのエヴァ=ロッタ・キーブス選手を大きく上回りました。何しろ日本は自国の代表争いが熾烈極まりないので、他国代表争いは比較的目を細めて見ていられる……と思いきや、エヴァロッタの意外な苦戦ぶりに胸がドキドキ。特徴のある衣装を着こなし、厚みのある表現力で会場を魅了するエヴァロッタ。五輪代表は逃したものの、世界選手権で躍進を見せたニナ。今回はジャンプをまとめたニナに軍配があがりましたが、エストニアの国内選手権の行方が気になります。
 代表争いといえば、韓国もし烈になりそう。落ち着いた演技で栄冠をつかんだキム・イェリム選手は、印象としては「韓国女子の伝統スタイル」といった感じ。長い手足を優雅にしならせて、流れに乗ったスムーズなジャンプで高得点を獲るタイプでしょうか。一方、今回初参加のジ・ソヨン選手や、米杯・仏杯で躍動したイ・ヘイン選手は、また少し違ったアプローチのように感じました。比較的短めの助走から高いジャンプを豪快に跳ぶスタイルは、これまであまり韓国では見なかったように思います。世代交代の波が押し寄せてきている感のある韓国ですが、エキシビションでイェリムがいわゆる「彼シャツ」で登場した時には、「正に伝統……」と呟いてしまいました。汽水域に居るイ・ソヨン選手のSPの衣装も既視感があり、この辺りのせめぎあいを見守るのもとても面白いです。
 米女子の顔ぶれには、かなりの変動がありました。今回NHK杯に登場した3人は、個人的に皆大好き。唄ウマ女子のスター・アンドリュー選手、今季もショートで女性ボーカル曲を使用していましたが、本人歌唱かどうかは判らず。そのスターと同世代のアンバー・グレン選手は、決まれば本当にカッコいいトリプルアクセルを持っていますが、今回は少し調子が悪かったようで残念でした。アンバーといえば、2021年の全米選手権で銀メダルに輝いたにもかかわらず、その年の世界選手権の代表から漏れたことが印象に残っています。「3Aは水物」と判断されたか、翌年の北京五輪代表枠を確実に獲るための策として3位のカレン・チェンが選ばれたのでした。納得の上で競技を続け、自国のスケート・アメリカでは表彰台に上ったアンバー。今回、どうしてもジャンプの精度が上がらず、俯いてしまってゴージャスなスケーティングも影を潜め……客席から声援を送ることが出来たならどんなに良かったか。素晴らしい3Aの復活を楽しみにしています。
 全員書き連ねるといつまで経っても終わらないので、日本選手についても少し。渡辺倫果選手、フリーの3Aに痺れました。ここまで、チャレンジャーシリーズも含めて国際大会2連勝。SPで意気消沈して崩れてしまうのかという余計な心配を払しょくする攻めた演技と、演技後の笑顔にほっとしました。ステファン・ランビエールコーチが宇野昌磨選手にかけた言葉をネット記事で読み、「そうか!」と開眼したとのこと。
 住吉りをん選手も、フリーの四回転チャレンジにぞくぞく。多回転ジャンプに関しては、「練習では跳べている」ではなく、転倒してしまっても試合に入れ続ける胆力も必要なのではないかと思っているので、この挑戦は個人的に大喝采でした。そういえば、同じ岡島コーチ門下の樋口新葉選手も、トリプルアクセルを入れ続けて五輪で成功しましたね。
 坂本花織選手。こんなことを言うのも何ですが、あくまでも個人blogということで……例年序盤は湿った顔つきになる事が多いので、実は今回の結果にはむしろ少しほっとしました。ジャパンオープンを観に行った時に存外の出来栄えで、逆に少しシーズンが心配になったことを思い出したほど。後から、GPS一戦目との合間に体調不良があったことが中野コーチの口から明かされましたが、常に真剣に競技に向き合うからこそモチベーションに悩む坂本選手の姿には、かつての高橋大輔選手にも似たものを感じます。昨シーズン終盤の充実期に比べると明らかにスピードがありませんでしたが、あくまでも坂本選手の基準として。グン、と滑る豪快さはまさに別格で、これを体感できるから現地観戦はやめられない、と堪能しました。
(つづく)


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