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ボウリング友達

第11話 ボウリング友達

 その人との出会いは、ただの「ボウリング友達募集」であった。



 遡ること、4年前。彼は私の趣味に食いついた。看護師で働いてからひとつだけ悩みがあった。それは『ボウリング大会』で勝てない事だ。

 当時の私はフックをかけたよく曲がるボールを武器にしていたのだが、左肘の骨折をしてからボウリングの球が重くて投げられなくなった。それから大好きだったボウリングをやめた。
 やめた、というか、単純に東京へ出てから私と一緒にボウリングをしてくれる人がいなかったのだ。

 そんな中、彼は突然現れた。しかも、私の住んでいる蒲田のお隣に住んでいるし、車持ち!
 一度お会いしてお食事でもどうですか? と誘われた時はボウリングがしたい一心ですぐにOKした。

 2回目から、彼のいきつけであるボウリングへの逢瀬が始まった。場所が電車で行かないと届かない面倒くさいところに位置していたので、彼がいつも蒲田の某所まで迎えに来てくれる。
 よく考えたら、出会い系サイトの人間で知り合った人の車に乗るなんて一番怖いパターンだよね! 自分、アホだから全然警戒してなかったや。それも、相手さんが普通の好青年(しかもハンサムなイケメン)だったから。

 え、普通に妻子持ちの人が助手席に違う女乗せて大丈夫なのか? と思ったが、開けてくれた助手席に乗り込むしかなく……い、一応私は香水とかつけないし、髪の毛もいじりまくったりしないから、何か不審なものは落とさないはず!
 丑の刻参りとか怖いし!(考えすぎか)

 彼との初見は普通にどうして出会い系サイトを始めたのか、に始まった。あちらは仕事あがりに飯を食って帰れる友達を募集していたようで実に健全だった。私も同じ目的なので利害の一致。


 彼とはセフレには至らないだろうが、素敵な飯友ゲットだぜ!!


 この飯友との付き合いが始まった。彼は本当にハンサムさんで、お仕事柄言葉選びがうまかった。ある日、会社でボウリング大会があるので練習したい、との言葉から、私も左腕のリハビリを兼ねてボウリングしたいと伝え、それからはボウリングデートが始まった。

 休みがあう時に彼が迎えに来てくれて、ボウリングへ行く。その後は遅めのお昼を食べてお家近くまで送ってもらい解散!
 実に健全だ。スポーツして、飯食って解散。
 結構年上の方だったので、こちらも緊張してカタコトになっていたが、ちぃちゃんとは友達で居たい。とのことでフランクにしてもらっていた。

 13号を投げていた私は、骨折と手術の影響でボウルが本当に投げられなくなっていた。1ゲームもしないで肘が悲鳴を上げる。辛かった。唯一、好きな「運動」が出来ない。カーブがかからない。
 じゃあ、右手で投げてみたらどうか?
 これが論外だった。やはり利き腕での癖が強く、右で投げるととんでもない方向へと向かう。ならば、当初の目的通り、左腕の強化も兼ねて頑張ろう。

 彼は、会社のボウリング大会に向けてのスキルアップ。
 私は、骨折した左肘のリハビリ。なんという、健全な出会い。

 結果として、9号のボウルから再開した私は11号を投げられるまで改善した。スコアも60くらいだったのが、調子いい時は150を超えた。
 3ゲーム辺りから疲労感が出てきてガタガタになるものの、もうすこしコントロールが上がったらスコア伸ばせるのになあ〜とかちょっと夢を見るようになり、フックの練習も再開したが、薬指、小指の感覚が無いので、投げる瞬間に指が抜けなかったり、タイミングが悪くてやっぱりダメだった。
 フックは諦め、私はストレートの投げ方に変えた。あとは姿勢。ヘルニア持ちのせいか、腰が落ちない。わざわざボウリング用のシューズも購入したのに、投げた瞬間の姿勢が定まらないのだ。これには本当に困った。原因がわからない。まして、お互い素人同士なので、どこが悪い、どうしたら改善できる?という意見は出ない。
 ただ、スペアやストライクを取った時に全力で喜びを分かち合うだけの関係だった。なんか、もう遅咲きの青春?

 ボウリングデートを重ねても彼との関係は全くブレなかった。会話の端々で、彼は子供が欲しかったので、セックスが嫌いな奥様にどうしても、とお願いして念願の子を授かったらしい。
 しかもタンパクな妻との営み話は壮絶だった。確実に子を作りたいが為に、イった後に奥様を逆立ちさせると言うのだ。これがどう効果があるのかわからないが、少しでも男性の精子を奥へと送り込み、例え数が少なく死滅しても何とか着床させる望みをかけたのだろう。

 流石にすごいと思った。
 そこまで子供が欲しかったこと。そして、H嫌いな奥さんが、確実に子を得る為に二人で頑張った方法がそれだったらしい。

 なんだろう、すごく頑張っている話なのに、逆立ちが一種のプレイのひとつなのか?とか、頭の足りない私はぐるぐるそこだけを想像してしまった🤣



 このハンサムさんは、飯友以外に何か募集しているのか尋ねると、やっぱり子供も大きくなって、妻は産む前から元々レス。
 仕事が終わった後の帰り道で恋人関係のような空気を出せる女性を探していたらしい。

 きたきた、ついに私にもセフレさんの道が!?なんてちょっとワクワクしていたが、私のようなちんちくりん(化粧っ気も色気もないブス)はお眼鏡に敵わなかったらしい。そりゃそうだ。
 何度か私以外の飯友の話を聞いたが、どれも煌びやかな女性で私とは真逆だった。いつもボウリングデートなので、おしゃれっ気ゼロの私とは全然違う。
 と言っても、ケースバイケースなので、私だってもしも彼に「高級な店でご飯食べよう」とか言われたらきちんとしたドレスくらい買ったと思う。二着だけ勝負服もどき笑もあるし。

 しかし、彼との関係はほぼボウリング。なのに、化粧やおしゃれをする必要は無かったのだ。今更そんなの指摘されたってねえ。むしろ、彼との関係は「兄と妹」みたいな感覚だった。友達、とは違う、実に心地よいものだったが、彼は私では性欲が満たされないので次第に会う回数が減り、連絡も減った。

 後半、彼と最後に会ったのは年末のボウリング大会の結果後だった。一緒に練習しまくった結果が出て、チーム優勝と、個人では3位を取ったとか。来年は優勝したい!と話していた嬉しそうな彼の笑顔に私も心から応援した。

 最後にボウリングデートをした日は、実に不思議な感じで、やたらボディタッチが多かった。
(おっぱいには触ってこないけど、肩や腰はそっと手をのせる感じ)

 ムラムラしてるのかなー?なんて妄想していたが、彼とはただのボウリング友達。それ以上はない。(というか彼の理想女性が美人が絶対条件なので私はスタート地点にすら居ない)

 結局いつものようにゲームをしてご飯を食べた帰り道、彼に新しい飯友との関係について聞いた。私と並行して3人の女性に会い、1人とはうまくいったが、残り2人はなんか違うなと。そして最初の1人とHまで進展したが、それでもダメだったらしい。
 「難しいね」と話されても私はどう答えていいか悩んだ。というか、黙っていて正解だったと思う。

 スタート地点にも居ない私がここでしゃしゃり出て、「じゃあ私で良かったら抱いてみる?」なんて言える訳がない。
 いくらハンサムさんが格好良くても、私にとってただのボウリング友達なのだ。

 最後の逢瀬で、彼と──




 結局何もなかった。

 あちらは"私以外のセフレ“を求めていたので、会う回数が減った。
 最初から見目のいい女をボウリング友達として募集すりゃ良かったのに、と少しだけ悔しかったが、顔はどうしようもない。
 彼が言ってくれた言葉で「ちぃちゃんはボウリング友達だから」と分類してくれたのは嬉しかった。ただの付き添いAではなく、こんな奴でも友達、として付き合ってくれていたのだ。

 結局、彼は別のセフレをゲットして忙しくなり私への連絡をいきなりやめた。
 結末は自然消滅だが、ハンサムさんとボウリングを楽しくした日々は、私の中で宝物だ。

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