読んだ/見たもの感想メモ_202007

気付けば8月なの恐ろしすぎる。助けてくれ。

●読んだ・見たもの

小説

『いま集合的無意識を、』神林長平

SF作家第三世代の一人として30年書き続けてきた神林長平たる「ぼく」と、若くして亡くなった伊藤計劃を名乗る「なにか」が邂逅し、3・11震災を絡めて会話する「いま集合的無意識を、」が表題作だけあって、良い。「ハーモニー」の感想を伊藤計劃に存命中に伝えられなかった神林長平の後悔やその感想そのものが込められていて、読んでいて胸が詰まった。

『三体Ⅱ 黒暗森林』劉慈欣

昨今、大きな波が来ている中国SFの最前線、『三体』シリーズの二巻。
400年後に太陽系へ飛来する超文明・三体文明の侵略に対し、人類はどう対抗していくのかってところから始まるのだけど、とにかく話の規模が大きく、そして全然予想できない展開ばかりで、まさにエンターテイメント! という感じ。読んでてただただ楽しい。え、これどうなるの? そうなるの!? みたいなのばっかり。
キャラクタも魅力的だったり、銀河英雄伝説の引用があってくすりときたり、細かいところまで手が届いている。
特に好きだったのが、下巻の後半、「水滴」のところ。あの理不尽さと絶望と、それ故の美しさが凝縮された文章、何度も読み返したくなる名シーン。
三巻『死神永生』が本当に楽しみ。この話が、どう終わるのか、本当に予想がつかない。

『日本SFの臨界点 [恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙/[怪奇篇]ちまみれ家族』伴名練 (編集)

「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」とまで言われる伴名練が編んだSFアンソロジー。「埋もれてしまっている傑作SF短篇の再発掘」を掲げ、雑誌掲載のみ、アンソロジー収録のみというような読むことがそもそも困難な傑作SF短篇を集めたという、ものすごい尖りよう。収録作は古くは第一世代から、新しくは2010年代まで、バラエティに富んでいる。当然ながら既読作品なし。嬉しい。
個人的に好きだったのは、
恋愛篇では、他の星系で戦争に従事している恋人からの手紙という形をとって語られる書簡体小説・中井紀夫「死んだ恋人からの手紙」や、五人の男たちの求婚に対しその条件として〈月〉を要求した令嬢とそこから始まる月を求めた技術開発を語る『竹取物語』のSF的アレンジ・新城カズマ「月を買った御婦人」。怪奇篇では、大阪を舞台に語られる、摩擦係数を0にできる物質〈ヌル〉に纏わるトンデモバカSF・山本弘「大阪ヌル計画」、タイムトラベルもののように思わせておいて無数の平行世界を巡り、様々な違う自分と対面することになる中田永一「地球に磔にされた男」あたり。
作品も本当に傑作ばかりなのだけれど、伴名練による、各3頁におよぶ著者・作品解説やそのSF愛溢れんばかりの編集後記を無視するべきではない。編集後記においては、これからSFを読み始める読者に対する非常に丁寧な日本SF入門ガイドが用意されていたり、今回のアンソロジーに込められた思いや願いが語られていたりと、これだけでも読みごたえがある。SFにとにかくいれあげる伴名練らしい、熱のこもった文章が最高に気持ちよい。
オタクだから、オタクが何か好きなものを語るのを聞いたり読んだりするの本当に好きなのですよね。
れおえん先生の美麗な表紙やclocknote.先生のデザインも特筆すべき点で、本としてのかっこよさもピカイチ。良い本だあ。

『赤い夜の迷宮』勇嶺薫

何も考えないとSFばかり読むので、ほかのジャンル挟みたいと思っていたところ、友人からお勧めされたもの。
勇嶺薫――はやみねかおるといえば、ぱっと出てくるのは「 都会のトム&ソーヤ」シリーズで、児童文学の名手のイメージ。縁がなくてほとんど触れてはいないけれど、それでも作品名ぐらいは知っているというくらいの知識。
この「赤い夜の迷宮」は打って変わってダークミステリなんだけど、その児童文学を彷彿とさせる柔らかい文章と陰鬱な内容や恐ろしい描写とのアンマッチさ、そのアンマッチさが作り出す独特の気持ち悪さがすごく良くて、ちょっと圧倒された。非常に後味の悪い読後感も良い。

『ラットマン』道尾秀介

これも友人に勧められていたものなんだけれど、勧められたのがもう5年以上前で、なんか妙に腰が重くてごめんとなる。道尾秀介といえば、「向日葵の咲かない夏」のイメージが強く、あれが正直好みでなかったので、ちょっと手を出すのに躊躇していたのです……という言い訳。
この「ラットマン」、カタルシスの権化というか、ミステリの醍醐味が詰まっていて、終盤にこれまでの内容が根本からひっくり返る瞬間が、何度もある。本当に何度もある。これが単純に読んでいて楽しい。どこまでひっくり返すの……となる。最後の最後まで全然気が抜けなかった。
「ラットマン」というタイトルも非常に秀逸。面白かった。

『時を歩く 書き下ろし時間SFアンソロジー』

ミステリを挟み、SFに戻った。創元社による〈時間〉をテーマとした書き下ろしSFアンソロジー。創元SF短篇賞の正賞、優秀賞、佳作入選者縛り。姉妹アンソロジーである『宙を数える 書き下ろし宇宙SFアンソロジー』を去年読んでからというもの、何故だか半年ほどあけてしまった。何故か。
個人的に好きだったのは、ベストセラーとなったセミフィクション旅行記の聖地巡礼を綴る石川宗生「ABC巡礼」、時を超えることで事故や事件を未然に防げるようになった世界を描く久永実木彦「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」あたり。
石川宗生作品は、あの淡々として少し理不尽な空気がとても良くて、「吉田同名」や「モンステリウム」が好きなんだけれど、この「ABC巡礼」でもそんな独特の空気は健在。
久永実木彦は「七十四秒の旋律と孤独」の情景描写が綺麗だったなって印象を持っていた。「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」では閉塞感のある未来とその陰鬱さが丁寧に描かれていて、また良い。「ぴぴぴ」と笑うキーパーソン・小栗くんの魅力的な不気味さ、気持ち悪さといったら!

去年あたりから、SFアンソロジーをよく読むようになって、自分、短篇SFを読むの好きなのかもしれないと思ってきた。今月末に出た「ベストSF2020」はもう手元にあるし、年内刊行とされている「2000年代海外SF傑作選」、「2010年代海外SF傑作選」も楽しみ。「Genesis」もそろそろ第三弾が出るのでは? いやそもそも、「年刊日本SF傑作選」も2015年以前のものは読めていないので手に入れたいし、「ゼロ年代日本SFベスト集成」や「日本SF短篇50」も読むべき……? となっている。読みたいものがいっぱいあって楽しい。アンソロジーで気に入った作家がいたらその作家の別作品も読みたくなる。なんというか、まあ時間が足りない。幸せな悲鳴。

漫画

『3月のライオン』羽海野チカ

「3月のライオン」、アニメがすごく好きなんだけど、いい加減原作も読もうと思って最新刊まで。
優しい話、なんだけど、優しいだけじゃないのが良い。これからも零ちゃんどう生きていくのかを見守っていきたい……。
ちなみになんですが、一番好きなキャラクターは横溝七段です……あの人、可愛すぎませんか……? 初心者に将棋を教えるのが上手かったり、大盤解説が得意だったり、もう、良い人~~~~って感じがあまりに好き。大好き。

『定時であがれたら』犬井あゆ

とにかく百合が読みたい……ってなることがある。ほんわかした可愛い年上なとサバサバした格好良い年下の社会人百合。とにかく甘い……名前で呼び合うようになるのが3巻に入ってからという、この遅々とした進みが、もどかしくてよい……よい……。癒し。

『ブルーピリオド』山口つばさ

遊びも楽しみ、成績も優秀、人気も高い不良である主人公・八虎くんが突如として絵画に目覚め、美術の世界へのめり込んでいく美術系スポ根漫画。
こういう、才能の話がなんだかんだすごい好きなので、これもかなり楽しめている。なんか読むのが辛くなりそうと思ってしばらく手を出していなかったんだけど、おもしれえ……ってほうが強い。
八虎くんと世田介くんの関係が、本当に良い……八虎くんが一番喜ぶのが、世田介くんにわかってもらえたり、認められたりした瞬間なのが、もう……もう~~~……。
続きが楽しみな漫画が増えた。

『ハチミツとクローバー』羽海野チカ

美術大を舞台にした、青春群像劇。「3月のライオン」からの流れで……いや、これこそ読んでてボロボロになった……辛さと切なさで……。
凡庸な主人公・竹本くんと類いまれな才能を持つ森田やはぐみ……微妙な関係を続ける真山と山田……亡くなった恋人の背中を追い続ける梨花さん……本当に良い人ばっかりで、それ故にさらに辛いみたいなとこがある……。
とにかく「片思い」の話なんですよね、ハチクロ。恋愛だけじゃなく、憧れだったり、嫉妬だったり、そういう一方的な情念の話なんですよね。時に優しく、時に暴力的な片思いの話なんですよ……うう……。
とにかくめんどくさい女・山田が好きです。梨花さんも重くて好き。
3月のライオンで描かれた後日談で、梨花さんが初めて女友達(はぐと山田のこと)ができてはしゃいでるって語られてたの可愛いよね。

映像作品

『泣きたい私は猫を被る』

「ペンギン・ハイウェイ」のアニメ化を手掛けたスタジオコロリドの新作。
優しくて切ない、良い話。
主人公のムゲのキャラクター造形がとても魅力的なのと、それを演じる志田未来の演技があまりに上手くて、すごい。本当にすごい。
ムゲと頼子ちゃんの関係が好き。

『同級生』

先月漫画を読んで、今月ちょうどNetflixに入ったので、見たんですけど……いや、これパワーがありすぎてきつくないですか? 神谷浩史の草壁、野島健児の佐条くん、どっちも可愛いの権化すぎて、一時停止を駆使せざるを得なかったんですけど……。
物凄く丁寧な、完璧なアニメ化。ため息しか出ない。
いやほんと、佐条くんさあ……ま、魔性……魔性だよ……。

『「物語」シリーズ』

なんで今更見てるんですか?
当時、猫物語ぐらいまで見ていた気がするのを、ふと思い立って最初から見ています。今現在、恋物語までは見たはず。
貝木さんが……好きです……。


以上。
7月、正直何も頑張れなかったので8月は何かを頑張りたいです。

ところで、つい先日配信されたバーチャルYouTuber・名取さなちゃんと西郷・R・いろりちゃん(CV.名取さな)のオリジナル曲「Chantして!!!!!」がすごく良い曲なので聴いてほしい。いろりちゃんの解像度がめちゃくちゃに高くて嬉しい。かわいい。


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