ペンフレンド

今どき珍しく、 私にはペンフレンドがいた。顔は分からない。声も知らない。ペンフレンドといえば聞こえはいいけれど、ネットで出来た友人とそう変わらない。ただ、私のペンフレンドはとても字が綺麗だった。更に、文体からも優しさがにじみ出ていた。悩みも、考えもすべて話してしまいたくなるような(実際、かなり話していた)雰囲気を持った文章を書く人だった。すごく素敵で、会いたいと何度も思ったけれど彼は私に会うことを望んでいないようだった。

ある日、彼から届いた手紙には珍しく彼の弱音が吐露されていた。

「会いたい気持ちはあるけれど、拒絶されるのが怖い」

私は、あの人がどんな人物でも受け入れられる自信があった。例えどんなに顔が歪んでいても、ひきこもりで働いていなくても、体臭が酷くても、家がなくても、私とずっと年が離れたおじさんでも。こんなに優しい人を拒絶できるはずがなかった。

「あなたがどんな人であれ、少なくとも私達は良い友人になれると思う」

と書いて送ると、

「本当にダメな理由がある。こうして文通を始めてしまったこと自体、今となっては申し訳ない。ごめん」

とあり、最後に心持ち小さく僕との文通が嫌になったらいつでもやめていいというような言葉が添えられており、たまらない思いがした。それから何度かやり取りをしていくうちに、なんでそんなに悲劇の主人公気取ってんだよ、詳細聞かないと何もわからんわ、ずっとセンチメンタルに付き合わされるこっちの身にもなれどうせ大したことじゃねえんだろって思ったしめんどくさくなったから文通やめた。


#物語が始まりそうで始まらなかった話

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