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「民衆が楽をしたかったからさ」「ええっ」〜銀河英雄伝説 Die Neue These (4)感想

※2ndシーズンを見終えた段階で1stシーズンの二周目をキメています。

 学生時代のヤンくんがオタクの悪癖である「好きな分野の話になると話が止まらない」をうっかりやってしまっている。うん……(覚えのある顔)

ジェシカの好反応に調子に乗って喋りまくる歴史オタク・ヤンくん。
周囲(ジェシカとラップ)が優しい。ちゃんと話聞いてくれる。

 ビスマルクが好きなので、士官学校時代のヤンさんをみていると大モルトケを思い出す。モルトケはドイツ帝国建国に力を発揮した軍人だが、とんでもない読書家で文才に長け、士官学校時代はへなちょこでどうしようもなかったという。


民衆が楽をしたかったからさ

 ラインハルト(とキルヒアイス)の過去回だった3話に続いて、今度はヤンさんの過去回。個人的にそんなに悠長でいいのかなと思うのだけど、長く続く物語(原作10巻まであるらしい……)である以上、主人公たちの基礎固めをしておくということなのだろう。

原作によれば変人だったらしいがいい父親の例。息子と目を合わせて疑問に答え、息子におもちゃを買い与えている。
ダメな父親の例。昼間から酒に溺れ、娘をすけべ皇帝に売り渡して息子にキレられている。

 ラインハルトとヤンさんはシングルファザー家庭で育っている。ふたりとも幼い頃に母親を亡くし、父の手で育てられた。ふたりの性格をわけたのは、父親の息子への接し方だとわかる。ラインハルトには優しく母代わりの姉がいて父がマダオという点から、姉のためにも早く自立しなければならないという思いが無意識下で働いてか、20代なのにラスボスに育ってしまった。
 ヤンさんは父や周りの大人たちに愛されて育った反面、16歳まで自分と同世代の子供とほとんど交わることなく過ごしたため、極度にマイペースに育つ。
 どっちの育ち方がいいんだろうなあ。キルヒアイスの育ち方が一番理想かもしれないけど、親は絶対目を白黒させてるし、第一、早死にする(まだ言ってるよ)

本が友達。

 それはさておき(?)、前回は、人類最初の統一政体である銀河連邦がメルヘン好きのルドルフおじさんの剛腕により世界が☆*:.。. メルヘンランド .。.:*☆にされていってしまう悲惨な過程を描いていたが、の衰退と、ルドルフ大帝による銀河帝国の建国を書き、今は皇帝と貴族が力を持ち、しかも今のじいちゃん皇帝は年甲斐もなく股間に自我を乗っ取られており、全帝国の美少女を監視し、好みの美少女をピックアップして後宮にお持ち帰りしスケベに及んでいるというめちゃくちゃくだらなさすぎる強大な権力の使い方をしている皇帝は、ひとりの何の罪もない少女から全てを奪う絶対的権力を有すること、さらにはその前提の崩壊、つまり貴族の持っている富と庶民の持っている富が逆転しつつあることが示された。
 今回のアバンで、その狂気のメルヘン状態から正気に返って銀河を全力逃走したアーレ・ハイネセンたちがつくった帝国の専制政治から逃れた共和主義者たちが作った、自由惑星同盟に住まうヤン・ウェンリーという少年が、

なんでメルヘンランドが作られちゃったの?どうしてルドルフにみんな従ったの?

 と疑問を抱いている。
 そう、3話の物語をまだ幼いウェンリーくんが、本を読むという形式で総括してくれているのだ。ウェンリーくんが読んでいた本の内容は、3話で我々とラインハルトが体験してきた物語でもある。
 二周するとこのゆるゆるアニメの巧みさがすごいよくわかる。ラインハルトとキルヒアイスの育ち方を中心に貴族社会の成立・実情とその限界を描き、その返す刀で「じゃあ、ラインハルトやアンネローゼ、キルヒアイスみたいな人権をあんまり重視されてなくて半裸のゴ……リラの像に敬礼したり半裸のゴリ……ラの子孫に好きにされる子供を作るような社会ができてしまったの?」というヤン・ウェンリーの疑問、そして人格形成の前提を描く。

 この回のはじめに投げられた疑問の展開点が、この話の最後でヤンさんが、明らかに半裸のゴリマッチョの像に敬礼していたキルヒアイスや、ルドルフを超えるぜ!とかどこか哀しげな声でいっていた頃のラインハルトと同じくらいの歳の少年であるユリアンくんを孤「児」として引き取ることなのに、目ん玉をひん剥いた。

 同盟基準でいえば、あの頃のラインハルトやキルヒアイスはユリアンくんと同じく、誰かの扶養の下に入らなければいけない年齢だった。守られるべき子供だった。

 だから、自分や姉と同じようなこどもを作らないために。子供は子供らしく、笑顔であれる世の中を作るために。誰かに服従し、肉体的にも精神的にも搾取されない世の中を作るために、これからの自分のような子たちがユリアンくんであれるために、メルヘン帝国を変えたいんだね?! ラインハルト。

 さすがproduction IGと震えた。ラインハルト全く出てきてないのにラインハルトの切なる願いがわかる。

 でも同盟基準を適用して少年期のラインハルトが誰かの扶養の下に入るとして、ユリアンくんとヤンさんの年齢差と同じ15歳くらい年上の軍人を探すと、やっぱり・:*+.\オーベルシュタイン/.:+とかなのでちょっとかんがえるのやめるわ

 ウェンリーくんの疑問に、父はこう答える。

 民衆が楽をしたかったからさ

 民衆はこの悲惨な現状を自分の手で変えたくはなかった。私も思うのだけど、やっぱり自分で政治のことを考えるのはつらいときがある。どうしようもなく価値観の違う人と出会ってしまったときとかもそうだし、途方に暮れてしまうようなことがニュースで伝えられているとき、つらくなる。
 政治を担っていく負担の重さに耐えられなくなったとき、「誰かなんとかしてくれないかな」と思った心に、独裁者が忍び寄ってくる、とヤンさんパパは考えているようだ。

過去ばかり見つめて

 さて、父親を亡くしたヤンさんは士官学校に入った。ずっと大人に囲まれ、16歳まで学校に通ったことはなく、過度にマイペースに育ってしまったヤンさんにとって、集団生活というものはかなりしんどいものがあったと思う。

ローリングはしごの階段版(?)を自分の椅子にして本読む辺り、ザ・マイペース。
ラインハルトがわがままに見えて、ローエングラム元帥府の皆さんで分けて食べているケーキの最後の一切れは絶対食べないだろうなって性格なのに比べて、ヤンさんはすごいほんわかしてるけど、第十三艦隊の皆さんで分けて食べているケーキの最後の一切れを容赦無く食っちまうタイプだと思う

 個人的にはヤンさんに読書という趣味があってよかったと思うし、図書館にいられるということ、歴史の勉強をすることがどれだけ彼の救いになったかなと思う。なにもなければ、母親を亡くし、友達もいたかどうかわかんないし、その上父親も亡くして一人ぼっちになり、士官学校なんていうしんどい学校に入ったことに、耐えられなかったと思う。

 同盟とはいえ、歴史学を学ぶということに奨学金が出ないのにグアアって思う。
 なんでかっていうと歴史学っていうのは今でもそうだけど、「いらない」系の学問だとされているからだ。でも、今の日本では大学で奨学金をだしている。学業優秀であれば専攻する学科はあまり問われない場合が多い。そういう大学が、自由惑星同盟にはなかったんだろうか。
 そういうことさえできなくなっていて、「必要とされる」学問にばかり奨学金が行ってしまっているということなの……?
 学問の自由が同盟で、経済的に制限されている可能性もあるなあ。

 でも、ヤンさんの読書するという行為は、自分のうちに引きこもってしまうという行為でもある。手ぶらで士官学校にきて、軍服を着たまま図書館に入ってしまうヤンさんは、唯我独尊というか、世界に自分しかいないようにさえ感じる。
 でも、この曲がヤンさんの世界に天窓の扉を開ける。

 あの、2ndシーズンを見た後だと、ジェシカが楽器持ってヤンさんと話してるだけで涙が出てくるんですが……

士官候補生がこんなところでなにしてるの?

 ヤンさんの心に光を差し入れたのはジェシカだった。このころのジェシカは、「気が強いお嬢様」というかんじで、変わった性格のヤンさんを物珍しがり、気持ちや尊厳を尊重せず、「面白い話をしてよ」と平気で言ったりする。でも、彼女はどんどんとヤンさんの知性に惹かれていく。どうしようもなく惹かれていく。ヤンさんも、自分の話を面白がって聞いてくれる彼女に惹かれていってしまう。
 ふたりのあいだに流れていく、もどかしくも穏やかで静かな時間が私は好きだ。ジェシカはラップとヤンさんで揺れていて、たぶんヤンさんのほうに傾きかけている。ヤンさんはジェシカのに心を寄せはじめている。軍服を着て図書館へいくのはやめて、カジュアルでこぎれいなファッションで図書館へ行く。

でも、感情を打ち明けあうことのないまま、デートにもならない淡い二人の時間を過ごす。ラップさんが留守中だというのに二人で会っているのが、どこか余計「それっぽさ」を感じさせる。でもデートではない。

 ヤンさんはたぶん人にやんわりいわれたくらいでは図書館へ行く服を変えるとも思えないので、ジェシカのことを念頭にネットで「モテコーデに欠かせない5つのアイテム」とか調べたのだろう。

 実際ネットに載ってた。女性にモテるには、以下の五つのアイテムを持っていればいいらしい。

  • 黒のテーラードジャケット→紺にも見えるが着てる

  • ゆったりめのニット→着てる

  • リラックス感のあるシャツ→着てる

  • スリムパンツ→着てる

  • 清潔感のあるシューズ→はいてる

 もうすでにネットガン見じゃん。不敗の魔術師ネットガン見じゃん

 ネットガン見する青春の不敗の魔術師はさておき、ジェシカが、「ねえ、あなたはなにを見ているの」「過去ばかり見つめて、他に何かしたくない?」「私は未来を見つめていたい」という。ヤンさんの世界が開けた瞬間の言葉に、じんわりきた。
 そっか。一週目、散々わからんと騒いでいたヤンさんの働く意欲のひとつは、ジェシカの「私は未来を見つめていたい」を体現するためだったのか、とストーンときた。
 ヤンさんは軍人になるということが、「未来を見つめること」だと思ったのかなあ。

一仕事終えたヤンさん

 過去の戦いを見つめることは、未来の戦いを予測することになる。

 ヤンさんはジェシカの言葉をうけて、この結論を導く。ヤンさんはエル・ファシル脱出を終えた後、ひとまわり大人になっていた。

わたしがそのう……責任者に任命されまして

 ヤンさん、なんでそんなモテるんだい……? 図書館でも、本を読んでいた時「軍人が本読んでる」と笑っていたのは女性であった。
 ヤンさんはどうやら結構モテるらしい。まさかこんな小さい女の子にまでモテるなんて……

ふれでりかわいい

 リンチが見捨てたエル・ファシルにフレデリカがいるの、グリーンヒル大将とリンチのこの後を考えるとぐさぐさくる。

 ヤンさんの声望を高めたのはエル・ファシル星域での民間人脱出だった。リンチ少将がうわなにをするくぁwせdrftgyふじこlpしてしまったため、ヤンさんにすべての責任が降りかかることになった。

いや、ヤンさん、マジお祓いしてもらえよ。

 魔術師ではなくて私はヤンさんを尻拭いの達人だとおもっている。ヤンさんは魔術師なのではなく、やるべきことをちゃんとやっているだけだと思うんだよなあ……それが魔術に見えてしまう。そして、たぶんそういうことをできるのが知将であり最高の軍人なんだと思うなあ。

・不安になっている民間人の前に顔を出し、状況を説明する。
・逐一様々な場所と情報を共有し、状態を把握する。
・帝国側に攻撃されないように民間人が脱出できる方法を考える。

 ヤンさんは基本的にこれだけしかやってないけど、反面、これを「やってのけてしまった」。そここそヤンさんの天才性なんだと思う。
 やるべきことをちゃんとやるっていうのは意外と難しい。そこまで考えが及ばない人が多い。そういえばラインハルトも、帝位を簒奪するためにオサボリせずにやるべきことをちゃんとやってるけど、「やるべきこと」がわからない人とか、やるべきことが力不足でやれない人とかがほとんどなんだよなあ。

 ……なんっていうことをかんがえてしまった。 

まとめ

・オタクの悪癖
・ヤンパパ……!
・ネットガン見する青春の不敗の魔術師
・ヤンさん、お祓いされろ
・二周するとわかる、すごい凝ってるアニメの構成。


ヤンさん、片付け業者を呼んでくれ。

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