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平安時代のとある後宮についてメモしていく③

 平安時代の後宮を私にでもわかるよう説明する試みのつづきです(ぴよぴー〇速報風)
 ロマンスもなければ、いろんな人に人権がありません

さて、平安中期の後宮の不文律(があるらしい……)をおさらいしよう。

①帝の「寵愛」はそのきさきの後見(父・兄等)のステータスで決まる。
②(これは例外も多々あるが、)ステータス強者(関白など)の娘が後宮にいる場合、ほかの大臣は遠慮して娘は後宮に入れない。①により帝から寵愛される可能性が低いからである。 
③有力な父親など後見のない女性に子供は生ませない。

平安中~後期後宮鬼の不文律

定子、崩御

 一帝二后(ひとりの帝に正妻が二人)が成立した直後、東三条院詮子が内裏にむかい、どうやら(一条帝と)定子のところに顔を見せに来ていたらしい。わけのわからないことが自分の身の上に起きて目を白黒させていただろう嫁①定子に配慮を怠らない家長・東三条院の姿が垣間見える。
 ちょうどその頃、定子はまた懐妊していた。誹謗中傷に耐えながら一条帝の(実質僧形の自分しか機能できない)後宮を守り続けて数年、自分がいなくなれば一条帝の皇子を産める人間がいなくなるため退路を断たれ、かといって兄は政治的敗者で進路もない彼女のできることは、他者からの心無い言葉や振る舞いに耐えること、なるべく夫の寵愛に応えること、そして健康に子供を産むことしかなかっただろう。
 ギリギリ極限だっただろう彼女の精神状態に思いを馳せると、歴史物語の『栄花物語』で晩年に「心細い」と繰り返していた(繰り返しているらしい)こともうなずける。
 長保二年十二月十五日、定子は三回目のお産に臨むが、後産が下りず、翌日に崩御してしまう。
 一条帝は「はなはだ悲しい」と彼女の死を悼み、最後まで責任を持って葬送、それからの仏事を行うが、これだけわけのわからない扱いをされた上に死んでしまったのだから、当然の福利厚生()だろう。
 実はこの時期、定子のスペアーになりえるはずであった女御たち、義子も尊子(こちらはなれないか)も、彰子入内に遠慮して内裏に姿を見せなくなった。元子はときたま内裏に顔を見せてはいたものの、道長がやはりプレッシャーをかけていた。定子はただ一人で、子供がまだ生めない彰子の成長を待ちながら、自身の子を生んでいたのだ。

 ようやく彰子が大人の女性となり、無事出産したのは、定子の死から八年後のことだった。そして彰子は定子どころか東三条院を超越していく。
 道長ゆずりの切れ者政治家として、国母として活動することになるのだが、いい加減これを座りながら書いていて足が痺れてきたので、その話はまた今度にしよう。

後宮不文律が適用された他の事例

①帝の「寵愛」はそのきさきの後見(父・兄等)のステータスで決まる。
②(これは例外も多々あるが、)ステータス強者(関白など)の娘が後宮にいる場合、ほかの大臣は遠慮して娘は後宮に入れない。①により帝から寵愛される可能性が低いからである。 
③有力な父親など後見のない女性に子供は生ませない。

平安中~後期後宮鬼の不文律

 この鬼の不文律、厳格に適用されて形骸化するのは平安後期・院政期である。
 鳥羽帝は当初、最初の妻の中宮待賢門院藤原璋子を寵愛し、崇徳帝と後白河帝を含む五男二女を作ったが、ある日突然、璋子ではなくほかの女を後宮にあげて皇后とする。高陽院藤原泰子だ。おう。実は璋子は入内時は①②を満たしていた。養父がステータス最強・白河院だったからである。ところが白河院は亡くなり、そのすきに次にステータスの強い男・藤原忠実が娘の泰子を後宮に入れちまったのだ。泰子は①を満たした。ところがしばらくして、鳥羽帝(院)は別の女を後宮に入れて女御・皇后とする。美福門院藤原得子だ。彼女は政治的には③だったが、実は……彼女は……お金のある所と非常につながりの深い女性だったのである。ステータスが「経済的ステータスもありえる」とすると①が適用できる。
 息子の崇徳帝は父親のカノジョである得子(の親族に)罰を下す。つまり、母(と自分)の権威をそぎかねない=政治運営を不安定にしかねない存在だと得子を判断したのだろう。父上が俺と同じくらいの歳の愛人持ってる……ドン引き……って気持ちもあったかもしれないが

 そんな崇徳帝は父とは違い、ひとりの女性にしか中宮・皇后位を与えていない。皇嘉門院藤原聖子だ。女御さえも彼の後宮には侍らなかった。そう、聖子は最強の后であり、関白の藤原忠通の娘であったために①を満たし、②が運用されたのだ。
 ただ、問題は泰子の父の藤原忠実と、藤原忠通のどちらのほうがより強者か――、というところになったところで試合は次に持ち越しとなり、次代の近衛帝の後宮では同時に後宮にほぼ同じ力を持つふたりの后が入り、激闘が繰り広げられることになる。

参考文献

(参考文献!)

倉本一宏『摂関政治と王朝貴族』:すごくおすすめだけど難しい。
同『紫式部と藤原道長』
同『藤原道長の権力と野望』
服藤早苗『藤原彰子』:ここ一番のおすすめ
同編著『平安朝の女性と政治文化――宮廷・生活・ジェンダー』:おもしろい。
黒板伸夫著『藤原行成』

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