俺からお前へ2

拝啓 友よ、

3月が来ましたよ。
冬と初春を行ったり来たりする気候に、振り回されてはいないかい。

俺はぶん回されて、体調を崩す瀬戸際ギリギリから動けずにいる。
「もうずっと18℃ならばいいのに!」
と、四季を誇るこの国の生まれじゃなさそうな発想を抱いてしまっている。すみません。
春夏秋冬、ありがたや。



今日はお前の新しい住処にお邪魔させてもらったな。帰宅したてで、この手紙を書いている。

新しい家は実家のような安心感があっていいじゃないか。
お前は先輩と住んでいるが、すごく楽しい生活が待っているように見えたな。

やはり友達とルームシェアは人生で経験しておくべきだったなあ、と思い直したよ。
もう俺たちも25歳になるんだから、人との距離感も測れる。
仲のいい友達と同じ屋根の下生活をしつつ、お互いに礼儀を忘れず、充足感のある営みを持つこともできるだろう。


と、言ってみたものの、ホントだろうか?

25歳になっても礼儀もへったくれもない人もいるんじゃないか?
そこらじゅうに食べかけの容器を残し、外着のまま友達のベッドに寝転ぶような粗雑なヤツもいるかもしれない。

ひょっとしたら、そんなヤツ、俺たちのすぐ近くにいるかも、、、、。

おいおい、あんまりアイツのことを思い浮かべてやるなよ。



それはさておき、今回のお宅訪問で、俺は初めて門前仲町を訪れた。
お前の言う通り生活感のあるいい場所と感じたよ。
あと、東京のそこそこの規模の駅周り特有の
“なんでもあるやん”系の町だな。とりわけ飲食店の層が厚いところがポイントが高い。

吉野家、王将、CoCo壱、磯丸水産、二郎ラーメン、etc…
さながら食のテーマパークだ。
嗚呼、ネオグルメシティ門前仲町。



やはり住む場所は人に多大な影響を与える。
前の手紙で、京都出身なことによって発生する葛藤を共有してくれたな。
その苦々しい気持ちは、痛いほど分かるよ。

なにしろ我々は誇り高き都の空気を吸って育ったものだから、全身の毛穴をセメントで閉じようとその高貴なオーラを止める術がない。

他県の人からの羨望の目が、自身が出身地でマウントを取ってしまっている気持ちにさせる。
不本意なんだがね。

ほんま、他の県もええとこぎょーさんあるやろし、もっと自信もたはったらええのにねぇ?



なんて軽口を叩かせてもらってるが、俺はつい先日まで仕事やらプライベートやらで大変慌ただしい生活を送っていた。
京都と東京を夜行バスと新幹線で行ったり来たり。
流石に心身共に疲れていた時だ。

銀座からの帰路、ビルと雑踏に辟易して目線を上にしたとき、
まん丸の月が綺麗だと思った。
「なんだ、良いことあるじゃん。」

そう思いかけて気づいたんだが、
自分が満月だと思ってた光源は、ただの丸の内の街路灯だった。

心底自分が愚か者に思えたよ。
俺の感動を返しておくれ。
3月はゆっくり休む月にするつもりだ。

筆は休めるつもりはないから、いつでもお返事お待ちしている。

では。


月明かりの愚か者 より

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