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俺からお前へ1



やあ、友よ。
手紙をありがとう。キツネ顔の男から手紙を貰ったりなんかすると、なにか化かされる兆しなんじゃないかと思ってしまうよ。
キツネさん、ねだってもお揚げはあげませんからね。

盛り沢山の内容で大変光栄なんだが、一つ言わせてもらうと追伸は文末に書くものだと思うぞ。
追伸: ポテトはカリカリ派の人間に会ったことがない。ひょっとするともう絶滅してしまったのでは、、?


ヒートテックの秘密に関して、ずっと前に俺も同じことを調べたことがあるが、俺はお前のように反発姿勢は呈さなかった。なんでもかんでも噛み付くんじゃない。ところ構わず社会に噛み付くお前には「京都の狂犬」ならぬ「京都の狂狐」の称号を送らせてもらうよ。


とにかく、残念ながら俺は某クロ側に付くからな。負け戦には乗らない主義なんで。
寒さに負けそうな時には潔く、スクワットでもして優秀な吸湿発熱素材に暖めて貰いなさい。


新年のみくじは末吉だったそうだな、年の初めなんてそんなもんでいいんだよ。まあ、かく言う俺は「大吉」だったんだがな。お前の負けだ。ざまーみろ。

しかしだな、縁起とか神様とか、身の覚えのない1億円当選メールとか、そうゆうオカルトは俺は信じないんだ。とはいえ、つい先日、大吉的運命としか思えない事が起きてね。少し長いが付き合ってくれると嬉しい。


〜〜〜〜〜

この年末、いつも通りウダウダと在宅ワークに精を出していた。昼食の蕎麦が茹でられる鍋を見ていると、小学生の頃の友人との解決してないモヤモヤが鍋の湯気と共にモクモクと思い出された。


知っての通り俺は、お前と同じ中学校に通うまでは京都の田舎に住んでいた。小学生の時だ。

家の近い男子2人と毎朝登校していたよ。シバタはそのうちの一人だ。小学3年生ごろに近くに越してきたので共に登校するようになった。
彼は長距離走とサッカーが得意で、家が厳しく、いつも勉強をさせられていた。

あの地域は、まあなんと言うか、あまり行儀の良い子供が多い地域ではなかったからシバタは珍しい子供だった。

一方、当時の俺はとにかく浮ついた子供だったよ。捕食者のいない安全な海でぷかぷかしているだけのクラゲのように浮足立っていた。思いつきで飯を食い、気まぐれに外出する。人と競い合うなんて無縁の呑気ボーイ。

退屈な日々だったから、シバタのような聡明な人間を気に入ったんだな、俺は。

彼との遊びに夢中になった。下校時の石蹴りや、柿の木取りや遊戯王などなど。張り合うことが楽しかった。

ある夏、俺は誕生日プレゼントで任天堂DSのデジモンのカセットを買ってもらってどハマりした。早速シバタも誘おう。

彼の家は厳しかったから携帯ゲーム機なんて無かった。それでもシバタは親に掛け合ってDSとデジモンのカセットを手に入れてくれた。

そのゲームは自分のデジモン達を育てて対戦が出来るものだったから、シバタに勝つために俺は自分のカッコいいと思ういわゆるレアデジモンを育てていった。

最初に彼と対戦した時、彼に圧勝した。
当然だ。俺の方がカセットを買ったのが先だから、その時間による恩恵があった。
俺が揃えたレアデジモンを彼は羨ましがりながら、悔しそうにしていた。自分にはゲームのセンスがあると鼻を高く伸ばしていた。
「どうだシバタ、オレは強いだろう。」

冬休み明けにもう一度対戦した時、俺はシバタに大敗した。
彼持ち前の頭脳でしっかりと対策を練られた戦略に俺のレアデジモン達はバタバタと倒れていった。
一辺倒な俺の戦略は彼にとっては穴だらけの策だったようだ。

敵わない。そうはっきりと絶望したことを覚えている。高く伸びた鼻もポッキリ折れたよ。

それ以来、彼に誘われても対戦することはなかった。それどころか彼から逃げるように、デジモンをやめてしまった。
俺からシバタを誘って、ゲーム機まで買わせたのに、だ。

俺は卒業までその件がなかったことのように振る舞った。恥ずかしかったからな。

彼は中学受験をして京都で有名な進学校に行ってしまったから、ついにその話できないまま疎遠になった。当然のごとく某K大に進学したことは風の噂で聞いたが、卒業以来会う事はなかった。

彼に謝れなかったことは、人生に残る大きな後悔の一つだ。

それがこの年始、我らが下鴨神社で引いた大吉を持って東京に戻った次の日の晩に、俺の最寄り駅の高円寺でバッタリ彼に再会したんだ。東京に就職した彼女に会いにきていたらしい。
彼の見た目は全く変わってなかったから、一目で分かった。

話しかけると本人も俺を覚えていた。流石聡明な男なだけあるなあ。

俺の仲の良い東京の友達と彼も親しいらしかったので、先日共通の友達交えて3人で早速ランチに行ってきた。

この機を逃すべからず。俺はデジモンの件を謝罪することに成功した。彼もそのことは覚えていたし、当時はかなり傷ついたらしい。

だがもう気がつけばお互い25歳。あの時は若かったと笑い合いながら銀座のイタリアンでランチも出来るようになっていた。

〜〜〜〜〜

友よ、お前も心にずっと引っかかっている後悔はないか。
後悔を長年熟成させるのも人生の興だが、やはりいつか晴らしてしまった方が心地は良いもんだと俺は思ったね。

思わず長い手紙になってしまったな。
お返事楽しみにしているよ。
じゃあな。



身の程知らずのデジモンマスターより。

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