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左利きの話

 私の利き手は左である。左利きは人口の10%ほどしかいないらしいが、一クラスに3~4名ほどいると思えばそこまでレアではない。しかし、本当によく「左利きなんだ、すごいね」「左利きに憧れる」などと言われる。声を大にして言いたい。左利きはすごくもないし憧れを抱くものでもない。私の実感としては不便8割、ちょっと便利が2割だ。

 不便は日常に散らばっている。例えば、給食やビュッフェでのスープのレードル。注ぎやすいように先が細くなっているものがあるが、左手で持てば注ぎやすくもないただのお玉だ。どうせなら両方に注ぎ口を作ってくれればいいのに。電車の改札、自動販売機、ドアノブなども右利きのために作られていると思う。学校で支給されるはさみもそうだ。高校生の時、授業で一時的にはさみを使う時があったのだが、先生が一番前の席の子にはさみを渡し、使い終わったら順に後ろに回す方式が取られていた。小学生の頃ならお道具袋に各自のはさみが入っていたが、高校生の頃、マイはさみは常備するものではていなかった。そのため先生が数本のはさみを用意したのだが、もちろん問答無用で右利き用だ。その頃には左右どちらのはさみでも使えるようになっていたので困らなかったのだが、道具を使う時に「どちらの手で使えばいいのか」を毎回考えなければいけない左利きは全然憧れの対象ではないと思う。世の中の調理器具も圧倒的に右利き用のシェアが大きい。フライ返しは左右対称のものは返しにくく、左右非対称のもので左利き用には出会ったことがない。そのため使うことは早々に諦めた。包丁も何度か購入を試みたが、値段と納期がネックになり購入には至っていない。今も右利き用の包丁を左手で使っている。あと、私は料理番組で調理者の目線や真上から撮った映像が落ち着かない。自分に近い視点で右手で包丁を持っている映像を見慣れないからだと思うのだが、懲りずに毎回違和感を感じては理由を見つけて納得するという一連の作業をしてしまう。左利きは日常のストレスが多いため、早死にするらしいがなんとなくわかるような気がしている。

 左利きがちょっと便利なのは、眉毛を描く時だ。左の眉は左手で、右の眉は右手で描いている。慣れると描きやすく、左右の形も揃えられるようになった。あとは、恋人と手をつなぐ時、相手の左手と自分の右手をつなぐことが多いのだが、互いに利き手が空くので便利な気がする。

 正直、もう左利きで便利なことや得をすることが本当に思いつかない。カウンター席では右利きと腕がぶつかり、右手に荷物を持ちがちなので改札は左手でタッチする。パソコンのマウスは右手で使うのが当然だし、名前入りボールペンは左手で持つと字がさかさまになる。

 そして、左利きは10%しかいないので、左利き同士で食事に行ったりすると、無意識で席を奪い合ったりする。テーブル席では左角に座りたがり、カウンター席では同行者の左に座りたがる。腕をぶつけ合わないための対処法が身についているのだ。向かい合わせの席で相手が食事をしている時に鏡合わせのようにならないので違和感を覚えたりする。

 もう一度言う。左利きはすごくもないし憧れを抱くものでもない。

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