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心音・心雑音についてすこしずつまとめてみる part2 (心雑音総論編)

前回、正常心音:S1-S4についてまとめました。

今回は、主に心雑音について簡単にまとめてみます。

引き続き網羅的なものは教科書に譲りますのでこちらでは心雑音に対するイメージを記載していきます。

一般的には収縮期・拡張期ごとに雑音がまとめられているかと思いますが、ここではあえて、病態ごとに分けてみます。

違う視点から見てみると理解しやすくなるかもしれません。


心雑音は血管に対して血液が

・順行性に進んだ際に聞こえる雑音と

・逆行性に戻る際に聞こえる雑音、そして

・通常存在しない血管や孔を通る際に聞こえる雑音

の3種類からなります。

いきなりわかりづらいかもしれませんが次に続きます。

順行性に進んだ際に聞こえる雑音

イメージとしては狭窄音が主なものです。狭いところを血液が通ることで音が聞こえます。

狭ければ狭いほど、勢いが強ければ強いほど高い音が聞こえます。逆にゆっくりとした血流であれば低調音です。

勘の言い方はお気づきかもですが、「狭いところ」ってどのくらい?という問題があります。

実はこれは、「血液の量」および「血液の速度」に対して「相対的に」弁が狭いと音が鳴ります。

なので正確には相対的狭窄音と呼ぶ方がわかりやすいです。

ということは狭窄音がなるのは、

1 弁硬化・器質的異常などにより弁が狭窄する
2 心筋肥大などで流出路が狭窄する
3 血液の流れる量が増える
4 血液の速度が増す

ことにより聞こえる心雑音となります。
3, 4は正確には狭窄音ではなく、機能的心雑音と呼ばれることが多いです。

1を起こす疾患は名前の通り、

大動脈弁狭窄症(老化・大動脈二尖弁・リウマチ熱など)
肺動脈弁狭窄症(主に先天性)
僧帽弁狭窄症 (開放音も聴取されることがある)
三尖弁狭窄症

簡単に大動脈弁狭窄症についてまとめておきます。

大動脈弁狭窄症は大動脈弁がなんらかの器質的病態が原因で弁の狭窄がおき、左室と大動脈の間に圧格差が生じます。そこで収縮期のうち、駆出期において狭窄音が聴取されます。

また血液を大動脈へ拍出するのに時間がかかるため、Ⅱ音の大動脈成分がが後ろへ動くことが特徴的です。

正常ではⅡ音はⅡA→ ⅡPの順に聴取され、通常、息を吸うとⅡ音の肺動脈成分が後ろへ動くために分裂がはっきりと聞こえるようになります。

しかし大動脈弁狭窄症では、特に重症化するとⅡAがⅡPよりも後ろに位置するようになり、

呼気時にⅡP→ⅡA
そして
吸気時にⅡPが後ろへ移動することでⅡA→ⅡP

とAとPが逆転する現象が起こることから、Ⅱ音の奇異性分裂、と呼ばれたりします。

正直なところ、ⅡAとⅡPをきちんと聴取するためには傍胸骨左縁と右縁、吸気時と呼気時と聞きまくり、かなりの時間を要する必要があり、実際の臨床現場で見極めるのは激しく困難だと思っています。

なにより大動脈弁狭窄症であれば典型的な収縮期雑音が綺麗に聞こえますのでⅡ音は試験の知識でしか必要ありません。


次に2(心筋肥大などで流出路が狭窄する)を起こす疾患は以下が挙げられます。とにもかくにも血液が流れる通路が狭くなる病態であればなんでも含まれます。

(閉塞性)肥大型心筋症
右室流出路狭窄(ファロー四徴症・右室二腔症)
心臓腫瘍による流出路の閉塞


次に3, 4(血液量・速度の増加)の機能的心雑音はどのようなものかというと、心臓サイズに比較して心拍出が増加する病態が挙げられます。

1, 2に比べると非常に弱い心雑音で、心の耳で聞かないと聞こえないことも多いです。

これは左心系の大動脈弁における全身の血液が増えることによって聴取されるものと、

先天性心疾患などにおける左右シャントの血流が増えることで右心系(肺動脈弁)における血流が増えるものがあります。

左心系:心機能・心拍出量が増大する病態
貧血
妊娠
スポーツ心臓
甲状腺機能亢進症

右心系:右室への還流量が増える病態
心房中隔欠損症・肺静脈還流異常症などの左右シャント性疾患

左心系では大動脈弁狭窄症と同じような心雑音が聞こえ、右心系では肺動脈弁狭窄症と同じ心雑音です。

弁自体が狭窄しているわけではないので相対的弁狭窄と自分は勝手に呼んでいます。

左右シャント性疾患には他にもさまざまな疾患が含まれますが、例えば、心室中隔欠損症では心室中隔での収縮期雑音が強烈なため、肺動脈弁での相対的狭窄音はほぼ聴取不可能です。

逆行性に血流が進んだ際に聴取される心雑音

一方で逆流音は弁不全により弁が適切に閉じないことで血液が逆流し、聞こえる音です。

これは病態自体は単純で、以下のものが挙げられます。

拡張期に聴取:
大動脈弁逆流症
肺動脈弁逆流症

収縮期に聴取:
僧帽弁逆流症
三尖弁逆流症

疾患別:
Marfan症候群、感染性心内膜炎、僧帽弁逸脱、大動脈解離など

上記を引き起こす疾患を列挙しろ、といわれると意外と出てこなかったりしますが冷静に考えていけば問題ないかと思います。

弁の器質的な異常は基本的には逆流です。

弁がうまく機能しない→うまく閉じない→血液が逆流してしまう。

その他、例えばMarfan症候群であれば弁逸脱が生じやすく、また感染性心内膜炎で弁破壊が生じると、同様に弁逆流が見られるようになります。

欠損孔で聞こえる心雑音

音が聴取されるかどうかは血液が通る前後の圧格差が重要です。

血圧が高いところから低いところへ血液は流れますが、その圧格差が大きいほど勢いよく血液が流れることが大きな音が聞こえます。

欠損孔での心雑音の定番は心室中隔欠損症です。欠損孔サイズにかかわらず大きな音がなります。むしろ欠損孔が大きいとむしろ聞こえずらくなります。

笛のようなイメージで結構です。左室と右室の圧格差が大きいことが音が大きな要因です。

一方、心房中隔欠損症も欠損孔を血液は通りますが、右房圧・左房圧いずれも圧が小さいため、欠損孔をゆるやかに血液が流れるため、シャント自体の心雑音は聴取されせん。

異常血管で聞こえる心雑音

最後、異常血管で聞こえる心雑音の代表は

動脈管開存症・動静脈瘻です。

いずれも左心系と右心系が直接血管で繋がることにより、常に血圧が高い左心系から血圧が低い右心系へ血液が流れるために雑音が聞こえます。

これは収縮期と拡張期いずれも聞こえるために連続性雑音と呼ばれます。

動静脈瘻は心臓外でいうと透析シャントもその類いです。

欠損孔・異常血管での心雑音については文章ではややわかりにくいところもあるので別記事で図など用いてまとめます。


まとめ

心音以外で心臓で聴取される音は上記のように、狭窄音・逆流音・異常血管における心雑音があります。

無理矢理暗記しようとすると大変ですが、それぞれの疾患で1つずつ考えていくと意外と単純だったりします。

ポイントは、必ずしも弁の狭さだけではなく、血液の量や心機能の増加によっても心雑音は聴取されうるということを頭にいれておけば問題ありません。

次回以降で代表的な先天性疾患における心雑音を考察していきます。


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