ゴンドウトモヒコさんのソロアルバムが好き(Vol.21)
リリースされて既に1か月以上が経過していますが、音楽家のゴンドウトモヒコさんがソロ名義でリリースされているアルバムの感想、Vol.21編です。その他、ゴンドウさんや愚音堂周りのお話を幾つか。
ソロアルバムに関する公式情報は以下を参照してください。
Vol.21『NeBuLa』
配信リンクはこちら。
2024年2月20日リリース。テクノやエレクトロが占める全10曲のアルバムだが、聴き始めと聴き終わりでは随分違う所に居るような気分にさせられる曲順、構成だ。90年代に作曲されたものを含め新旧混在である旨は、ゴンドウさんご自身がノートに記されている。
前半はスタイリッシュな曲が続く。M-1「Flavor of Past」は曲名を具現化したような少しチープなイントロで始まるが、テーマに入るや否やベースがリードを取るドライビングミュージックへと変化する。中間部で何度か登場するシンセのソロが良いアクセントで、手弾きのように聴こえるフレーズには愛嬌も垣間見える。続くM-2「next day」は四つ打ちビートが軸の音圧のある曲だが、その上で奏でられるメロディやハーモニーに光の明るさを感じられて、窮屈さをあまり感じない。アルバムタイトルこそ『NeBuLa』だが、ジャケットのイラストに沿うのは実はこの曲なのでは、と私は思っている。
M-3「Cocoon」も一聴するとスマート且つキャッチーで前半のハイライトのような印象だが、シンプルに繰り返されるフレーズが幾層にも重なっており、一回で聴き切るのが難しくもあり勿体無くもある1曲だ。0:51辺り(私は2周目と捉えている)から入ってくる少し哀愁のあるメロディや、2:07以降(3周目)からは左から右へと流れるように入ってくる打撃音のような音など、曲が進む毎に展開があるのも聴き飽きない。また、大きく目立つ訳では無いが、何度か聴いているうちに太くゴツゴツとしたベースラインにも虜になった。
前半を聴き終えてアルバムの中間部へと歩みを進めると、次第に足を取られるような感覚に陥る。M-4「Lovery SH」の「SH」とは何ぞや、というのは上述の公式サイトのノートを読むとして(とある音楽家を指している訳では無いらしい)、全編に渡って鳴り続ける、実家で眠ったままになっていた古びたピアノを思わせるような音が妙に耳に残って離れない。不気味な可愛さもあるテイストは、何処か懐かしさを感じるリズムボックスとフリューゲルの組み合わせが特徴的な次のM-5「It's Hard Life」にも続く。テーマの2周目からフリューゲルが2パートに分かれるのが好きで、特に下のパートのざらついた感触が良い。また、3周目にあたる2:00頃からはメロディが口笛に移るが、その裏で響くオブリガード、特にフリューゲルの高音を下支えするクラリネットの音色に耳を傾けたい。
折り返し地点はタイトルトラックでもあるM-6「NeBuLa」。Vol.9『Undercurrent』のM-7「Mnemonic Music」の別バージョンで、同曲と比べると定期的に迫り来るようなシンセが入っているのが大きな違いだろうか(冒頭30秒を聴き比べると直ぐに違いが分かる)。いずれにしても、水中に沈められるような没入感があるように思っていたが、今回の曲名を考えると、水中では無く宇宙を漂うようなイメージかもしれない。
M-7「gently gently」はまた流れが変わって穏やかで爽やかなフォークトロニカ作品だ。リズムやビートを含むトラック部分はpupa、弾むようなフリューゲルや少し歪んだストリングス、柔らかなグロッケンはanonymassを思い出すが、2000年代に作られたものだろうか、と勝手に想像してみる。
M-8「Invisible Street」は冒頭にドアの開閉や鍵の音が入っており、サウンドトラックのような曲だ。メロディを取るのは少しくぐもった音色のユーフォで、Aメロではまるで小声で早口言葉でも唱えるように音を行き来する。フレーズが1周目、2周目、3周目それぞれで少しずつ違うのも自由で面白い。メロディの合間を縫うように16分で動くベースラインもクセになる。一方Bメロは伸びやかに口ずさむように歌っていて、Aメロと比べると解放的だ。例えるならば、Aメロは狭いビル街を行き来する様子、Bメロはビル街から見上げた空、といったところか。ピアノのアウトロが終わると、曲の最後には冒頭と同様にドアや鍵の音が入っており、1曲を通して1つの物語のような構成となっているように思う。
M-9「I'm sorry to hear that」は本作唯一のアンビエントで、動きの多い曲が大半を占める本作の中で唯一のブレイクポイントと言っても良いだろう。シンセと重なるユーフォの響きに身を委ねたい。冒頭0:08頃から入ってくる、動物の遠吠えのような音もユーフォから出ているのだろうか?
本作の締めはM-10「You Mean Man」。ゲームのエンディング、それもバッドエンディング、ゲームオーバーを思わせるような滑稽で軽快な曲だ。2:53頃で不協和音を残してメインテーマが終わると、オルゴールのような音色で次の展開が始まるのだが、この部分は振り子時計が思い浮かぶ。等間隔で鳴らないのも、きちんと動かなくなってしまった古い時計のようだ。
序盤のテンポの良さと、ラストのバッドエンド感を比べると、何処か「してやられた感」を覚えずにはいられない。
ただ、今まであまりこういう聴き方はしてこなかったが、今回は全体を聴き込む前に上述のノートを読んでいた為、「懐かしい」というキーワードだけを頼りに、自分なりに懐かしいと思えるエッセンスを探しに行くような側面もあった。コンセプトを後追いする形だったが、今まで通り聴き手の解釈でどんどん想像が膨らむことには変わりが無い1枚だ。
愚音堂メルマガ 100号記念ステッカーとユーフォニアムの作りの話
前回の記事でも少し触れたのだが、愚音堂のメルマガが今年2/1発行分で100号を迎え、希望者向けに記念ステッカーのプレゼント企画があった。届いたのがこちら。
デフォルメされたイラストが可愛い。そして、イラストのユーフォを見て真っ先に思ったのが「ちゃんとサイドアクションが付いている…」ということだった。正直な所、ゴンドウさんのファンになるまでユーフォの形についてはあまり知らなかったのだが、他のピストンから離れた位置にあって左手で操作するタイプの4番ピストン、この形状のことをサイドアクション式というらしい。
4番ピストンって何に使うんだ?と思っていたのだが(テナーバストロンボーンやダブルホルンのレバーによるB♭/F管切り替えなんかとは違うようだし)、先月2/10に代官山の晴れ豆で伊舎堂百花さんのライブを観た際に、バックサポートを務めるゴンドウさんの手元を見ながらふと「何故その運指でその音が?」と思う場面があった。恐らく4番ピストンを使って音を取っていたのだと思う。
金管吹きには当たり前、なのだろうが、幾つか楽器を手に取ったことがあるのに何も知らなかった自分の為のメモ代わりにもう少し。
「何故その音が?」と思ったのは、パッと見たところ2番を押さえているのにH(B)の音が聴こえたから。そもそも各ピストンを押さえることで何度(何音)下がるのか、という事すら私は知らなかったのだが、その辺りの仕組みを踏まえたうえで考えると、4番ピストン単体を押さえると1番と3番両方を押さえた場合と同様で2音半下がるらしく、Eの音から2音半下げた状態と考えれば合点がいった。1番+3番で取れば良いものを何故4番で、といえば、前者と後者で管の長さが変わるので当然音程も変わってくる、ということだ。
こんな事も知らなかったのかと情けなくなるが(音程が悪い時の替え指はこっち、などという馬鹿の一つ覚え状態だった)、知らないままでいるよりはマシだ。きっかけとなったゴンドウさんに感謝を。
ユーフォの作りでもう一つ。前述のサイドアクションについて調べていた際に何度も目に入ってきたキーワードが「コンペンセイティング」。バルブとバルブの間を繋ぐように付いている管の事らしいが、これはヤマハのFAQサイトの解説が分かりやすかった。
【チューバ / ユーフォニアム / バリトン】コンペンセイティングシステムとは何ですか?
なるほど、と思いながら再度ステッカーを眺めると、これもきちんと描かれていたのだった。
因みに、数年前のものになるが、『BAND LIFE』という(恐らくバンドマンよりは吹奏楽プレイヤーに宛てた)管楽器奏者向けの雑誌の2016年11月号にゴンドウさんのインタビューが掲載されており、そこで使用楽器の型番が確認できる。掲載内容に間違いが無ければ以下のモデルらしい。
あのイラストを見て楽器に目が行くのか、はたまた、普段のステージ上でのゴンドウさんのファッションを思い出すのか、着眼点は人それぞれだが、今まで2年半ほどメルマガを購読してきて初めてのプレゼント企画だったので楽しかった。また何かの機会に企画してほしいと思う。
pal'las palaceの店内BGMのこと
2月初旬、アパレルブランド「pal'las palace」の今年度の店内BGMをゴンドウさんが担当されるとのアナウンスがあった。
ゴンドウさんが同ブランドのBGMを担当されるのは2年前の2022年度以来。以前から偶に買い物に立ち寄っていたブランドだが、2年前はBGMも楽しみに通っていた。当時のBGMが好きで、以後のゴンドウさんのソロの曲を聴いても「この曲はpal'las palaceのBGMっぽいよなあ」などと考えることがあるぐらい、まとまった作風、イメージの曲が多かったと記憶している。最近も以下の記事でこのBGMについて触れたところだ。
今月になってやっと春物を買う気分になり、某ショッピングモール内の店舗へと足を運んだ。館内共通のBGMの音量の大きさに負けそうではあったが、スピーカーの真下に行くと耳馴染みのある電子音が・・・いや、明らかに知っている曲が流れている。その次も、そのまた次も。試着している間も、スピーカーからは知っている曲ばかり。上述のnote記事で「この曲を聴くとpal'las palaceのBGMを思い出す」と言及した曲そのものまで。そう、私が確認できた範囲では、全てソロワークスの曲だったのだ。バージョン違いやMix違いの可能性もあるが、アパレル店舗のBGMを買い物しながら細かく聴き分ける能力は私には無い。
曲名を思い出せないまま、お店を出る頃には忘れてしまったものも幾つかあるのだが、覚えているものは以下。ソロの中でも自分の好きなアルバムからの曲が多かった(どの曲だったか思い出せないが、入店直後も『17』の曲が流れていたと思う)。
因みに、春物のチノパンを買った。サイズ感を店員さんに相談したら「慌てて切らなくても、先ずは裾を折って様子見でも良いと思いますよ」とのアドバイス。少々控えめなBGM音量同様、押し付けがましく無いのが良かった。
『The Last Day of Winter 2024』(2024/3/20 神保町 試聴室)
ゴンドウさん、上野洋子さん、阿佐美和正さんから成るユニット、「The Last Day of Winter」(以下、LDW)。先月、東京国際バリトンサックスフェスティバル(以下、バリサクフェス)で初めてライブを観たのだが、「本公演」と呼ばれているワンマンライブを観る機会にも恵まれた。LDWの本公演は以前、2021年7月に開催されたものが2022年1月に期間限定配信された際に観ているが、生で観るのは初めてだ。
セトリの詳細は愚音堂メルマガのライブレポを待つとして、幾つか感想を。まず、第一部はLDW3名のみの演奏がメイン。先月のバリサクフェスでの演奏はバリトンサックスの井出崎優さんをゲストに迎えた曲が殆どを占めていた為、私にとってはむしろオリジナル編成の方が新鮮だ。上野さんのアコーディオンと歌声に、ゴンドウさんのホーンというシンプルな構成は、一音一音がかなりクリアに聴こえてくる。特に、「ふりゅあこ」という四部構成の組曲でのフリューゲルの輪郭のはっきりした音が印象的だった。
お二人だけの演奏には余白があって、その余白を使いつつさらにグッと世界を広げてくれているように見えたのが、阿佐美さんの映像だ。バリサクフェスではステージ中央のスクリーンのみだったが、試聴室では左右の壁にも映像が投影され、よりLDWの世界観に浸ることの出来る空間となっていた。
ステージ中央奥でPCを操作していた阿佐美さんだが、第一部終盤ではセンターに。阿佐美さんがギター&ボーカル、上野さんがベース、ゴンドウさんがドラム、という3ピース編成での演奏が突然始まったが、途中でこういう時間があるのも楽しい。演奏後、上野さんがボソッと「隠し芸大会・・・」と呟かれたように記憶しているが、上野さんのベースが特にかっこよかったと思う。
第一部ラストはゴンドウさんのソロワークスVol.10『tuning pressure』より「河童の堵列」。昨年の本公演でも演奏されていたそうだが、音源よりも隆々としたトロンボーンの音色に耳を奪われる。何より、今までゴンドウさんのトロンボーンを生で聴く機会が無かったので、念願叶って初めて聴けたのが嬉しかった。
私は第二部を観ずに帰らねばならなかった(※)のだが、第二部はゲストの井出崎さんを迎えた編成で、バリサクフェスでのセトリを引き継ぎつつ、井出崎さんが作曲された新曲も披露されたらしい。次回は終演まで観れることを願いつつ、来年まで楽しみに待ちたいと思う。
※この日は仕事で偶然東京に来ていたのだが、当日中に完了するか分からない作業を抱えており、ライブに行けるかどうかも当日判断だった。翌日も仕事だった為その日の内に帰宅せねばならず、バタバタと会場を後にしたのは申し訳ないというか失礼な事をしてしまったとも思うが、前半だけでも観ることが出来て良かった。この冬一番頭を悩ませた仕事を無事終えた直後だったのも、まさに「The Last Day of Winter」だった。
以上。今月は書くのを少し悩んだが(直近の記事からは伝わらないと思うが、私はジャズをはじめとした音楽も聴く。あとは分かる方には分かると思うので察してください)、悩むぐらいなら今までの記事は全て非公開にすべきだし、でもそれはしたくないし、そもそも公開する前提で書き続けてきたものなので、いつも通りです。
それにしてもトピックが多かった。他にも触れておきたい事はあったのだが、また来月以降に回します。