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2024年上半期の記録(観た、聴いた)

 日々どんなライブを観に行ったかはXで簡単に記録しているのだが、こちらにも転記(ものによっては追記、fixあり)することにした。購入した新譜もタイトルだけでも書いていきたいが、この辺りは後ほど…。(X投稿前提なので文章としては読みにくいです)。


ライブの記録

『星・導・夜』(2024/1/6 枚方市総合文化芸術センター)

 2024年ライブ始め、枚方でのイベント「星・導・夜」へ。
 まずは初めて生で観る、どころかあまり聴いた事がなかったYeYeさん。浜田淳さんとのデュオは、こじんまりとしたセッティングや緩やかなMCも含めてアットホームな雰囲気でありながら、しっかりとホール全体を広く包むような伸びやかな演奏だった。
 昼の部後半は高野寛さん。宮川剛さんとのデュオ。年末に東京で観た時も宮川さんのドラム良いなあと思ってたのだけど、今回も、特に中盤の盛り上がる曲が続いた所はドラムに釘付けに。でも、序盤のゆったりした流れや、しっとりとしつつも想いが込められていたであろう終わり方など、アコギとドラムだけなのに(むしろ、アコギとドラムだけだからこそ?)色んな景色が広がってるんだなあと思う構成だった。1時間だからあっという間だったけど、特に、「Everlasting Blue」は好きな曲だから聴けて嬉しかった。


『新春DANCEHALL』(2024/1/21 グランドサロン十三)

 思い出野郎Aチーム、ビルボード以来1年半ぶりぐらいに観たのだけど、楽し過ぎて、そして少し泣きそうに。どのパートもどの曲もどなたの見せ場もかっこいいけど、特に「それはかつてあって」のライブアレンジのホーンソリ、初めて聴いたけどあまりにもかっこよくて痺れた。


キセル『春隣』(2024/1/27 磔磔)

 アレンジがどんどん変わっていく驚きは勿論だけど、今迄も登場していた友晴さんの自作楽器に加え、前夜のノコギリ忘れた事件の産物、卓史さんのご友人作の「鉄の板」(気になってたので顛末が聞けて良かった)まで、色んな楽器で拡張されるキセルの音に感動。
 河原町から磔磔まで歩いて向かう途中、ふと、あの曲聴きたいな、自分は生で聴いたことないな、って思った曲があったんだけど、それがセトリに入っていて。グッと来た。 普段は、印象を上書きしたくないから生で観たライブの配信チケットはあまり買わないのだけど、今回はもう一度観たくて購入。


Skoop On Somebody 『「Nice'n Slow Jam -beyond-」Release Party』(2024/2/10 Billboard Live Osaka)

 今回のライブ、サポートが知念さんと小松さんだけ、計5人のミニマム編成は、かえって一人一人の音が際立ち、物凄く"FUNK"を感じる演奏。そして、短い時間ながら完璧な構成だった。
 音源は音源で良いとして、ライブ版はライブ版としてアレンジされてるのもしっかり伝わる内容。やっぱりバンド演奏最高やなあ、と、うっとりせざるを得ない時間だった。

(以下、後日、東京公演が配信された際に再度記載。)
「Every Kiss, Every Lies 〜Plug & Play」はDTNと同じく原キーから全音下げたバージョン。少し下げるだけなのに、タケさんのボーカルも知念さんのギターも熱を帯びて艶が増すのは何故なのか。ライブ版は良い意味で、久保田さんらしさが薄まっているように思った。
 今回、現場(大阪)で観ていて一番印象に残ったのは「ラビリンス 〜Mo' Passion〜」の小松さんのベース。音源のシンベも結構目立つけど、生のベースだとサウンド全体をもっと前に引っ張っていくように聴こえた(これは配信よりも現場で聴いた時の方がより実感できた)。
 3兄さん+小松さん・知念さんとの編成を観て強く思ったのは、トラックとの同期は一切使わず、全て生演奏のライブも観てみたい、ということ。音源のイメージからかけ離れるものもあるだろうけど。一人一人の音が際立つライブだったから、そういうのも観てみたいな、と。

Skoopのライブはいつも現地で浴びた音と勢いと嬉しさが勝ってしまい、配信(自分が観ていない公演になる事が殆ど)は少し物足りなく感じてしまう部分もあるけど、細かな部分や現地で観て忘れてしまっていた事も補完出来るので、こういう機会がほぼ毎回あるのは本当にありがたい。


『晴れ豆のかりゆし2024』永山尚太 × 伊舎堂百花 (2024/2/11 晴れたら空に豆まいて)

 初めて伊舎堂百花さんのライブを観る。沖縄の歌からご自身のオリジナルまで。陽気な曲は勿論、バラードでの歌声と三線に聴き惚れる。そして、出来て間もないという新曲は艶やかな感触もあってかっこいい。沖縄は一度しか行った事無いけど、こういう曲を海辺で聴いてみたい。


『東京国際バリトンサックス・フェスティバル2024 SOUND ADVENTURES SPECIAL CONCERT』 (2024/2/11 吉祥寺 MANDA-LA2)

 The Last Day of Winter(上野洋子さん、ゴンドウトモヒコさん、阿佐美和正さん)、生で観るのは初めて。ゲストでバリサクの井出崎優さんを迎えての緻密なアンサンブル、客席に居る自分も「一音も聴き逃したくない」という気分になる。
 ゴンドウさんのソロワークスから「Walking with Gremory」や「Age of Blue」(後者は去年のLDW本公演でのセトリにも入っていたらしい)も。普段は音源ばかり聴いているからアンサンブルは新鮮。そしてanonymassの「Awkward Dance」。anonymassが好きな私はこれが聴けたのが一番嬉しかった。
 二番手の太平楽トリオやトリのN/Yもスリルのある演奏で楽しかった。N/Yの2曲目(吉田さんがSF小説から着想を得て作られた曲、だった筈)の勢いが凄くて。 初めて行ったイベントだったけど、バリサクに限らず管楽器にフォーカスして観れるのでとても楽しめた。良いイベントでした。

※この時の感想はもう少しだけ、こちらにも記載。


Meshell Ndegeocello (2024/2/15 Billboard Live OSAKA)

 無理に乗らなくても良くて、身を委ねるだけでも許されるような、深く柔らかく包容力のあるグルーヴ。自分が普段ソウルに求めているものとアンビエントに求めているものが同居しているような不思議で心地良い音楽だった。


関口シンゴ『tender tour』(2024/3/1 CONPASS)

 ソロ名義での大阪公演はご自身初とのこと。お馴染みナッツさんに、ミッチーさん&今村さんのリズム隊(この組み合わせが初というのも意外)を迎えたバンド編成で、『tender』の楽曲は、その場にいる全員を巻き込み、揺らす、厚みのあるサウンドへと変化。
 アルバム『tender』は自分の生活の中だけのものだったが、ライブで聴く『tender』は自分一人だけで聴くものではなくなっていた。この感覚はもっと多くの人と共有した方が良い。フェス出演、叶いますように。


『TTTB』 (2024/3/1 METRO)

 テイさんのDJを中心に毎回楽しみにしてるイベント、今回は以前から機会があれば観たいと細々と思っていたイルリメさんのライブを観れたのが本当に良かった。1つ1つ丁寧に並べられた言葉と音に惹きつけられてあっという間の1時間弱だった。


『The Last Day Of Winter 2024』 (2024/3/20 神保町試聴室)

 上野さんのアコーディオンと歌声にゴンドウさんの金管というシンプルだけど一音一音しっかり聴ける組み合わせと、音の余白からグッと世界を広げてくれる阿佐美さんのVJで、1ステあたり1時間弱、束の間の逃避行のような音楽体験。
 かと思えば、ギター、ベース、ドラム、の3ピースバンド編成も。後半は観られなかったけど、先月のバリサクフェスでは井出崎さんを迎えた繊細なアンサンブルが印象的だったので、今回も観たかった。来年は、その日のうちに帰阪するなどという無謀な事はせず、終演まで見届けたい。
 あと、セトリにゴンドウさんソロの「河童の堵列」が入っていて、初めてゴンドウさんのトロンボーンを生で拝聴。ここ最近、自分でもたまにボーンを吹くようになったのもあり、いつか生で聴きたいと思っていたので、念願が叶って嬉しかった。

※この時の感想はこちらにも記載。


『CHOICE 49』(2024/3/30 味園ユニバース)

 今年初のcero。CHOICEは何度も行ってるけど、整番4桁、スマホ電波入らず、という混雑回に遭遇するのは初。前回CHOICEでceroを観たのは服部緑地だったので、ネオン管に照らされるceroを観るのは久々。新譜とPLMS収録曲が中心ながら、「マイロストシティー」の進化には毎回驚く。
 ダンサブルな曲が続いたけど、ラストの「Angelus Novus」でしんとした空気になったのが、ユニバースのステージと、あの人の多さも相まって、かえって非現実的だった。 8ヶ月ぶりのcero、楽しかった。詳細は明かされなかったけど今年は来阪機会が多いようで楽しみ。
 今回のceroで一番気になったのは、いつもはトランペットの古川麦さんが、ペットに加えてポケットホルンを吹いていらっしゃったこと。ポケットホルンを入手された旨はSNS投稿で見て気になっており、いつか聴きたいと思っていたけど、此処で聴けるとは。トランペットより柔らかい音色とフリューゲルホルンより高い音域で、他では出せない音を鳴らせる良い楽器だなと思った。さらに、その隣で角銅真実さんがフルートを。ブラスよりも木管の柔らかい響きの方が合う『e o』の楽曲群に寄り添う良いセクションでした。


『坂ノ上音楽祭 2024』 (2024/4/6-7 大阪天王寺公園エントランスエリア「てんしば」)

 初日。1月の磔磔以来に観るキセルは新曲沢山。「たまたま」「草葉の陰から」「春隣」「演歌」(それぞれ曲名合ってるか自信ないけど…)は音源化してほしいな。「春隣」はツアーで聴いて好きだったからまた聴けて嬉しかった。桜もそろそろ終わりだけど、春っぽいセトリで良かった。

 引き続き、初日。スカート、新曲の「君はきっとずっと知らない」、良い曲だった。リリースも近いらしい。サウンドチェックも本編もMCも全部楽しくて、もっとライブ行こうと思いました、本当に…。
 MCで「アルバムにひっそり入れてるのにSpotifyでだけ再生回数が妙に多い曲があって…」というお話があり、何の曲だろう?と思っていたら、「オータムリーブス」とのこと。元々とても好きな曲なのだけど、季節外れなのに不意打ちで聴けて嬉しかった。サブスクって不思議というか、面白い。
 物販でサイン会まであるとは思わず…。スカート、持ってないCDあっただろうか、と考えてたら『アナザー・ストーリー』が。コロナ禍でリリースされたアルバムなのでサイン入りはレア、と澤部さん。何処にサイン入れてもらうかも迷うぐらい凝ったパッケージで可愛い。

 2日目。楽しみにしていたOvall。3年半ぶりに観たというのもあるけれど、あまりのグルーヴ感に圧倒される。あまり意識せずに体を揺らせるけど、度々、物凄く緻密なリズムの構築を4人でやっているんだろうなと、分からないなりに気付かされる瞬間もあり。新曲「Cubism」は音源以上)の勢いがあってライブ映えする曲。本編セトリだけでもじゅうぶん満足だけど、アンコールの「La Flamme」が本当に良かった。後半からラストにかけての展開は、ステージ後方から差す西陽と重なって眩しく聴こえた。


吉澤嘉代子『Hall Tour "六花"』大阪公演(2024/4/19 NHK大阪ホール)

 初めて観たワンマンライブが六花ツアーで良かったと心から思う。楽しい嬉しい悲しい苦しい、に収まらない些細な事まで言葉にして歌に乗せて、くるくると表情を変えながら歌う嘉代子ちゃんを観ながら、一曲毎、いや、一音、一言一句、その度に涙を堪えるのに必死。
 そんな嘉代子ちゃんの歌に寄り添うアコースティックなバンドサウンドは、穏やかな春の日差しのようだった。サウンドの中心にあるのは管楽器。ゴンドウさんと武嶋さん、お二人合わせて5,6本の管楽器を操るのだけど、特にユーフォとクラリネットがホール全体に暖かく響くのが印象的だった。
 終盤、アンコールとラストの嘉代子ちゃんの一言で本当に泣けた。私にもそんな時期があったから。NHKは谷四の駅からすぐなのに、そのまま地下鉄に乗ったら、30代の労働者としての自分の生活と対峙せざるを得なくなる気がして、少しだけ余韻を抱えておきたくて、二駅ほど歩いた。良い夜だった。

 ゴンドウさんの事が気になる人向け(?)の追記。穏やかな春の日差し、というのは私がゴンドウさんの音楽の中の幾つかに抱く印象でもあるのだけど、それが嘉代子ちゃんの音楽と出会ったような、そんなイメージなのかな。ここに関しては上手く言えないのだけど。
 先日、嘉代子ちゃんの公式アカウントにアップされた写真でゴンドウさんがaFrameを持っていたけど、何曲か使われてる場面あり。私の位置からはホーン以外はあまり見えなかったのだけど、見えない位置に移動された時にパーカッションの音が聴こえてきたので、少し想像しながら観る形でした。
 ゴンドウさんと武嶋さんのセクションのアレンジ、フレーズなども、ゴンドウさんっぽいなあと思う所があった(というか多かった)。弦じゃなくて管、それも木管やサクソルン属が前面にある。今更言うまでも無いかもしれないけど、こういうサウンドを大きなホールで聴けるのは良かったです。

※この時の感想はこちらにも記載。


蓮沼執太『“unpeople + 1 people #10”』(2024/4/20 listude)

 冒頭、「今日は僕の部屋に来たようなつもりで聴いてほしい」といった旨のお話があったのだが、蓮沼さんの部屋で音の実験を覗き見するような2時間だった。また「先ずは1分間、目を瞑って聴いてみて」とも仰っていて、音に意識を傾ける事が出来たのも良かった。
 桶に張った水の音から始まり、レコードで音源を流しつつ、鍵盤や金属音、画材(?)の音まで重ねていって、『unpeople』の曲の印象が次々と変わっていく。自分の中で、音源では少し冷たく鋭利に感じていた曲が、重ねたピアノの音で感情の揺らぎが見え隠れするような印象に変わったのが面白かった。


『音泉魂』(2024/5/5 泉大津フェニックス)

 こちらはXに投稿していなかったので追って記載予定。


『鈴木魂』 (2024/5/6 心斎橋 Pangea)

 こちらも音泉魂と同様。


黒田卓也 NY Band (2024/5/25 神戸 100Ban Hall)

 大阪では観ていたが神戸は初とのこと。去年のツアー以来に聴いた新曲「Car16 15A」は、テーマの疾走感(16号車15番A席までホームをダッシュ)を忘れるほどの幻想感のある、Lawrence Fieldsのピアノソロが印象的だった。また、今回Corey Kingが不在だったけど、ボーカル曲のインスト版は、Craig Hillの(テナーでの)歌いっぷりに聴き惚れる。黒田さんのオリジナルは、メロディや構成は作り込まれつつも、各プレイヤーのソロや見せ場も存分に味わえるので、ライブが本当に楽しい。


FKJ『FKJ IN JAPAN 2024』(2024/6/4 なんばハッチ)

 映像や照明とも相まって、コンパクトな空間とたった1人の手による音楽だけど、こんなに雄大な景色が広がるのか、とも思いつつ、しかし目の前には、所狭しと並べられた楽器を衣装の早替の如く次々と手に取る様子。なんて忙しい人なんだ!
 直前までギターを弾いてたかと思えば、慌ててスタンドに戻して直ぐにサックスを構える。吹き終わったら首からサックス下げたままシンセを弾く。ループさせてる音やバックで流してる音もあるけど、極力しっかりその場で自分で弾いたり吹いたり。それを近くで観れたのはとても面白かった。
 あれだけ沢山の楽器を操り、そのどれもが魅力的でありながらも、シンプルにピアノだけでしっかり聴かせる場面こそ、一番良かったかもしれない。


『Ear's Day -耳の日-』(2024/6/8 亀岡 神蔵寺)

 フェスやライブというより、サウンドスケープをテーマにした野外リスニング体験といった趣の本イベント。昼過ぎから夜にかけて行われたイベントで、諸用で夜までは居られなかったのだが、昼の時間帯の Masatomo Yoshizawa, XTAL のお二人のライブが観たくて亀岡へと向かう。
 少し前まではお二人名義でのライブを自分の行動範囲で観る機会など無いだろうと思い込んでいたが、気付けばこの1年間でもう3回目。最初は真夏の夕方に中津のお店『TEMPO』で(註1)、次は秋雨の降る名古屋城(註2)、そして今回はキャンプ場を兼ね備えたお寺の敷地内。普段は生活の中で聴いているのに、ライブを観るとなるといつも変わり種のようなロケーションばかりだ。

 演奏スペースはキャンプが出来る芝生から少し奥まった林の中。鳥の声や足元の落ち葉が重なる音、時折飛んでくる虫の気配なども感じながら、それらに溶け込むようなアンビエントサウンドから演奏はスタートした。以前のライブでもアンビエントのようなイントロから曲に入っていくという流れだったと記憶しているが、今回のように喧噪から離れた静かな空間で聴くと、一音一音、深呼吸をするようにすっと身体に染み渡る。5分ほどかけてそれらの音は次第にゆるやかな流れになり、昨年末リリースの新譜『Tangle』収録の「Pages」へと繋がっていく。アルバムは12月のリリースだったが、この曲自体は上述のTEMPOのライブで初めて聴いたからか夏の午後から夕方に微睡むようなイメージがあり、丁度良い季節になってきた。
 続いて、こちらも『Tangle』より、アルバム冒頭を飾る「Sur」。アルバムが出てから初めて観るライブだったので、この曲を生で聴くのも初めてだ。それまではぼんやりと、目を瞑ったりステージ奥の木々を眺めたり空を仰いだりしながら聴いていたが、初めてライブで聴く曲だし、と少しの間お二人の演奏の様子も観察してみる。機材の事もギターの事も何も分からないので、忙しそう、という野暮な感想が先行してしまうが、『Tangle』リリース時のXTALさんのインスタの投稿に、演奏中は双方が自分のやる事に集中しているのに決めてあったかのように音が絡まる瞬間がある、といった旨を書かれていたのを思い出す。「Sur」の場合、メロディアスなテーマのフレーズはループでは無いのでモーリスさんはギターを弾き続けているし、XTALさんはXTALさんで手元のシンセなどを操作しつつ何かメモのようなものを捲ることもある。言われてみれば、演奏中にアイコンタクトを取ったり何か示し合わせているような様子もあまり無く、所謂セッションのような色は無い筈なのに…というのは、お二人のライブの特徴なのかもしれない。

 中盤以降は1つ前のアルバム『Playing Nowhere』より、「Version Blue」、「Happy In The Rain」、「Ringchord」とアップテンポな曲が続く。持参した椅子に座ったまま聴くのは少し勿体無いような曲ばかりだったが、TEMPOや名古屋でも演奏されていた(註3)ので、定番なのだろう。
 「Version Blue」は音源に比べると長めに演奏されるので、曲中のピークが来るまで焦らされるような感覚が楽しい。何となく、この曲の構成はXTALさんがリードしているように見えたのだが、実際はどうなんだろうか。一方、「Happy In The Rain」はギター曲だ。前回名古屋で観た際に撮ったこの曲の動画をインスタにアップしたら、ギターを弾く友人からリアクションが来ていた。弾きたくなる曲なのだろうな、と思いながら眺めるモーリスさんのプレイは、音もフレーズも涼し気で軽やかだ。
 そして「Ringchord」は、シンプルなモチーフの中で見える景色が変わっていくような展開が好きなのだが、特に後半に進むにつれてそれぞれの音数が多くなっていき、元居た場所から遠く離れた所まで連れて来られるような感覚はライブ版特有のものだと思う。忙しそう、という感想はこの曲でも顕著で、モーリスさんはごく短いフレーズを弾いては次に移り、を繰り返し(弾きながらペグでサンプラーをタップしている様子もたまに見かける)、XTALさんも次から次へと展開を仕掛けていくように見える。過去に観たライブでは、こうやって時間をかけて盛り上げてライブは終了、というパターンだったのだが、今回はまだ続きがあった。

 「Ringchord」の原型を少しずつ解すような形でクールダウンしていき、次第に再び周りの環境音と一体化するようなアンビエントへと戻っていく。10分ほどだろうか、先ほどまでの余韻に浸りつつ、スピーカーから出ている音と周囲の音が静かに混ざっていく過程を森林浴のように感じられるのはこの場所ならでは、だった。

 お二人名義での一連の作品の中で一番好きなのは、野尻湖湖畔で録音されたという2022年作『LIVE ESQUISSE at Lake Nojiri』なのだが、この、初夏の緑と共に静かに揺れる音にいつか触れてみたいと思っていた。今回のライブは同作収録曲こそ演奏されていないものの、同作が持つイメージをそのまま体感できるようなライブだったと思う。

註1… 2023年8月5日 大阪、中津のTEMPOの4周年イベントとして開催された『TEMPOSIUM TEMPO 4th ANNIV. PARTY』。 ライブ録音が『LIVE ESQUISSE at TEMPO』としてカセットとbandcampにてリリースされている。因みに自分が観た2nd setでは、収録された5曲の他、アンコールで未発表新曲(こちらは2024年6月現在でもリリースされていない)も演奏されていた。

註2… 2023年10月8日 名古屋城で開催された『SOCIAL CASTLE MARKET』。同日夜に今池のNORMALで行われた『SOCIAL CASTLE MARKET 2023 -LIVERARYxYANGGAO AREA -AFTER NIGHT』にも出演されていた。

註3… 8月の大阪、10月の名古屋とセットリストは共通しており、『LIVE ESQUISSE at TEMPO』収録の5曲。のちにリリースされた『Tangle』収録の「Pages」は、当時は未発表新曲という扱い。