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裏切り者と言われても、

「オススメのドラマがあるよ」
同居人のKが言った。
「ママもパパも私のオススメはいつもイマイチと言うけど、これだけは面白いって褒めてくれたし、寮に住んでいた時の友達もみんな好きだった」
とりあえず、Netflixのマイリストに入れる。他にもいくつか候補があって、どうするか迷っているとシャワーを済ませたBが洗面所から出てきた。
「ヘイ、何観るか決まった?」
この3つかな〜とマイリストを見せる。BもKのオススメが好きだと言うので最初のソレに決めた。

とりあえずシーズン1のエピソード1を観てみようという話だったのに、思いがけず私がハマってしまい、みんなに「まだ観るの?」と言われながら強引に5エピソード観た(本当はまだ観たかったけど、なだめられて諦めた)。
すごく人気のドラマだということをこの時の私は知らなかったので、大きな期待をしていなかっただけに、衝撃がすごかった。傑作。

次の日も、続きが気になって気になって仕方がない。でも、一緒に観ようね、と約束したしな。我慢、我慢。昨夜観たエピソードを今度は英語字幕で観てみる。これは英語の勉強にもすごくいい。あぁ、続きが観たい。

「Catan tonight?」
シンガポール人のTからグループLINEにメッセージが届いた。
CatanとはBが持ち込んだボードゲームであり、今夜Catanする?という誘いの連絡である。

私「ドラマを観るから時間による」
B「What? ひとりで観るの?僕ら無しで?」
私「もちろんみんなで観るよ、昨日言ったじゃん」
B「でも今日Kが夜バイトだ」
私「We need K! じゃあ、明日の夜にする…?」
B「Maybe?」

多分、か。Kからは返事がないので、分からない。明日、観れるかどうかも分からない。無理、待てない、少しだけ、観ちゃおうかな、つい魔が差してエピソード6のプレイボタンを押してしまった。そして、そのままシーズン2に突入してしまった。興奮が止まらないけど、少しだけ罪悪感もある。

「実は、続きを、ひとりで観てしまいました」
グループLINEで正直に告白した。

「BETRAYED」と、一言。

これは、つい最近私がBに教えてもらって覚えた単語である。
「裏切り者」という意味。あぁ、その通り、分かってる、ごめん。でも、
待てなかった。

全シーズンを観ている彼らは、でもその気持ちが分かるからいいよ、気に入ってくれてよかった、と言ってくれた(ホッ)

そして許し(?)を得た私は、止めるタイミングを失いドラマを観続けた。
残り物でササッと作ったパスタ、冷凍しておいたカレー、卵かけ納豆ご飯。片手間で食事をするのが好きではないけど、今はどうでもいい。ただ、この世界に没頭したい。私は、今、これを観るためだけに生きている。

ただただ、すごい。
脚本も演出も演技も音楽やサウンドエフェクトもデザインも、全てがすごかった。素晴らしかった。どうやって撮っているのかも気になるし、なんで撮れたのかも分からない。たった一瞬の1カットに一体、どのくらいの時間と予算と労力をかけているんだ、という映像屋としての興味も永遠に尽きない。エピソードの終わり方も毎回、OH MY GOD. という感じ(褒めてる)で、次を観ない選択肢などない。全キャストの演技が素晴らしく、それぞれのキャラクターに感情移入してしまうし、シーズンごとに子役たちが成長していくのも面白い。私の持っている言葉だけでは到底伝えられない、歯がゆい、

シーズン3までしか公開されていないので、途中からは「観終わりたくない」と「続きが気になる、観るしかない」が交錯していた。
ようやく観終わった時には、ボロボロと泣いた。ネタバレするので言えないけど、いろんな気持ちが混ざっていた。多分観終わって悲しい気持ちも少しあった気がする。

階段を降りるとBがこちらを見て聞いた。
「なんか、元気ない?大丈夫?」
さすが、B、すぐに気づく。でも言いづらい。ドラマを見て泣いたなんて。でも言わないと無駄に心配かけてしまう。でも、でもでもでも。
結局、正直に伝えた。
「Ohhh, you need hug?」
ばかにするでも、笑うでもなく、普通に聞いてくるから、思わずイエス、と答えてハグしてもらった。うう、悲しかったことを思い出してまたウルっとしてしまった。

そんなこんなで、とにかく、とにかく、ここに記しておきたい。
この素晴らしいドラマの存在を。これだけのために、Netflixに加入しても損しないから。ブームに乗り遅れていること、つい数日前にその存在を知ったばかりの新入りであることを承知の上で、愛を叫びたい。

「STRANGER THINGS」

たとえ、裏切り者と言われても、私は観るのをやめなかった。

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