漢詩もどき(漢柳)を為す6

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引き続き「桃花詩記」に登場した漢柳のご紹介。今回は5話と6話からです。あらすじは以下の通り。

5話あらすじ
詩会を終えて騒動もひと段落ついた律に危機が迫っており、その対処の為に街の過去を紐解いていく。
6話あらすじ
明らかになった律の秘密と罪。都の官僚は政争の材料に律を取り上げ、かの地を完全な管理下に置こうと企んでいた。それに対し、本陶らも策略を以て立ち向かおうとする。

まずは5話に登場した漢柳から。

詠み人知らず 「柳を為す」

悠久風来迎虚室  悠久 風来たりて虚室に迎う
一篇子戯破韻律  一篇 子戯れて韻律を破る
流伝野鶴是作家  流伝して野鶴 是に家を作す
間座親朋此対膝  間座して親朋 此に膝を対す

押韻 入声四質(室、律、膝)

語釈
・風来…風来人を指す。
・虚室…がらんとした部屋。
・野鶴…俗世間から離れている人のこと。
・間座…しずかに座る。座ってくつろぐ。

解釈
はるか昔、風来人ががらんとした部屋に入ってきた。
その人は戯れに一篇の詩をあえて韻律を無視して為した。
それが広まり、俗世間から離れた人々が集まり出し、その土地に住み始めた。
そうして人々がくつろいで親族や友人と膝をつき合わせて団欒するようになった。

一言
作中に登場した詩集『漢柳集』に収録されていた詩。柳蒼言と漢柳の成り立ちに関わる内容となっています。この詩を入れたのは後々明らかになる秘密を示唆する為なのもありますが、詩の物語だから各話一篇は詩を入れようと決めていたのが大きな理由です。無理やり気味に入れたが故に前後の文章が少し浮いています。

続いて6話に登場した漢柳です。

鈍灰・顔路合作 「何時送春信乎」

秋気風与発  秋気 風と与に発し、
客鳥嘴終回  客鳥 嘴終に回す。
淹久綴離歌  淹久して離歌を綴り、
手指拭塵埃  手指は塵埃を拭う。
筆鋒霑酔惑  筆鋒は霑酔して惑い、
別酒盃重堆  別酒にて盃重なりて堆し。
一心思之已  一心に之を思うのみ、
春信帰去来  春信に帰りなんいざとせんと。

押韻 上平十灰(回、埃、堆、来)

語釈
・客鳥…渡り鳥。
・淹久…長く留まること。
・筆鋒…筆先。筆の勢い。
・霑酔…襟首などがじっとりするほどひどく酔うこと。
・春信…春の便り。
・帰去来…「帰りましょう」の意。「去来」は語調を整える助辞で「いざ」と訓じられる。

解釈
秋の空気は風と共に立ち去っていき、
渡り鳥もそのくちばしを故郷の方へと向け始めた。
長く留まる中で(別れの時の為に)送別の詩を考えているものの、
(作るのが億劫で)指で溜まったほこりを拭ってばかりだ。
筆つきはもうひどく酒に酔っていてぐだぐだだし、
別れの酒により重ねられた杯がうず高く積み上がっている。
(良い詩句が浮かばないし)今は一心にこれを思うだけだ。
春の便りに「また帰りましょう」の一言を添えることだけを。

一言
官僚なのに詩作が大の苦手な顔路が鈍灰の助けを借りつつ為した詩。さわやかに別れたいけれども惜しむ気持ちが拭いきれない彼の心情を描いています。詩が苦手な時点で官僚になるのは不可能なのですが、これは中国ではなく華国の物語です。作中でも語られた通り、実務面にも評価基準が設けられており、彼はそこで高い評価を得て官僚になっています。
元々この小説を書くに当たって、恋愛と送別のテーマは絶対取り上げたいと思っていたので少し気合を入れて作りました。

次で「桃花詩記」の漢柳紹介は最後となります。
作品本編と合わせて目を通して頂けますと私が幸せになります。ぜひ!

「桃花詩記」本編→こちら
他の作品→こっち


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