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一緒に歩こう

人によって歩く速度は違い、
ひとりで歩く時のもっとも心地よい速度は、
人それぞれの体に染み付いている。

その速度よりも速く、あるいは遅く歩く場合は、
善し悪しは別として、体のどこかに無理があり、
それが心にもなんらかの影響があるに違いない。

気持ちがいいから速く歩いてみたい、
気持ちが焦っているから速く歩いてしまう。

気持ちがいい天気だから少しゆっくり歩いてみよう、
気持ちが落ちこんでいるから脚が重くなる。

そんな気持ちの変化で、足取りも変わってしまう。

しかし気持ちが通じ合っている男と女が、
肩を並べて歩く時は、
どちからがいつも歩く速度よりも、
速くするなり、遅くするなりして、
相手に合わせるのに、
自分ひとりで歩くときよりも、
ずっと心地よい。

早く歩く男の後ろを、
小走りに追いかける女も、
女の静かな歩みに、
歩幅をいつもよりも狭くして歩く男も、
その表情はひとりの時よりもずっと穏やかで、
一緒に歩く楽しみさをその顔から隠さない。

ふたりなら、
ひとりなら長く感じる駅から家までの距離が、
不思議なほどに短く感じ、
目に入る町並みも違って見えるから、
ふたりで歩く方がずっと楽しい。

だから、一緒に歩こう。
青空の下で。

そして、
男と女が交わるときも、
どちらかが激しくなり、せわしくなり、
どちらかがそれに合わせて行くところから始まるのに、
いつしか肩を並べて歩くように、
同じように体を重ね、汗をかいて、
同じように力つきて、
同じように心地よい疲労感を共有する悦び。

だから、一緒に交わろう。
月夜の下で。

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