見出し画像

嵐のように抱きしめて

嵐の夜に一人静かに目を閉じて耳をすませていると、
いろんな音が聴こえてくるようだ。

激しい雨が地面に当たる音、
吹きすさぶ風が建物を通り過ぎる音に混じって、
魔物が騒ぐ音、妖怪が戯れる音、あるいは、
女がすすり泣く音まで聴こえてきそう。

そんな嵐の夜には、
どこにも行くことができず、
誰も訪れることもないから、
もしあなたと二人で一緒に過ごせるなら、
テレビも消して、電気も暗くして、
浮世から断絶したような気分に浸りたい。

あなたがどんなに大きな声を出そうとも、
激しい雨の音、吹きすさぶ風の音にかき消され、
自然に翻弄されるように抱き合えるだろう。

そんなあなたの声に、魔物も、妖怪までもひるむだろう。
先ほど聴こえた女のすすり泣きは、
あなたの声が私の脳裏で再生されたのかもしれない。

あなたと一緒にいられなくとも、
どこにも行くことができず、
誰も訪れることもないから、
そしてあなたの居る場所も同じように嵐の中にあるなら、
その雨と風のおかげで、
どこかで繋がっているような気持ちにもなれる。

そうすればあなたにもその気持ちが伝わって、
あなたの体も濡らすだろう。

あなたのあの時の声が聞こえてくるようで、
一人部屋にこもりながら目を閉じて、
二人で交わした嵐のような情事を呼び起こす。

一緒にいないのに、
一緒にいるような気持ちになれる嵐の夜。

吹きすさぶ風の音はあなたの叫び声、
土砂降りの雨はあなたの濡れた裸体。

目をつぶれば、それがつぶさに見えてくる。

そして、
今度逢ったら、
嵐のように、抱いてやる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?