見出し画像

【ADORA】The Little Name 歌詞の和訳と詩の解釈

BTSの『Spring Day』や『Euphoria』、TOMORROW X TOGETHERの『Our Summer』等々、数多くの名曲を手掛けてきた、元Big Hit Entertainment(現BIGHIT MUSIC)の女性プロデューサー、ADORAアドラ さん。

以前にスビンとテヒョンが、ADORAさんの『Trouble? TRAVEL!』を嬉しそうにリアクションしながら、「僕たち、デビューから”553(Blue Hour 20.10月)” の前まで一緒でした」と話していたので、その頃に退社されたのでしょうか。
その後、長年の夢を叶えて、21年秋からは念願のソロ歌手として活動をスタート。先月には、ファーストアルバム『Adorable REbirth』もリリースされました。

ボムギュも以前にスビンと、「たくさんの方に知って欲しい、天国のような歌声」と話していたように、歌声が本当に素敵なんです。
『The Little Name』は、今年の3月にデジタルシングルとしてリリースされたのですが、宝石箱のような愛らしさがぎゅっと詰まっていて大好きな曲。けれど、歌詞の世界を見つめてみれば、そこには思いがけないメッセージがこめられていました。

※意訳を含みますので、ご了承ください。


The Little Name 어린이름

Songwriting:ADORA, Strawberrybananaclub

どうしてこんなにむな しいんだろう
無意味な欠片かけら のように
バラバラの破片はへん になった記憶
どれほど呼んでも こだまだけがずっと響いて
ただひたすら 手を伸ばすだけ

あぁ、降りそそぐ星屑ほしくずのように
押し寄せて、こぼれそうな想い
君の名前を教えて

私たちは、星や光で
満天の星のように輝いていたね
綺羅星きらぼしのようにまたたいて、離れ離れになったの
見上げてごらん、頭上の空や星たちを
雲の上に広がる大空を
空を彩る、幾千もの星のひとつが私たち

孤独な漂流で迷子になった小舟
あっという間に眠りこんだ灯台に
忘れかけてた思い出ひとつ
もしも朝なら 見過ごしていたかもね
見慣れた風景だけど
ホコリをかぶった隙間すきまから、声をかければ
再び息を吹き返して、見つめ合うの

荒波のように渦巻うずま
開いた日記には、あの日の想い
君の名前を教えて

私たちは、星や光で
満天の星のように輝いていたね
綺羅星のように瞬いて、離ればなれになったの
見上げてごらん、頭上の空や星たちを
雲の上に広がる大空を
空を彩る、幾千もの星のひとつが私たち

Whoa-oh, oh-oh-oh
Whoa-oh, oh-oh-oh…

空を彩る、幾千もの星のひとつなの


遠くに離れてしまったものヘの憧憬

「星」や「思い出」をモチーフに紡ぐ世界がとても叙情的です。どんなきっかけでこの曲が生まれたのでしょうか。リリース時のインタビューからご紹介します。

「深夜に都会を走っていると、ビルの明かりが星のように見えて。そんな風景を見ていると、星や光のひとつひとつに、小さな思い出が詰まっているイメージが湧いてきました。そのインスピレーションから、離れてしまった友達への想いを星に重ねて、この曲を書きました」。

どこか、大好きなTOMORROW X TOGETHERの『Nap of a Star』の世界にも連なるように感じます。ADORAさんの名はクレジットされていませんが、ひょっとしたら、Nap of a Star のために準備したけど埋もれてしまった歌詞をリメイクして命を吹き込んだのでしょうか。あるいは、アンサーソングのような感じで作ったのかも、なんて想像してしまいます。

プラスチックのかけら

Thousands bits of plastic 파편이 된 기억들
幾千ものプラスチックの欠片 破片になった記憶たち

ここで添えているのは直訳です

このフレーズでは、自分にとって大切だったはずの記憶が、パズルのピースのようにバラバラになってしまったことを嘆いています。
そこから、plastic はフェイクの意味で用いることもあるので、プラスチックの欠片を「無意味な欠片」と訳しました。

名前を問いかける理由

さて、歌詞の中では、抑え切れないほどこみ上げてくる想いに、”Can I have your name?(君の名前を教えて)"と、問いかけていて、どういうことなんだろうと思いました。インタビューの続きで、その意図についてもお話しされています。

「自分では気づかないうちに見過ごしている、大切なものに気づくこと、その ”名前” を思い出し、本当の意味を見抜くというメッセージを伝えたいと思いました。"The Little Name "には、名前を呼ぶことができないために眠っている、活動していない小さな記憶に触れるという意味が込められています」。

掲載元を失念してしまった為、出典は不明です

確かに、目の前にある大切なことを、ふっと通り過ぎてしまうような経験は、誰にでもよくあることだと思います。ただ、この内容だけでは、その真意がしっくり腑に落ちないところがありました。というのも、歌詞の全体像が、まだぼんやりとしか見えていなかったから。

眠ってしまった灯台とは

길을 잃은 조각배 외로운 표류 속 까무룩 잠이 든 등대
道を失っていた小舟 寂しい漂流の中 パタリと眠りに落ちた灯台

잊고 지내던 추억 하나
忘れかけていた追憶ひとつ

아침이었다면 그냥 널 지나쳤겠지 나
朝だったなら そのまま君を 通り過ぎただろうね、私

익숙한 풍경이라며 덮어진 먼지 사이 안녕 인사하면
見慣れた風景と言いながら   覆われたほこりの間に こんにちはと挨拶すれば

다시 살아나 눈을 맞춰
ふたたび生き返って 目を合わせるよ

ここで添えているのは直訳です

特に中盤での場面転換。韓国語の文ということもあり、和訳をしながら最初のうちは、何を言おうとしているのかが頭に入ってきませんでした。
でも Lylic Video に添えられた英文歌詞とともに何度も読み返すうち、ふと思ったのです。

もしかしたらこの曲には、友達への想いだけでなく、離れてしまった自分の夢にもう一度向き合い、歌手になろうとするまでの心の揺れも重ねて、描いているのかなと。

だとしたら「灯台」は、自分のことを照らして輝かせてくれる夢や目標のことではないかと。

それをもとに、メタファーとして描かれているのは、こういうことなのではないかなと、私なりに解釈をしてみました。

友達とも離れて、仕事に没頭する孤独な毎日、このままでいいのだろうか。
自分を照らしてくれる夢や目標もすっかり忘れてしまっていたけど、
ふたたび心に湧き上がってる。
喧騒けんそうの日々の中では、こんな気持もやり過ごしていたかもしれない。
でも日常に埋もれてホコリをかぶっていた夢に、挑戦すると宣言して、
もう一度自分を輝かせ、夢に向き合うよ。

そう考えると、インタビューでの真意も、すっと腑に落ちるのです。
実はADORAさん、知っている方はすでにご存知だと思いますが、2019年に甲状腺がんの除去手術を経験しています。闘病を機に、病院のベッドのなかで自分自身を見つめながら、人生は一度しかない、だから叶えられずにいた夢にもう一度向き合おう、と決意したのだそうです。

心の奥にしまいこんで、忘れたふりをしていた夢。でもそれこそが自分を輝かせてくれるものだと気づき、思い切ってその道を選んだ彼女だからこそ、”大切なものに気づいて、その意味を見つけて”というメッセージが、深く心に響きます。

*****☆**

最後に、Music Videoのストーリーをご紹介して、終わりにしたいと思います。

星の王子さま(”大切なものは、目に見えない”のメッセージが有名ですね)を彷彿とさせる可愛らしいアニメーションは、自身も完成を心待ちにしていたそう。

曲のメッセージにリンクしているのはもちろんですが、BIGHIT のPD陣を始めトゥバのメンバーたちからも心から応援されているADORAさんの、やさしい人柄が伝わってくるようなストーリーが印象的です。

イラストレーターの보은ボウンさんととともに、お二人がYou Tubeでお話していた内容(英語字幕)からまとめています。※ネタバレになりますので苦手な方はスルーしてください。

1. 平和で静かだけど、ちょっと退屈な惑星に住む女の子(ADORA)が、宇宙船で旅に出ます。けれど、不時着して宇宙船が動かなくなってしまい、四苦八苦。そのうち、白旗を立てて助けを求めるも、見渡す限り、広い宇宙に助けてくれる人は誰もいません。

2. いつの間にか手の内にあった、捨てられていた小さなユニコーンの人形。名前をたずねると、人形は意味を与えられた存在になって、翼を広げ、女の子と一緒に大空の旅へと駆けてゆきます。旅の途中、しおれかけた薔薇ばらを見つけて、女の子が水筒に残った最後の一滴の水を差し出すと、薔薇は命を吹き返して、旅の仲間に。

3. 雲の上を旅しながら、薔薇やユニコーンといっしょに、カンガンスルレ(満月の下で輪になって回る韓国の遊び)も踊ります。すると、流れ星が当たって、ピンク色だった女の子の髪は黄金色に。
ユニコーンや薔薇とともに、遠くに輝く満月を見つめて、終わります。

※流れ星に当たって女の子の髪の色が変わるシーンは、ボウンさんが最初に曲を聴いた時にぜひ入れたいと思い、『ハウルの動く城』へのオマージュとして描いたそうです。

なお、歌詞の原文は、韓国語・英語併記の公式 Lyric Video を参照しました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?