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【TXT】Can't We Just Leave The Monster Alive? 歌詞の和訳と詩の解釈

トゥバたちが괴물ケムルと呼ぶ、通称「モンスター」。少年のままでいたい気持ちをゲームの世界になぞらえて表現した曲がなんともユニークとで、彼らにしか表現できない曲の世界観じゃないでしょうか。

公式YouTube ではダンスプラクティスが公開されていますが、かわいらしい歌詞や曲とは裏腹に、マンネのふたり(テヒョンとヒュニンカイ)が「全身の筋肉が拒否するレベル」と嘆いていたハードな振り付けも印象的です。

歌詞をひもといてみると予想外の発見もあり、なかなかに奥深い曲でした。いま書きかけの記事の考察のヒントにもなった曲『Can't We Just Leave The Monster Alive?』を、今回は掘り下げてみたいと思います。

※ちょっぴりですが、「ACT: SWEET MIRAGE」のサプライズソングについて触れています。それはイヤ、イルコンまでは見たくない!という方は、そっと画面を閉じましょう(記事の無断引用・無断転載はご遠慮ください)。


Can't We Just Leave The Monster Alive?
그냥 괴물을 살려 두면 안 되는 걸까?
モンスターをそのまま生かしておいたらいけないの?

Produce:Wonderkid, SHINKUNG
Songwriting:Melanie Joy Fontana, "Hitman" Bang, Adora, Joni,
Michel "Lindgren" Schulz, SHINKUNG, Soo Kyung
Jeong, Wonderkid
Dream Chapter:MAGIC 収録(2019.10)

からまる茂みと暗闇だけの迷路を
くぐり抜けて出会った森
何度も繰り返したいま
目の前に近づく最終ステージ
わかりきってる結末は見送って
しばらく後回しに、また戻ってくるから

さぁ、ラスボスへの恐怖は後にして
この世界をもっと楽しみたいんだ、今だけは
ほら、ドラゴンに乗って飛んでみよう
隠れたイースターエッグは、よし、僕が見つけるよ

そうさ、この世界にずっといられるなら
このダンジョンの旅から離れよう
武器はもうぜんぶ捨てて お祭りへと ひとっ飛び
大丈夫、うまくいくさ

平気さ、心配ないよ
大丈夫、なんとかなるさ

武器ぜんぶと ステータスを諦めても
モンスターを生かしておいたらダメかな?
勇者には君がなってよ、僕はモンスターになる
退屈なジョブから お互い抜け出そう

僕は剣で切られたってへっちゃらさ
ここではちょっと刺激があるだけ、君を傷つけたくないんだ
ほら、気に入らなければ またリセットすればいい
僕たちゲームの世界に隠れちゃおう

そうさ、この世界にずっといられるなら
このダンジョンの旅から離れよう
一緒に逃げてきたこの場所でずっと、のんびりしてよう
大丈夫、うまくいくさ

平気さ、なんとかなるよ
大丈夫、きっとうまくいくさ

ステージをクリアしなきゃ、ちゃんと大人にならなきゃ
上手くいってるとは言えないの? 僕は永遠に今のままでいたいのに
暗闇の迷路も、からまる茂みも
ゆがんだ森のモンスターも、お気に入りなんだ

そうさ、脱線してやらかしたバグだって言われても
決められたルートなんて退屈なんだ
一緒に逃げてきたこの場所でずっと、のんびりしてよう
大丈夫、うまくいくさ

平気さ、なんとかなるよ
大丈夫、きっとうまくいくさ

致命的に間違ってるけど、平和なもんさ
今は少しだけ時間を止めておいてよ、ここにいたいんだ

心配ないよ、大丈夫、きっとうまくいくさ


ゲーム用語あれこれ

歌詞で特徴的なのは、何と言ってもゲームにまつわるワードが散りばめられていること。ちなみにここでのゲームとは、歌詞の中に「バグ」(意味については後ほどふれます)の用語が出てくることから、ボードゲームではなく、ビデオゲームやスマホゲームを指しているんだと思います。

ゲームは詳しくないのですが、RPG(ロールプレイングゲーム)で遊んでいた子供の頃を振り返りつつ、和訳に使ったゲーム用語について少し補足を。

最終ステージ
내 눈 앞으로 다가온 ending
僕の目の前に近づいてくるエンディング

◎通常、ゲームのエンディングと言えば、最後の敵を倒した後にあらわれるイベントやメッセージシーンのことかと思います。ただ、曲の中で主人公はまだ最後の敵を倒していないようなので、ここではエンディングではなく、「最終ステージ」と訳しました。

ラスボス
자, 최종의 보스 두려운 마음은 뒤로
さぁ、最後のボス 怖い気持ちは後にして

◎最後のボスは最終ステージで対峙するボスキャラ=ラスボスのことかと。

イースターエッグ
숨어있는 Easter egg, yeah baby I'll find that
隠れてるイースターエッグ、よし ベイビー、僕がそれを見つけるよ

◎イースターエッグは主に欧米で使われている用語で、ここでは裏技や、隠しコマンド、隠しメッセージなどを指しています。

ステータス
모든 무기를 버리고 스탯을 포기한대도
武器は全部捨てて、ステータスを諦めたとしても

◎ゲームのキャラクターが獲得したレベルや経験値、スキル、HPなどの状態を総称して、ステータスと呼びます。

勇者
네가 영웅이 되고 난 이제 괴물이 될게
君が英雄になって、僕はもう怪物になるよ

◎一般的にはヒーローと訳される英雄ですが、RPGで有名な『ドラゴン・クエスト』の海外版では、キャラクターのひとつ「勇者」の表記がHero ヒーローであることから、ここでは英雄を「勇者」としました。

ジョブ
지루한 역할을 벗어나 서로가 되게
退屈な役割を抜けだすよ お互いがかわるために

◎前述の「勇者」のような、各キャラクターに指定される役割や職業(魔法使い、商人など)のことを、ゲームではジョブと呼ぶため、退屈なジョブと言い換えました。

ここで歌詞原文に添えているのは直訳です

イースターエッグのふたつの意味

さて、先にも少しふれたゲームの「裏技」について。韓国語にはどうも、裏技を指すそれらしい言葉がなさそうなんです。だからイースターエッグを用いて、意味がわかるように「隠された」と加えたのでしょうか。

でもパンPDのこと、意味があって、”隠された”と”イースターエッグ”を持ち出したのではないかと。そこでイースターについて調べてみました。

イースターは古代ゲルマン神話の春の女神の名前「Eoster(エオストレ)」に由来するとされています。これは、イエス・キリストの復活と、春を象徴する女神のイメージが共通するからとされており、イースターには春の訪れを祝うという意味も含まれています。

イースターとはいつ・何をする日?

これね、なんだか『Blue Orageade』や『0x1=LOBESONG』の歌詞が心に浮かんできます。Blue Orageadeでは「冬が終わるように、君が僕の花を咲かせて欲しい、凍える僕を溶かして欲しいんだ」。0x1では「凍てついていた僕の心を溶かしてくれる、唯一の温もりが君」だと胸の内を伝えています。

これらの文脈から、心の冬を溶かしてくれる僕の春の女神が誰なのか、ここではまだ隠されていた=本当の春の女神の存在にまだ気づいていなかった、とも考えられそうです。

「隠れたイースターエッグは僕が見つけるよ」が、春の女神は僕が見つけるよの意味ならば、「ACT: SWEET MIRAGE」ラストのサプライズソングを思い浮かべると泣けてきちゃう。そんな隠しメッセージなのです。

なにか怪しい、”脱線したエラーの中のバグ”

さてさて。他にも、隠しメッセージが隠されているのではと、気になったのが、歌詞の後半で登場するこのフレーズです。

탈선된 오류 속  버그라 불러도
脱線したエラーの中のバグと呼ばれても

バグ(bug)には「コンピュータのプログラムにひそむ欠陥」の意味がありますが、「脱線」や「エラー」も、厳密には違っているけれど似たような意味ですよね。同じような意味の単語を重ねたフレーズ…何かひっかかります。あれこれ考え、以下のふたつの意味があるのではと推測しました。

1. 歌詞に沿ったストーリー

主人公は隠れたイースターエッグ(=裏技)を見つけ出し、本来ならダンジョンから移動することができないお祭りのステージへとワープします。

このお祭りステージでは、獲得した武器やレベル、経験値などがぜんぶ失われてしまう代わりに、敵キャラ(モンスター)になることもできる、楽しいお遊びのステージです。

ただし、「脱線したエラーのバグ」と指摘されていることや、歌詞の次のフレーズ「決められたルートなんて退屈」と言っていることから、「お祭りステージ」はゲーム内に元々用意されているものではなく、プログラムのミスやエラーをついた裏技でしか出現しない、欠陥ステージだということではないでしょうか。
※そこから日本語訳は「脱線してやらかしたバグ」と言い換えてみました。

2. あのストーリーのネタバレ予告

bug バグ」には、実はもうひとつ、別の意味があります。それは「隠しマイク」です。そこから、”隠れたイースターエッグ”は何だろうと探してみたのです。

正しいルートを脱線したエラーの中のバグと呼ばれても」を英語に置き換えてみました。

Even if they call us a bug in error that derailed the correct route

ここから、アナグラム(単語や文の中の文字を入れ替え、全く別の意味を持つワードをつくりだす言葉遊びのこと)的に、文字をいくつかピックアップして並べ替えてみます。

すると浮かび上がってくるのは・・・

dragon destroys ドラゴンが破壊する

なんと、トゥバの初のアニメーションストーリー『The Dome's Night』(公式YouTubeにて2021.4公開)や、彼らのアナザーワールドである『The Star Seekers 』(WEBコミックやWEB小説として現在「LINEマンガ」で展開中)のストーリーの予告が、すでに織り込まれていたのですね。。。

名作映画から見つめるモンスターの存在

ところで、歌詞を訳していて、ふと思い出した映画があるんです。
ひとつは、名匠ビクトル・エリセ監督によるスペイン映画『ミツバチのささやき』。映画の前半にこんなシーンがあります。

ミツバチのささやき

主人公の幼い女の子アナは、街の公民館で姉といっしょに映画「フランケンシュタイン」を観ています。

その映画の中では、博士が助手に「こんな危険な怪物(フランケンシュタイン)は壊そう、危険だ」と説得を試みますが、助手は反発します。「危険? 未知に挑まずして何の研究です? 雲や星の彼方を見たいと思わないんですか。なぜ樹木は育つのか、なぜ夜が朝になるのか。これらの問いのひとつでも明かしたい。永遠とは何なのか。気狂いと言われたって私は平気です」と。

その後、彼女が見ている映画の中では、フランケンシュタインが見知らぬ女の子と池に花を浮かべて無邪気に遊んだ後、(遊びの延長で)彼女を死なせてしまいます。

アナは姉のイザベルにたずねます。
なぜ怪物はあの子を殺したの?、なぜ怪物も殺されてしまったの?」と。

映画『ミツバチのささやき』より

かいじゅうたちのいるところ

ふたつめは、奇才スパイク・ジョーンズが監督した映画から。モーリス・センダックによる原作の絵本は世界中でロングセラーになっています。私は絵本のほうは読んでいないのですが、映画を観てサントラCDと小説版も買ってしまったほど大好きな映画です。

感受性豊かで繊細な幼い主人公のマックスは、自分の居場所を探して、かいじゅうたちのいる世界へと逃げこみます。彼らと無邪気に遊ぶ場面では、こんなセリフを言っています。

「永遠にここにいたいな」。

映画『かいじゅうたちのいるところ』より

この曲の歌詞にも同様のフレーズが登場していましたよね。

ちゃんと大人にならなきゃ上手くいってるとは言えないの?
僕は永遠に今の(少年の)ままでいたいのに。

トゥバの「Blue Orangeade」のMVには、絵本「かいじゅうたちのいるところ」でマックスが乗ったヨットに似た、船の絵が壁に飾られています。

余談ですが、既存の常識を打ち破るようなコンセプトの映像作品を生み出してきたスパイク・ジョーンズに、パンPDは共感と尊敬の念を持っているように感じます。

「Nap of a star」や「The Dream Chapter: Magic」「The Chaos Chapter: FREEZE」のコンセプトトレーラー、「Eternally」のMVなど、トゥバのこれまでの物語のさまざまな場面に、スパイク・ジョーンズの過去の映像作品(MVやCMなど)がモチーフとして多数取り込まれています。

メアリーのすべ

さらにもうひとつ。ミツバチのささやきでアナが見た映画『フランケンシュタイン』の物語を生み出したのは、18~19世紀のイギリスに生きた女流作家メアリー・シェリーです。その彼女を描いた映画『メアリーの総て』では、彼女の初の長編小説フランケンシュタインを、すでに有名人だった詩人の夫パーシー・シェリーにみてもらうシーンがあります。

夫パーシーは、メアリーの作品を読んで絶賛しますが、物語の主人公は怪物ではなく、読み手が希望を持てるような「天使」に変えてはどうかと提案します。

それに対して、メアリーはこう言い放ちます。
あなたに希望と理想の何がわかるの? 現実を見て。この惨めな現実を

映画『メアリーの総て』より

フランケンシュタインもかいじゅうも、現実世界にいる生きものではなく、大人の目から見れば、悪や危険な存在の象徴みたいなものです。

ところが、「ミツバチのささやき」で幼いアナには、そもそも「怪物=悪である」という固定概念がまだありません。純粋な好奇心から、どうして怪物を殺さなければいけないのと、本質を突いた問いを投げかけています。

一方「かいじゅうたちのいるところ」でマックスは、心のざわめきから、辛い現実を抜け出し、ネバーランドのような、かいじゅうたちのいる島を見つけて、そこでずっと遊んでいたいとつぶやきます。

またメアリーは、希望も理想もない現実こそが「フランケンシュタイン」のメッセージなのよと夫にうったえています。

「モンスター」とは、いったい何ものなんでしょう・・・。

心の色眼鏡をはずしてみると、架空のキャラクターとしてだけでなく、隠された5人の物語が見えてくる気がしませんか。

ちょっと唐突ではありますが、この記事はここまで。これにて終わりです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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