猫の爪〈◇イヴ〉

こちらの流れをお借りしています。ハロウィン時間軸はソルシエールさんとお別れした後です。

▼お借りした方
ルーミィちゃん、ミィミちゃん、スティさん
ガラドさん


 鬱蒼とした森の中を特に目的もなく歩いている。大会が始まった時からマップなんて殆ど見ていないものだから、今どこを歩いているのか見当もつかない。対戦相手を見つける以外の目的がないのでそこまで悲観もせず、腕の中で揺られているご機嫌なニャスパーを眺めては度々和まされているだけだ。
「あの、すみません」
 声をかけられ振り返ると、控えめそうな表情をした女性が立っていた。穏やかそうな声色や人の良さそうな顔つきが何とも騙されやすそうな危うさを持っているようにも見える。友人だろうか、傍にはゴロンダの着ぐるみを着た人間も立っていて、頭の上には女性と揃いの衣装を身につけたガラルのニャースがちょんと乗っかっており、やけに顔つきが特徴的だった。
「バトルオアトリート。対戦相手を探していたんです。よければ一戦如何ですか?」
「そりゃ嬉しい、こっちも丁度対戦相手が欲しかったところさ」
 ルーミィと名乗った女性が提示したスイーツチップの掛け数は三十。ますます良い。レイズ(ソルシエールのエネコロロ)に寄ってもらってからツキが回ってきたのか、対戦相手に恵まれるようになった。
「アタシのことはイヴでいい」
「はい、よろしくお願いします!」
「で、そこの着ぐるみのお友達は応援かい?」
「あ、あの、ガラドさんはお友達というより……」
 イヴがゴロンダの着ぐるみに目を向けると、ルーミィがもにょもにょと何かを言いかけている。突然照れ臭そうに目を伏せ、ほんのりと頬が赤らむ姿を見てすぐに察した。
「あぁ、分かった。無理に言わなくていいよルーミィ」
「えっ、分かったんですか……!?」
「女の顔は見ればすぐに分かるさ。そうと分かりゃ、恋人の手前で恥ずかしいバトルはできないねぇ」
 『恋人』という言葉にますます顔を赤くさせるルーミィの初々しさが可愛らしくて、イヴは腕を組んで笑む。ガラドと呼ばれた青年の方は着ぐるみを着ているので表情は見えなかったが、大切に想う相手がこんな風に照れている姿を見るのは嫌とは思っていない筈だ。
 ルーミィが平常心を取り戻すのを待っている間、ピニャコラーダがガラドの手にある奇妙な顔のポケモン風船に興味を示したようで、イヴの腕から離れて彼の足元まで駆け寄る。
「欲しいん?」
「にゃぱ!」
「ほら、離すんやないで」
 着ぐるみから聞こえた声は低く、独特のイントネーションだ。コガネ弁というやつだろうか。おもむろにしゃがんでからピニャコラーダに風船を手渡そうとすると、彼女も着ぐるみに飛びついて登り始める。頭頂部まで登ると先に乗っていたニャースに手を上げて挨拶をし、改めて手渡された風船を持って満足そうに鼻をふすふすと鳴らしていた。
「またこのパターンなん?」
「悪いねぇ、ピニャ……うちのはじゃじゃ馬姫なのさ。頭は重くないかい?」
「構へん、こんくらい大したことないわ」
「ミィちゃん、良かったわね。新しいお友達ができそうで」
 同じくピニャコラーダに手を上げて挨拶するニャースを眺めてから、ルーミィは笑みを浮かべたままイヴの方へと向き直る。その手にはスーパーボールが握られている。
「あの、私はこの子で行きます」
 投げたボールからは金属音を鳴らすレアコイルが飛び出してくる。よく見ると一体だけ体のネジが三本マイナスのネジという少し珍しい個体である。
「レアコイルねぇ……」
「スーちゃん……スティって言います」
「なら、アタシはこの子だ」
 手に持ったダークボールを投げ、スティと対峙するように現れたのは寸胴で肉付きの良い体型のとらねこポケモン。どっしりと無言で立つ姿は堂々としていて自信に満ち溢れている。
「ブニャット……」
「マティーニさ。言っとくけど、タイプ相性とかで手を抜いている訳じゃないよ」
「大丈夫です、あなたはそんな人じゃないって思っていますから」
 ルーミィは真っ直ぐイヴの目を見て言う。目を閉じているように見えるので本当に見えているのかは定かではないが、イヴは彼女をしっかり目が合っていると確信していた。目と目が合ったら……というトレーナーとしての性なのか、こうして対峙するとまだ始まってもいないのに程よい緊張感と高揚感が伝わってくる。
 しかし、そのバトルもこの後すぐに始まるのだ。昂るであろう熱に期待しながらイヴはヒールをカツンと鳴らす。
「さぁ、行くよルーミィ。マティーニ、思い切り暴れてやりな」
 主人の言葉にマティーニの毛が逆立ち、戦闘態勢へと入った。


*ルーミィちゃんからのバトルをお受けしました。

■使用ポケモン
マティーニ(ブニャット♀)
※詳細はエントリーシートをご参照ください。

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