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あるオタクの劇場版ウマ娘初見感想(仮)

※この文章には、「劇場版ウマ娘プリティーダービー 新時代の扉」のネタバレが含まれています。最低限に留めてはいますが、明確にネタバレです。
また、非常に偏った意見であり、否定的な内容も含まれます。
ご理解の程よろしくお願いします。


私はウマ娘のオタクです。最推しはマンハッタンカフェで、01世代の子達が好きです。一番好きな競走馬はマンハッタンカフェ号です。
文章を書くのはあまり得意ではありません。

ガチャだけ回そうとリリース初日に始めたゲームのSRサポカのエピソードでマンハッタンカフェのことが好きになり、彼女の育成実装を心待ちにしながらゲームをする日々が始まりました。(勿論、実装以降も楽しくプレイさせていただいています)
彼女を好きになったことがきっかけで初めて競馬の歴史に触れ、マンハッタンカフェ号のことが大好きになりました。
彼とジャングルポケット号の年度代表馬表彰から春天にかけての因縁*を知り、競馬のドラマはこんなに面白いんだとすっかり虜になってしまいました。
今はウマ娘の枠組みを超えて、競馬の中にあるドラマも追いかけるファンになっています。

そんなオタクの感想文です。


カフェがいる01世代の、ポッケが主役の映画ですから、新時代の扉は告知が出た時からずっとうんと楽しみにしていました。
初日の朝イチの回を予約して、勢い余って映画館が開く10分以上前に到着してしまうハプニングがありつつも、無事に視聴させていただきました。
あまりにも素晴らしい内容の、最高の作品だったので、

マンハッタンカフェを好きにならなければよかったと思いました。


新時代の扉は、競走馬ジャングルポケット号を元にしたキャラクター、ウマ娘のジャングルポケットが最強に至るまでの物語です。
アニメ2期やRODE TO THE TOPとは異なり、とある競走馬が生きた時代の話でも、特定の世代のクラシック三冠を描いた作品でもありません。広告では三冠軸にしか見えませんが……。
そして、この作品の主役はポッケであり、ヒーローはフジキセキ、ヒールがタキオン。ヒロインはフジキセキとタキオンで、ライバルがダンツとオペラオーという役割構成になっています。(主人公を救う役柄をヒーロー、主人公が救う対象の役柄をヒロインとするのであれば、こうなると思います)

この時点で、私は大きな思い違いをしていました。
宣伝でクラシック三冠が題材だと言っているから、メインキャラに据えられているから、声優さんが主題歌を他の3人と一緒に歌っているから、個別のキャラクターCMが用意されているから……たとえ世代を描く物語でなかったとしても、菊花賞がホープフル皐月ダービーJCより軽い扱いだとしても、きっとカフェはダンツ達のようなライバルという役柄で登場するものだと思っていたのです。


この作品の最大の特徴は、描きたい内容をぐっと絞り、本筋から外れた表現を大胆にカットした構成です。
従来のウマ娘であれば蛇足じみていたとしても描いていたであろうエピソードを大幅にカットした分、実際に描かれるストーリーは研ぎ澄まされ、鋭く濃密な仕上がりになっています。

今まではオーラのみで表現されていた覚醒ウマ娘の走りも、ゲーム内の固有スキルカットインを彷彿とさせる演出でリッチかつドラマチックに描写されています。
ポッケがトウィンクルシリーズを志すきっかけになった弥生賞のフジキセキの末脚や、ホープフルから皐月賞でより痛々しく眩く鮮烈な表現がされたタキオンの超加速、オペラオーの一瞬で圧倒的な輝きを放ち全てを飲み込む豪脚、恐怖を克服し完全に覚醒したポッケの直線一気……どれも演出単体で涙がこみ上げてくる程の完成度でした。

その代わり、G2レースをはじめとした本筋への影響が薄いレースは、そもそも描写しないかダイジェストになっています。菊花賞に至ってはCMで流れたシーンに数カット足したものが全てです。

勿論このG1間の描写格差には明確な意図があります。
劇場版のポッケはオーラを纏ったダンツとの激闘の末にダービーを勝利したものの、自分の数バ身先にいるタキオンの幻影を差し切ることができず、自分は最強になることなんてできないという絶望感と恐怖に心を支配されてしまっていたのです。
夏合宿の間もトラウマを克服できなかったポッケは、今までのように楽しんで走れなくなってしまったまま菊花賞にに出て、タキオンの走りに対する恐怖心に囚われたまま実力を発揮できずに(カフェに)負けてしまいました。
菊花賞は、ポッケの精神状態を描写するためのシーンなのです。そのため、カフェが勝つシーンこそ描かれていますがレースよりも現実世界のタキオンの挙動に意識が向く構成の回想・リプレイシーンとして描かれています。実際のレースでの天候とは異なる真っ暗な嵐の中のカットが複数あるのも、ポッケの心象風景ということなのでしょう。

つまり、菊花賞にはダンツとのライバル関係が描かれたダービーのような地下バ道でライバル同士視線を交わし合うような熱いシーンも、レース終盤の激しい鍔迫り合いも、強者であることを示す固有スキル描写どころかオーラ描写すらも、一切合切存在しなかったのです。
私が心の底から楽しみにしていた、JCで終わるとしてもこの描写だけはきっとあるだろうと期待していた、菊花賞でポッケとカフェがライバルとして全力で競い合う熱いシーンはありませんでした。
このレースのみでポッケとカフェをライバル関係だと言い張るのは流石に無理があるでしょう。
日常シーンでもポッケとカフェのライバル的な絡みは皆無のため、史実もゲーム内シナリオも知らない方に至っては、そもそも2人がライバルであるということすら認識できないと思います。

求めていたにも関わらず、ラストのシーンで急にライバル顔をして登場するカフェに強烈な違和感を覚えるほどには、この作品でのポッケとカフェは、メインキャラの中でこの2人だけが、ライバルではなかったのです。


舞台組を見る限り、ポッケやダンツの育成ストーリーはこの劇場版が基準になると思います。
一応この作品にはノベライズが控えていますが、描写したい内容が内容のため、ダンツの描写の追加はともかく、カフェのライバル描写には一切期待ができません*。
強敵として描かれるライバルのカフェが描かれる機会は、ここで完全に失われてしまったと言っていいでしょう。

一番楽しみにしていたポッケとのライバル関係が失われたことで、これまでゲーム内で殆ど描写されてこなかった強くてかっこいいカフェが描かれる機会も半永久的に失われてしまったことが、私がウマ娘と競馬を愛したきっかけだけが取り残される形で映画が終わってしまったことが、私は辛くて悲しくて仕方がありませんでした。
この感情がノイズになってしまって、フジキセキがポッケの輝きを取り戻す為だけに勝負服まで着てもう一度本気のレースをしてくれるシーンも、オペラオー達との激闘の中でトラウマを乗り越え完全に覚醒するポッケも、ポッケに置いて行かれたくないと思ってしまい本能のままにレース場を飛び出して狂走するタキオンも、全力では楽しめなくなってしまいました。


とても熱くて泣けて最高の映画だったのに、名シーンを盛り上げるために必須だった僅かな表現が気に入らないなどという理由で、もう1人の自分に水を差されるような状態になってしまいました。

こんな思いをせずに、心からこの映画を楽しむことができたらどんなに幸せだったことか!

そう思ってしまうほど素晴らしい映画だったからこそ、私はマンハッタンカフェを好きにならなければよかったと思ったのです。










因縁*とは
年度代表選定時点のジャンポケとマンハッタンはクラシックと対オペラオー戦で1冠ずつ取っているという点では対等な立場で、お互いの対戦はカフェが1勝。ですが記者投票の結果は圧倒的大差でジャンポケが最優秀3歳牡馬と年度代表馬に選ばれることになりました。 マンハッタン陣営はダービーと菊花賞及びJCとグランプリレースの格差を見せつけられる形となり悔しさをバネに春天を勝つことで長距離三冠を獲りに行くことを決意。ジャンポケ陣営は最強と認められたものの負け越しているマンハッタンを倒し真の最強に至るために春天を目標に定めました。結果はマンハッタンの勝利で、その後リベンジの機会なくマンハッタンが勝ち逃げをする形になります。 世代最強であるジャングルポケットが勝ち逃げを許したもう1頭こそがマンハッタンカフェであり、マンハッタンカフェはジャングルポケットに勝ちながらも最強の称号を奪われたという関係性なのです。これを因縁と呼ばずにどうするのか!

ノベライズについて*
今作のノベライズはよくある劇場版ノベライズとは異なり、中盤以降の構成を変えた内容になっています。その影響で、全体的な心理描写の追加だけでなく、菊花賞のレース風景や強敵としてのカフェの描写が奇跡的に追加されていました。
ジャパンカップに出走する99世代の描写も追加されており、全体的に各キャラがライバルとして存在する理由がわかりやすくなっています。カフェ関連の描写を抜きにしても、個人的にはノベライズの展開の方が好みでした。
ですが、映像で強敵としてのかっこいいカフェを観ることができる機会が失われたことに変わりはありません。

ポッケ育成について*
JCまで待たされると思っていましたが、実装されましたね育成版ジャングルポケット。
映画とは全く異なる内容と切り口で描かれる、烈光のようにしか在ることができない01世代の物語でした。とても素晴らしい読み物でした。
一般的な指名交換チケットでは入手できない実質ガチャ限キャラとのことなので、性能ガチ勢ではなく育成ストーリー目当てでゆるく遊んでいる方も、懐に余裕があれば今のうちに引くことをオススメします。
ですが、カフェの描写が雑に影の薄いウマ娘であることのみを強調するだけの内容で(強さの描写はエネミー性能を盛ることで誤魔化されていました。挙句クラシック有マと春天で弱体化……)、他キャラと違い1人だけライバルらしさ皆無だった点のみが個人的にはノイズで不満点でした。それ以外は最高です。この辺は劇場版の感想と大して変わらない感じですね。作品全体としては本当に最高でしたよ。

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