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アニメ「葬送のフリーレン」放送開始。この物語が描くのは、

この物語の始まりは、とある冒険の終わり。
王都への帰路に着くのは、魔王を退け世界に安寧をもたらした勇者一行。

この物語が描くのは勇者が魔王を倒すまでの道のり、ではない。
戦いを終えた勇者たちのそれから先、長く続く人生の話だ。

勇者一行のひとりであるエルフの魔法使い、フリーレン。
彼女がいつから存在し、どれだけの時間を生き続けてきたのかは誰も知らない。
ひとつだけ言えるのは、人間よりも遥かに長い時間を生きる彼女にとって、魔王を倒すまでの10年間の冒険は、ほんの短いひとときに過ぎないということ。

感情に乏しい表情で居続ける彼女は、これから先の人生に尋ねられ、こう答える。
100年くらいは周辺諸国を巡り、魔法の収集を続ける、と。
人間の人生よりも長い時間を、まるで散歩に行くかのような口ぶりで。

この物語が描くのは勇者たちが世界を平和にするまでの日々、ではない。
戦いを終えた魔法使いの、人間の人生よりも遥かに長い人生の話だ。

そうして物語は――50年後、再び動き始める。

勇者たちと再会した彼女は、50年前と一切変わらぬ姿でいて。
しかし人間は違う。そこには老いぼれたかつての勇者がいた。
あの頃と同じように一週間かかる道のりへと気軽に誘い出すのだ。

そうしてかつての勇者一行は最後の旅に出た。
かつての記憶に想いを馳せ、感慨にふける勇者の言葉が意味するものを、彼女はまだ知らなかった。

そうしてかつての勇者は、その寿命を全うして安らかに眠りについた。
その別れの際に、彼女は静かに涙を流す。
そして初めて知る。最後まで勇者のことを何も知らなかったのだ、と。
何故なら、たった10年ともに旅をしただけなのだから、と。

人間の寿命は短いのだと知りながら、なぜもっと知ろうと思わなかったのか、と。

この物語が描くのは勇者が魔王を倒すまでの道のり、ではない。
勇者たちが世界を平和にするまでの日々、でもない。

戦いを終えた勇者たちのそれから先、長く続く人生の話だ。
戦いを終えた魔法使いの、人間の人生よりも遥かに長い人生の話だ。

フリーレンは勇者の死後、世界を巡る旅に出る。
彼が各地に残した足跡と、そこに残された思い出を辿りながら。
世界からも忘れ去られつつある過去を胸に秘め、彼女はその背中を追い続ける。

その旅路の果てに、いつか彼の言葉の意味を、彼という存在を理解できることを願って。

「葬送のフリーレン」。この物語が描くのは涙の理由を探すための、あまりにも遅すぎる旅だ。

全てが過ぎ去ってしまった世界を生き続ける孤高の魔法使いが、ほんの僅かな時間に過ぎない勇者たちとの日々が――何故こんなにも、心の中に残り続けるのかを知るための旅だ。


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