第3話 『少女の物語の開幕〜勇者の幼馴染は小説家になりたい〜』

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♢

「護衛?」

「そうです」

シャーロットの発言に、盗賊たちは顔を見合わせる。一番最初に口を開いたのはティオだった。

「護衛は……その……シャーロットにはいらないと……思うんだが……」

至極もっともである。

盗賊たちの目の前でシャーロットは図体のでかいデイビッドを吹き飛ばしたのだ。
しかしシャーロットは首を横に振って、薄く笑う。

「わたしは、女です。わたしは一人でスタート時点に立てません」

その発言を受けて、おろおろとしたのはデイビッド。馬鹿でかい体を縮こませて、何故かハンカチを差し出している。
デイビッドは今でも赤ちゃんは天の国からコウノトリが運んでくると思っているし、付き合ったらしたいことは手を繋ぐこと。
無垢で、今どき子供でも夢見ないような純粋な恋愛を求めている。───デイビッドにとって、男女とは平等なものなのだろう。

他の盗賊たちは、少しバツが悪そうに下を向く。
男尊女卑である世界の理を、そういうものだと受け入れて疑問にも持たず生きてきたのだから。

「わたし怪力ですし、怪我しても舐めとけば治りますから…冒険者に向いていると思います。全員でパーティを組みたいです」

「シャーロットちゃん…」

茶化すようにシャーロットは笑うが、盗賊たちは笑わない。笑えない。ははは───と乾いた笑い声がだんだん萎んでいった。

「わたし、小説家になりたいんです。本を書きたい。死にたくないんです。私の生きた証を、どうにかして残したい。忘れられたくないんです」

今まで聞くばかりであまり自分のことを話さなかったシャーロット。

盗賊たちは息を飲みながら聞いている。

「でも女は本を書いちゃいけませんから。………冒険者になって、まず名を轟かせるんです。それから本を出すとすれば読みたがる人の方が多くなって、反対意見を捻じ曲げられるかと思うんです」

「……」

紙とペンさえあれば、盗賊たちはいつだって文字を綴ることができる。それを持っていけば、上手くいけば本になるかもしれない。男だから。
けれどシャーロットは、そんなことすら許されない。女だから。

危険と隣り合わせの冒険者になって、知名度を上げなければ本を書けない時点で、大半の女性は条件を満たすことが出来ない。
しかも知名度が上がったとしても、本を出版できるかどうかは微妙。

あまりにも不平等で、けれどシャーロットには不平等を無くすことは出来ない。だから。


「だから手を貸してください。わたしはあなたたちを雇うから、たとえ牢屋に入っても出てきたら絶対に仲間にするから、あなたたちは女であるわたしをスタートラインまで連れていってください」


真っ直ぐ盗賊たちを見据えたシャーロットの目は、眩い光を宿している。

不平等だとか、可哀想だとか、そう色々と思って同情したはずだった。けれど、その目を見た瞬間、ああ、と心が理解する。
シャーロットにとって、不平等だとか、そういうのはもう乗り越えた問題なのだろう。そんな前提のある世界で、それでも本を書くために、嘆くより行動しようとしている。

キラキラと、夢を抱えて輝くその目を見てしまったら、求められてしまったら、もう振りほどくことは出来ない。

盗賊たちはごくりと唾を飲み込んで、目線を合わせ合い、そして頷く。
盗賊たちは暗い表情を吹き飛ばして破顔する。否、もう既にそこにいるのは盗賊たちではなかった。
メリル、ティオ、ロビー、デイビッド、スウェン。シャーロットの仲間たちだ。

「これからよろしく、シャーロットちゃん♡」

「……シャーロット………ありがとう」

「俺らに任せろ!絶対にこの恩は忘れねえ!」

「シャーロットの夢が叶うところまで、連れて行ってやるよ!」

「……(うんうん)」



───シャーロットと、その仲間たちの出会い。
この先何年も、何十年も、冒険者を辞めたその更に先の未来まで続く縁になるとは。
まだ、誰も知らない。




#創作大賞2023

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